第13話「金を稼ぐ…」

オルニアの岩にて、ラダゴスとの死闘の果て…

勝利を収めて味方部隊の待機地点に一同は帰還した…


その時の戦いによる負傷の手当を兄者から受ける

丸太に座って負傷箇所を呆然と眺めていると、周りからチラチラと私を見る視線がいくつか気になる…

ゆっくりとそちらを見ることにした。


「…本当にそんなことがあったのか…!?」

「あぁ…叫び声といい戦い方といい、獣みたいだったぜ…!」

「敵もよく殺されずにすんだよな…」


新兵達の遠慮知らずな声…せめて言葉くらいは選べないのか…


呆然とした目線でもう片方へ…


「う…嘘は言ってないんだろうね…?」

「誤魔化してどうするのさ…!」

「言っとくけどアイツ…普通じゃないよ…」


アネットを含むソードシスターが3人こちらを見て小さく呟きながら話してた…


全くどいつもこいつも人の事を嫌な目で見てくる…

だが気にする気力も今は無いので…

目線を兄者に戻した。


一段落したように兄者が包帯をキュッと音を立てて結んだ。

「よし、これでひとまずはいいだろう。

どこかまだ痛むところは?」

「強いて言うなら喉ですかね…」

「あれだけの声を張り上げたらそうもなる。

こう言っちゃなんだが…

先程のお前の叫び、ハッキリ言って異常だったぞ?」


自分でも、なぜあんな声を出したのか分からない…

一つ確かなのは…


本気で誰かの死を願っていた事…

今が戦乱とはいえ、私を支配した殺意は狂気と呼んで間違いないものだ…


「まぁ過ぎたことだ…それに、お前がラダゴスに打ち勝ったおかげで俺たちは皆こうして生きて帰れた。

それは変え難い事実だ。

だからこの話はこれで終わりだ…」


「えぇ…」


そうして兄者と話しているところに、イザベラが歩いて向かってくる。


「盗賊の頭から話聞けたよ」


その声に反応した兄者が膝に着いた土をはらいながらイザベラの方を向いた。


「手間をかけてすまない。

して、ラダゴスの奴はなんと?」


「一騎打ちの時言った通りさね。

一昨日の昼間 人買いのバカが出そうとした金額が安すぎるからってことで、前に売っぱらったとき高値のついた南の奴隷市場に売り込む事にしたらしいよ…ガスターってやつが陣頭指揮取ってるってさ」


「なるほど、人質が全くいなかったのは既に馬車に積まれたせいか…

おおよその場所などはどうだ?

ラダゴスのやつ何か知らないか?」


「それも聞いといたよ。

詳しい場所は分からないけど、この時間ならもう

経由している西帝のオルティシア近くまでたどり着いてる頃だってさ」


「なっ!この短時間でそんなところまで行くのか…!」


オルティシア…旧帝国時代から最西端の都市にして、最強の名に最も近い列強…

ヴランディア王国との国境でもある地域だ…


ここからだと、どれだけ馬を飛ばそうと5日はかかるであろう遠方…

その距離を複数人のしかも馬車もちの隊列で3日という驚異の移動速度で走破したという。

盗賊共は空飛ぶ馬にでも股がっているのか…?

そんなことを一瞬呆然とする頭で真剣に考えてしまった。


その後、イザベラからの報告をいくつか受け…

「少しばかり2人で話させてくれ」と兄者が告げる。


ーーーー


「…これからどうするべきでしょう?」

少しの沈黙の後に、横で丸太に座りながら、両指を組んだ姿で考え込むような兄者に伝えた。


うん…あぁ…ッチ…全く…

そんな声を漏らしながら、ぎこちなく四方を見る…落ち着きのない表情。

私はこういう時の兄者が何を考えているか知っている…


「レオス…俺たちは兄弟だ…

特に今の様な状況なら、尚更離れるなど論外だと思ってる…」


やはりそう、葛藤している…

兄者は賢い…それ故に自分の考えと理想というものが対立した時によく葛藤する。


合理的な判断をした時においては特にそうだ…

しかしそれと同時に心や想いを重んじる性格が自分の考えを良しと出来ないのだ…


「だ、だからな?

俺が今から言うことに、少しでも納得できないのなら言ってくれていい…

それに対して俺も」


だからこそ…私はそんな兄者の言葉をいつも信じる。


「兄者…

何も気にせず教えてください。

私はどうすれば良いのでしょう?」


私の顔を見てくる…

その顔は優れない、

視線を元に戻し、重たそうに口を開いた


「…まずは二手に別れよう。

片方はラダゴスと共にガスターを追う…」


「もう片方は?」


「…仮に、途上での引き止めが間に合わなかった場合に備え…

2人を買戻すための資金を調達する…

どちらにも俺とお前が1人ずつ必要だ…」


「では、資金は私の方で稼ぎ出します…」


「…宛はあるのか?」


「ありませんが、渋ってる訳には行かないでしょう…

それに兄者の方が私よりも口が立ちます。

ガスター達から取り戻すにしろ、奴隷市場で見つけ出すにしろ…

兄者の方が向いているはずです。

口も頭も使えない私は身体を使って金を稼ぐ方が現実的と言えましょう…」


「ッ!!!!」


兄者が私に頭を下げてきた…


「こんな発想しかできずにすまない…

だが、これ以上どうすればいいかもわからん…

金を稼げと言ったがその方法もお前に任せるしかない…」


「頭をあげてください。

私は私で何とかしますから…」


立ち上がろうとすると…

兄者が両肩に手を添えて首を横に振る。


「すぐはいい…

お前も負傷している…

今は少しでも休んで体力を戻せ。

少なくとも夜が開けるまでは、俺と他のものが周りを警戒しておく…」


簡易的に備えられた寝床まで連れられ、横になる様に促される。

お言葉に甘えて休息する事にした…


仰向けになって目を瞑るその時…満天の空に広がる星の瞬きを目にする…


それから夜が開けるまでの間、泥のように眠った


ーーーーーーーー


朝日が登り、先日勝ち取った戦利品を受け渡したあと部隊とラダゴスを引き連れた兄者が私を見る。


「すまないな、ほとんどの戦利品をこちらで持っていくことになって…」


「私一人では逆に荷物になります。

扱いは任せました」


兄者がコクリと頷き、それと同時に麻袋を一つ私に差し出す。


「お前も先立つものがなければ話にならない。

1000デナルある…

持って行ってくれ」


「…ッ!」


1デナルでさえ貴重な時にそんな金額を私の為に…


「…ありがとうございます」


受け取ろうとしたその時、また兄者に抱きしめられる…


「ッ!?

兄者?」


「苦労かけて済まない…

昨日の夜からお前には何かを頼んでばかりだな…」


「…」


抱き締め返し、この口を開いた…


「金銭は必ず工面します…

ですからどうかご無事で…!」


私の顔を見た兄者が、片手の拳を胸に当ててくる。


「必ず生きてまた会おう…絶対だぞ!!」


そう言い残し、待たせていた部隊と共に…

西へ向かって進んで行った…


その後ろ姿を見送り、私も託されたデナルを握りしめて一度リカロンへ戻る。


その時だ…


「待ちな。

アンタひとりでどこ行くつもりだい?」


「え…あなた達は…」


私の目線の先には、4人のソードシスターたち…

なぜこんな所にいるのか…?


「こんな所で何してるんです?

兄者たちはもう行ってしまいましたから速くおって下さい」


「いやいやいや…

早く追えってアンタね…」


片眉を細め手首を横に振っている…


「あ、あぁ…追加報酬足りませんでしたか?

でしたらすみません。今は支払える額があまり多くないので…」


手元のデナル袋を見る。

これを手放したら1文無しだ…

が、これで納得してもらうしか…


「違うよバカだね…

別に金の無心でここにいるわけじゃないよ」


「え…では…?」


「4人で話したけどね。

アンタみたく誰か差し置いて危険に首突っ込む奴の所なら刺激的な仕事できるんだって思ったんだよ」


「そうさね!

これきりではいサヨナラなんてつまらないじゃないさ」


「それに、アンタ家族の事で怒り狂って大声上げたんだろ?」


「話聞いただけだけどそういうの嫌いじゃないよ?」


イザベラを除き、昨日私を異常な目で見た3人…

今日はとても好意的に見てくる…


いや、それってつまり…!


「ちょ、ちょっと待ってください!

それでは兄者たちが困りますよ!

即戦力のあなた達がいないと!」


「いやいやいやそう言うけどねぇ…

アンタひとりで街とか村での仕事の口利きできるのかい?」


うっ!

グサリと何かが刺さる音がした


「戦利品売っぱらう時の値段交渉は?

知らないと損するよ?」


「他に仲間の伝は?

1人でやるのはさすがにバカだよ?」


「野営も雑務もあるよ?全部できるの?」


ひ…一言も反論できない…!

たしかに今の私が知ってることといえば…

多少の武具の扱いと馬の駆り方くらい…

野営だなんだ、なんの心得もない…!


「他にも…」


「もういいですよく分かりましたありがとう皆さん!

それ以上聞きたくないので皆さんの手を貸してください…」


してやったりとイザベラ達が互いを見合っている…


「ですが…先程も言った通りあまり今は支払いに余裕ありません。

当面の間は割に合わない思いしてもらいますからね?」


その言葉に一瞬みんな顔から笑みが消えてこちらを見てきた…

イザベラに至っては「なんだコラやるのか顔」までしている…


金の話は失敗だったか…!


と思ったが次の瞬間腰に手を当てながら笑みを浮かべたイザベラがこくりと頷く…


「出世払いにしといあげるよ…隊長?」


彼女の声と共に、挑戦心旺盛な顔を見せたソードシスター達が各々、気合いの入れるような所作をしている…心強い…それ以外思いつかなかった。


リカロンの街へ歩を進める。


「まずは酒場で傭兵を集おうと思います。アネット、リーシャ、傭兵仲間たちの声かけ任せましたよ!」


「「了解!」」


「食料も必要でしょうか?

ミラベル、アナタならいくらまで安く仕入れられますか?」


「伝なら知ってるよ、任せな!」


彼女達の声に頷き、最後にイザベラを見る。


「イザベラ…

副官やって貰えますね?」


その言葉に、片手の拳をもう片手で包み込む一礼をしてくる。


「往来隊長。

しっかりサポートするよ…!」


最後に4人を一瞥してもう一度頷き…

目線をリカロンへ向けてあゆみ出す


さぁ、時間はあまりない…

眉間と拳に力が入った…


一時でも早く金を稼ぐ…


全ては…家族を取り戻すために!

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