第9話「戦況、絶望的…」
あの後、人質を探しながら山道を駆け回った。
しかし、奇妙な事に…どこを探してもそれらしい存在を確認することが出来ない。
掘っ建て小屋を蹴破り、テントの中を引き裂くも…出てくるのはネズミか、イザベラ達が仕留めたであろう身ぐるみを剥がされた死体だけだった。
「ここまで探してもいない…どこかに固められてるということでしょうか?」
「その可能性はある。盗賊共はマヌケだが金になる事への抜け目は無いのかもな。
もしかすると…奴らの親玉の元に人質全員集められてる事も有り得る…」
「では…妹たちも…」
「あぁ、ラダゴスの元にいる…」
ならば戦闘は免れない。
今一度この身に気合いを引きしめた…
すると脇の茂みから、イザベラが姿を現した。
「ようやく見つけた!
全く、あそこで待ってなって言ったのに…!」
その身体には、いくつかの軽傷が見受けられる。
敵の何人かから貰ったものだろう。
兄者が、そんな彼女に近寄り、傷口に向け手をのばす。
「負傷してるようだな…手当するか?」
が、その手をイザベラが振り払った。
「いらないよ、この程度の傷よくあるからね。
それより着いてきな。
連中の親玉がいるテント見つけた。
何人か取り巻きもいるから間違いない」
「…兄者、行きましょう!」
「…よし!案内してくれ」
イザベラの先導を受け、獣道を進んで行くと…
開けた所に一回り大きめのテントと数人の盗賊、と中央に、大柄なバッタニア人の姿が見えた。
「バッタニア人の男…父上と母上の仇…!!!」
…あの男だ…あの男のせいで私たちの両親は殺され、アレアとファソスまで攫われた…
殺してやる…怒りで震える手を剣の柄にかける。
が、次の瞬間…兄者がその手を止めてくる。
その顔には私と同じ憤怒を抱えながら、冷静な中で制御している理性が垣間見れる。
「先に妹たちの所在を確認せねば…
だが必ず…我らが討ち取る…
もう少しだけ…
もう少しだけ耐えろ…」
…いや、兄者の手すらも震えている…その怒りも私以上のものだ…こくりいて今すぐ切り捨てに行くのは辞める。
私たちはその手前の茂みで身を屈ませて待機しているアネットの元までいく。
彼女自身も少しばかり負傷箇所が見受けられた。
「アネット、連中の様子どうだい?」
「全く変わらないよ。
強いて言うなら、あの木偶の坊がやかましくバカ笑いしてる声がやかましい位さね…」
「そうかい…
飛び道具で狙えないのかい?」
「そう思ったから狙っちゃいるんだけどさ…
どの角度から狙っても致命傷にならなそうなんだよ…
狙おうとした瞬間取り巻き共の背中に邪魔される。
こっち気づいてるんじゃないかっておもえるくらいにね…」
その言葉を聞いて、兄者が疑問の顔を浮かべる。
「警戒しているということか?
盗賊の首領ともなるとその位の事は常に心がける…のか?」
「流石のシスターアネットの連射型クロスボウでも無理ですか…」
次の瞬間アネットが私に聞いてくる!
「シスターアネット?連射?
アンタ何言ってんだい?」
「弟の勝手な独り言だ。
気にする必要ない…」
ドスッ
「ウッ…」
防具がない肩の殴られると痛い所を軽く小突かれた…
怪訝そうな目でこちらを見る兄者の眼…
これは全て終わったあともお説教かな。
イザベラが静かに口を開く…
「…ごちゃごちゃになる前にあのデカブツを半殺しにでも首に短剣突き立てるでもして、人質の場所はかせるのが1番早いかもね…」
「それじゃあこのまま進んで真後ろから忍び寄る…これで行ったらいい…今ならバッタニア野郎のガラ空きの背中に短剣のお飾りこさえられるよ…」
アネットの狂気的な提案に頷き、それでいいかをこちらにも伝えてくる…
こくりと頷き…周りのものに兄者が告げる。
「……それでいこう…」
そして…妹達の所在が掴めたら背中どころか首に「オカザリ」を私と兄者でこさえてやろう…
茂みから、10人の部隊が徐々に…ゆっくり確実に前進していく。
私がラダゴスを…他のものが周りの取り巻きを捕縛するという事になった…
相変わらず目の前のラダゴスとその一味は何やら楽しそうなお話し会を繰り広げている。
いいぞ…
そのままバカみたく飲む食う騒ぐをやってろ…そ
して全て解決したら…
お前のツケを生命で払わせてやる…
盗賊共はまだ気づいてない…
一歩…一歩と距離を詰める…
…間合いに入った…
今…
「そいつぁやめとかねぇとテメェら馬鹿みるぜ?」
「っ!!!!」
次の瞬間!奴の肘打ちが私の顔面めがけ飛んでくる!
「ぐァ!!」
喰らった!!
無防備な顔面に衝撃が伝わる…!
こっちを見ていないはずなのに、なんで!
振り向いたヤツのニヤけた顔がこちらを見る…!
顔を抑えて後ろに下がった…!
「てめぇらか…俺の根城で好き勝手し腐ってる馬鹿共は…」
それの声を機に、周りの盗賊たちも得物を振るい上げて襲いかかる。
何人かの新兵が対応できずに負傷した。
「まずい!気づかれていた!!全員距離を取れ!!!」
兄者の声に、不意打ちを受けたこちらの部隊が不格好に盗賊達から距離をとるべく後退する。
すかさず、周りの敵が徐々に距離を詰めてきた。
そのまま、対応が遅れ続け…こちらは一箇所の位置に固められる…
立ち上がったラダゴスが、横から大振りの斧を担いでこちらに歩いてくる。
非常に大柄だ…体格も郡を抜いている。
蛮族等と呼ばれるバッタニア人…そいつがズカズカと歩いて全員を見る。
「残念だったなぁ。
テメェらみたくこれまで何回か押しかけてきた連中のおかげで、俺も仲間たちもこういうサプライズは慣れているのさ…」
慣れている…!?
「い…いつからだ?」
「さっき十数頭の馬の蹄が通り抜けずに麓で止まる音が聞こえた…
小休止ならそのまま遠のいて行くはずだが一向に動く気配がねぇ。
野営なら焚き火の煙が上がるはずがそれすらねぇ…
おかしいよなぁどう考えても…」
…最初から読まれている…!
「な、ならば何故迎撃しない…!
麓で殺されたのはお前の仲間だろう!」
兄者が、当然の疑問をぶつける。
しかし、その顔には余裕が無い…
その様子に、ラダゴスがソードシスター達に通ずる笑みを浮かべ、その口を開いた…
「馬鹿だなテメェ…
そんくれぇもわかんねぇ様な飲んだくれてひっくり返るような頭のわりい奴
一々救うほど俺たちは甘かねぇ…
ここは文字通り、力あるやつだけが生き残れる…
テメェらの常識押し付けてくるなんざちゃんちゃらおかしいってもんだぜ…
なぁぁ野郎どもぉ!!!」
ラダゴスが声を張り上げると…茂みの中から、50人はいるだろう大群が現れる。
「クソ!まだこれ程の人数を…!」
「こんな人数と戦わなきゃ行けないのか…?」
「ダメだ…勝てる気がしない…」
武器を構えている新兵達からも動揺の声が響く…
現状の戦力比は10対50以上…
はっきり言って、もう敗北が見えている…
そんな中イザベラとアネットが目配せをして懐から何かを探っている…
その目も諦めてはいない…
まだ何か奥の手があるのか…
「おっと、そっちのソードシスター二人…
何か企んでるならやめといた方がいいぜ?
あらかた、近くにいる仲間を呼ぶ手品かなにかやろうとしてる。
そんなところだろう?」
そんなラダゴスの言葉…
2人が動揺の表情を浮かべている…
「くそ…ッ…」
イザベラのそんな悪態が、こちらの絶望的な状況を決定づけた…
やっと…もう少しで家族を救えるところまで来ていたはずなのに…
続々と周囲に群がってくる盗賊の援軍の姿が、私のそんな意志を嘲笑うだけだった…
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