第8話「SOUZEN!よにんはソード☆シスター!」

違和感を感じた…

返事を返した新兵たちの声に覇気が宿っている…

何より…


「新兵たちの顔つきが鋭くなったか…?」

兄者が首を傾げている。


「アネットに扱かれたのでしょうか?」


その様を頭に思い浮かべる事にした…

瞼を閉じ…

目の前に荒れ狂うアネットが出てくる…


【血走った獣の如き眼で駆け抜けるソードシスターアネット!


その右手には最強の金属、タスマケン鋼で鍛えられた伸縮自在なロングソード!


その左手にはどんな角度からでも射撃可能な連射型クロスボウ!


口から火を吐き!

必殺技の酒ふりかけ火攻め攻撃は!

目の前にいる多くの悪者をやっつける!


そして!

3人の仲間達とひとつになった時!

世界に平和が訪れる!


頑張れシスターアネット!

それ行け!!

SOUZEN!よにんはソード☆シスター!


悪の秘密結社!

ラダゴス盗賊団をやっつけろぉぉぉ!!】


パァァァン!!!!

「ふざっっっけるなレオス💢💢」

「アダぁぁぁぁぁ!!!???」


兄者の強烈な勢いの着いた手甲から繰り出されるデコピン…

食らった眉間がシューと音を立てるようだ…

焼けるように痛い…!

衝撃が強すぎて、屈んだままその場から動けなくなる…

そうした私の目の前に…

仁王立ちした兄者が凄まじい怒りの形相で見下ろしていた。


「家族の窮地にお前と言うやつは…

いきなり目を瞑って静かになったと思ったら訳わからん事ブツブツと…!

しまいには拳振り上げて大声で騒ぎだす…!

己は何しにここに来ている!!!💢」


「あぁぁぁ…!兄者ぁぁぁ…」


そんな私の呻き声に聞く耳を持って貰えず…

兄者は腰に手を当てながら、グルグルと私の周りを歩いて四方八方から叱責による、言葉の矢の雨を降らせ始めた。


「全く頭が痛い…!


なんだ連射型クロスボウ…って、

そんな便利な物あったら弓兵隊などいらぁん!


伸縮自在なロングソードだっとぉぉ?

けっ!

勝手に伸び縮みされてみろ…!

そんな気色悪いもん溜まったもんではなぁい…!


口から火を吐くぅぅ?

得体のしれない!!

化け物でもやるかそんなこと…!」


「すすすす…!すみません兄者ぁ…!

この数時間色々ありすぎて気休めしたかったのです…!

遊び心と思ってついつい羽目を外しすぎましたぁ…!」


「ほんっとに、昔から調子づくと暴走する…!

その間、人が話しかけても上の空どこ吹く風だ…

悪の秘密結社といいラダゴス盗賊団といいもっとマシな名前は思いつかんのか?

全く…何が騒然4人はソードシスターだ!

絵物語の読み過ぎだ…!

少しは自重しろ馬鹿者!💢」


兄者からドぎつい説教を食らってしまった…

こういうことはこれまで結構…


いやかなりあった…


例えば、夜更かしして絵物語を読んでいた時…

今日のように雄叫びを上げてしまった結果…


「何時だと思っている!」

…と父上や母上より先にドヤされた。


他にも、若気の至りで同世代の娘達が川で水浴びをしていた時…

何人かとあの手この手で覗こうと森の中から顔を伸ばしたところ…

目の前にいた恐ろしい顔の兄者から


「情けない!!出歯亀等恥を知れ!!!」


…とげんこつをこさえられた。


ついでにその後、父上からもこれでもかという位お灸を据えられ…

しばらく娘達からも目の敵にされた記憶がある…


どれも実に苦い経験だ…


ただ、先程盗賊の首を跳ね飛ばした後見せていた顔から、私がよく知る兄者の顔に…


不謹慎だが安心してしまう未熟者がここにいる。


「申し訳ありませんでした。それと…

少し安心しました…」


「この不届き者めぇぇ説教食らって安心しただとぉぉぉ…?」


「その…先程剣を握る私を見た兄者の顔を見て…

恐れられてしまったのかと…」


説教した時の怪訝そうな顔が解れ、真剣に私を見つめる…


「…そんな事で大事なお前を見限るわけあるまい。

俺とて、父上と戦地に赴いた時…

剣で敵を串刺しにした。

先程も、お前に先んじて賊の1人を崖から蹴落としている…

むしろ俺の方が失望されたかと、内心焦った…

気丈に振る舞うようお前に言っていた俺が卑怯な手を使った…

お前を抱き起こした時、どの面下げて向き合えば良いか分からなくなってしまった…


不要な迷いのせいで誤解を与えてしまったな…

すまない…」


先程の表情には、そんな意図があったのか…

やはり、兄者の高潔さに私はまだまだ及ばない…


「私の事を考えてくれての事だとわかったので…

すまないなんて言わないでください…!

それよりも、囚われたもの達を助けに行きましょう」


兄者がこくりと頷き、腰に指してる2本の剣のうち1本を差し出してくる。


「イザベラの荒療治には思うところあるが、お前が再び剣を握れるようになったのは心強い…

俺すら追い詰めるその技、頼りにさせてもらうぞ」


その言葉に頷き…しっかりと鞘を掴む。

まだ微かに震えが出るが、振るうのは問題ないだろう。


「全員救いましょう!」


腰元に剣を差す…

そこから兄者が待っている兵士たちに告げる。


「賊は恐らくまだ沢山いる。このあとも気を引き締めて行くぞ!」


そうして、四方に見える松明や焚き火の薄明かりをめざして我々は走り出した。

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