いのり
朧
いのり
夜光虫だつたのだらうさみしいといふ言葉だけ浮かぶ液晶
眼球を針千本がつらぬいて知らない駅のホームに降りる
傲慢が染みこんでゐる無防備に腕を晒したワンピースにも
編み上げのうすいサンダルきみの目の高さが十度上だつたこと
品のないラメきらめいて不可侵のフローリングをそつと歩いた
あたらしきちひさきものの部屋にゐて檻に入つた膝をながめる
アリバイのやうに流れて気の毒なきみの作りし八ミリ映画
愛なんて目には見えない棒読みの台詞が意味を浮きあがらせて
汗だくのシャツが脱ぎ捨てられたとき海なら怖いくらゐにしづか
欲しくない望んでゐないそれなのに媚びつぱなしの声帯だつた
地の果てに天使はゐない父になるきみが選んだ肉の果てにも
痩せてゐるからだに楽につぶされる自分の何もかもを祈つた
高尚なにんげんなんてゐないつてショートホープに火を・着信
木の虚を生け贄にして生まれくるたましひなのか キリエ・エレイソン
救はれも救ひもしない朝が来て父へと変はる汚れた肌で
いのりつて名前にしなよ たはごとにきみは真面目にうなづいてゐた
川の字になる寝台へ落とされたピアスひとつのレゾンデートル
絶望と呼んでもいいかにんげんを諦めてきた日日のそれから
別れたと液晶の字を見たときのきつと冷たすぎる山火事
十字架の影に気づけば銀色のナイフを持つていのりの笑ふ
いのり 朧 @tt29
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