第4話 自己疑念

 恥ずかしいと感じるより前に、焦りを感じた。すぐに周りを見渡しながら戦闘の体勢を整える。周りの人は僕を変な目で見ているが、気にしている余裕はない。

 怪しい人影はないが、僅かに存在感を感じる。そして、必死に周囲を見回していたその刹那、僕の体は廊下側に吹き飛ばされた。

 体中が痛かった。骨の何本かは普通に折れているのだろう。そんな状態なのに、僕の意識は鮮明だった。

 前を見ると、一人の少女が僕の前に立っていた。おそらく能力者なのだろう。こんな状況なのに、僕は彼女のあまりの美しさに見とれてしまった。


そして、「あんた、何者?」と彼女はナイフのようなものを取り出しながら僕に告げた。


 しかし僕は、「おお、声も魅力的だなあ...」と心の中で思ってしまう。え? 僕ってこんなにやばいやつだったっけ? と自己疑念を抱く。そんなことより返事をせねば...


「僕は⬛⬛⬛⬛だ。」


 周りの人たちに聞こえないぐらいの声で言った。どうせ、これほどの実力者なら嘘をついたところで見抜かれてしまうだろう。だったら、いっそのこと言ってしまったほうがいい。


 彼女は一瞬驚いたような顔をしてから、真剣な表情でこう言った。


「私の名前は凛。本気でいかせてもらうよ。」


 うお! かっこいいなあ! と心から思う。しかし、そんなこと考えている余裕はないだろう。あの子が本気でくるならば、こちらも手加減できない。

 を発動して戦闘態勢に入る。この姿になるのは何千年ぶりだろうか。


 そして、勝負は一瞬で終わった。目の前には倒れている少女の姿があった。

 なに、本気は出していないし殺してもない。念のため動けないようにはしたが。

 前回の会議で能力者は殺すということになっていたが...なんだろう、愛着が湧いてしまったのである。こんなかわいらしい少女を殺すわけにはいかないよな...??


 能力者は普通の人に比べて容姿が美しい。今まで数多の能力者と対峙することはあったが、これほど美しい人と会ったのは初めてである。


 そんなわけで、彼女と対話を始めようとしたが、周りの視線が気になるので、別の場所に移動した。そして、僕は目の前にいる一人の能力者との対話を始めるのだった。

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