ララ様、万歳!

よし ひろし

ララ様、万歳!

 月曜の朝、都心に向かう電車のホームはいつものように通勤通学の人間で溢れていた。生真面目な日本人らしく、次に来る通勤快速を待って綺麗に列を作っている。そんな人々のほぼ全員が、首を斜め下にかしげ、手に持ったスマホに視線を落としていた。


 そんな中、突然一人の男性が叫んだ。


「ララ様、万歳!」

 三十代ぐらいのサラリーマンらしき人物だ。


 スマホに集中して周りのことなど我関せず、と言った周囲の人々も、さすがにその突然の行動にその男に顔を向けた。

 何事か、一瞬の静寂が訪れる。すると、少し離れた場所から、


「ララ様、万歳!」

 またも叫び声。今度は女性の声だ。二十代と思われる紺のスーツ姿の女だ。


 周囲の視線がそちらに向く。とすぐに、次の叫び。


「ララ様、万歳!」

 制服姿の女子高生。


「ララ様、万歳!」

 顔に汗をにじませた小太りの中年男性。


「ララ様、万歳!」

 この時間帯には似つかわしくないラフなスタイルの長髪の青年。


「ララ様、万歳!」


「ララ様、万歳!」


「ララ様、万歳!」


 気づくと人で溢れたホームのいたるところでこの叫びが上がっていた。


 何が起こっているのかわからないが、非常事態だと悟った人々が騒ぎ始める。しかし、そのざわめきを上書きするように、「ララ様、万歳!」の叫びが急速に広がっていく。

 そして、その叫びがホームを覆いつくしたころ、人々の口から別の言葉が漏れ始める。


「ララ・ライフ、ララ・ライフ、ララ様は我が生活! ララ・ライフ、ララ・ライフ、ララ様は我が人生! ララ・ライフ、ララ・ライフ、ララ様はわが命!」


 一定のリズムに乗って歌うように声を合わせる一同。


『まもなく一番線に快速電車が参ります』

 電車の接近放送が流れても、合唱はやむことなく続いた。


 そのアナウンス通りにホームに電車が入ってくる。電車のドアとホームドアが連動して開く――と、中からも聞こえてくる人々の合唱。


「ララ・ライフ、ララ・ライフ、ララ様は我が生活! ララ・ライフ、ララ・ライフ、ララ様は我が人生! ララ・ライフ、ララ・ライフ、ララ様はわが命!」


 歌を歌いながらも、人々は常と変わらないように行動する。僅かな人が電車を降り、ホームで待っていた多くの人が車内へと入っていく。そうして一連の流れが終わった後も、人々の口からはララ・ライフの歌は途切れることなく続き、新たにホームにやって来た人々にもその歌は伝播していった。



 その日一日で日本は謎の人物、ララ様に征服された。


 ララ様とは何者なのか?


 日本以外の世界はどうなっているのか?


 すべては謎のままだ。しかし、わずかな人数ではあるが、ララ様の影響を受けなかった人間がいた。


 そして、彼らの反攻が始まる。元の世界を取り戻す為の聖戦が――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ララ様、万歳! よし ひろし @dai_dai_kichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ