月光の下で

いよか

月光の下で

君を求めるように外に繰り出したのは満月の夜だった。

この世界で一人だけの夜。

寝静まったこの街で私は夢を見ていた。

君がいた帰宅路、

君と待ち合わせた交差点、

君の横顔。

月光の下では間違いなく全てが真実だった。

火照った体が熱を手に伝え赤くする。

その手を青白く月光が包みこみ淡く赤紫に光る。

君と一つになれた気がした。


歩き続けて海岸に着いた時のことだった。

ひとりきりだったこの世界に波音が聞こえてくる。


ふたりぼっちの世界が消えてしまった。

ささやき声に似た波音だ。

まるで私がいないかのように、私に消えて欲しいかのように話している。


この世界から目を背けるように月を見上げ手を伸ばすと、確かにそこに君がいた。


私には届かない、

届くわけがない、

この地のどこにもいないのだから。

だからこそ私は君を想うのだ、

私が私だけでいられる夜に君を想うのだ。


されど私の手と君の間のこの数十万キロは埋まることはない。


月光が冷たく繋ぐこの空間を意識すればするほど虚しく思えてならなかった。

この手を包み込んでいた月光が体温を奪っていくのを感じる。

ついに私のままで君と一つになることはなかったと実感した。


そう思う中で月光が夜明けにかき消されようとしていた。

今夜もまたそんな月夜だったのだ。

君がまた消えてゆくのを感じて、私はただただ夜明けを見つめていた。

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月光の下で いよか @Pseudo_iyoka

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