H 少女の思い出
ギィ
よかった。二年経ってもこの扉の音は変わらなかった。
ピアノの位置など細々したものは変わってしまったけど、この音楽室のあたたかさは変わらない。
今日私が所属している高校の吹奏楽部と、
「なぁ菜月。」
私の横にいるのは
「いいじゃん。歌おうよ」
「なんで言いたいことわかったんだ?」
「私は君の彼氏なんだよ?」
私を真っ直ぐに見つめる瞳がスポットライトのように眩しい。その輝きが嬉しいけれども、私は彼に照らしてもらえるような存在なのだろうか。私はそんなふうに考えてしまう。
私がのってしまった手前弾くしかないが、正直言って気が重たかった。
「菜月?最近大丈夫か」
「いやぁね、なんの曲を弾こうか悩んでたから」
「それならいいが... ...」
彼は自分がスポットライトだから、自分を照らすことを知らない。いつもきれいな歌声を聞かせてくれるのは、私だけだった。
照らしてくれる彼も大好きだが、私は勇も輝いてほしい。
いつもソロを譲ってしまっているけど、与えられた楽譜は完璧でソロも振られれば吹けるのにいつも他人を思っている。
「もっと自分に自信もってよ」
届いてほしいけど、ほしくない思い... ...。
「菜月、ごめん」
そんな思いを消し飛ばしたくて、私は奏でる。
ひどく悲しくて切ない和音が鳴り響いた
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