第11話 秘め事
私がその気持ちをはっきりと自覚したのは、
物心ついた時には既に持っていた。但し、それは所謂家族愛というものだろう。お兄ちゃんは、それはもう目いっぱいに私のことを可愛がってくれた。沢山遊び相手になってくれて、私が虐められていると気づいた時には烈火の如く怒って加害者へ殴り込みにいった。……結果、ボロボロになって帰ってきたのだけど。けれど、そんな所も含めてお兄ちゃんは私の自慢であり、憧れであり、ボロボロの姿を見て、護ってあげたいという気持ちも芽生えた。
一方、お兄ちゃんの憧れはもう一人の兄に向けられていた。兄の語る武勇伝を、お兄ちゃんはいつも目を輝かせて聞いていた。私は武勇伝には然程興味は無かったが、目を輝かせるお兄ちゃんの姿を見ているのが好きだった。
私のお兄ちゃんへの気持ちは、歳を経るにつれて大きなものへとなっていった。
いつも目で追ってしまう。いつも考えてしまう。そして考える度に胸が締め付けられる感覚と、下腹部に疼きを感じる。お兄ちゃんを独り占めしたくなる。私だけを見て欲しくなる。けれど、それは悪いことだと考えて無理やりに押さえつける。
小学四年生に上がった時、初潮を迎えた。それが何であるのか、もちろん知っていた。そして同時に、私の中に何かが流れ込んできた。
──私の、異能。
「あはっ!」
それを理解すると同時に、私の口から出たのは歓喜の声だった。全身に、力が
きっと、それはまだ未熟な精神には分不相応なものだった。それが私を歪ませた一因であることは間違いない。
「あははっ……! あはははっ……!!」
くるくると、回る。
歓喜に溺れて。
力に酔いしれて。
「おにいちゃん! おにいちゃん!」
その頃には、家族愛は異性に向ける恋慕へと姿を変えていた。
それが一般的な感覚でないことは分かっていても、人と違うことが何故おかしいのか理解出来なかった。私は私、それ以外に何があるというのか。
私の願いは、たった二つ。
──お兄ちゃんを護りたい。
ボロボロになってまで私を護ってくれたお兄ちゃんを今度は私が守るのだ。あらゆるモノから。
──お兄ちゃんと二人きりでいたい。
単なる独占欲。愛する人を独占したいという気持ちは誰にだってあるものでしょう?
たった二つ、ほんの
まず、家族。祖父母共に健在だ。私とお兄ちゃん以外に邪魔なモノが五つもある。家族とは、切っても切れないもの。何処までもついて回るもの。断ち切らなければ、いつまでも二人きりの世界なんて作れはしない。
あの日、食卓には家族全員が揃っていた。よく『協会』とやらに出掛ける祖父も、
私は、お兄ちゃんに問いかける。
「おにいちゃんは、わたしのこと、すき?」
私の問いかけに、嬉しい言葉が返ってきた。
「だいすき?」
お兄ちゃんは、すきだと、だいすきだと、そう答えた。両想いだ。下腹部が疼いて、下着を濡らす。
私は本能のままに、何の罪悪感を抱くことも無く、邪魔な全員を殺した。力の使い方を理解した私には造作もないことだった。
そして、私の家族はお兄ちゃんただ一人だけになった。
けれど、まだ、邪魔な存在がいた。
お兄ちゃんの平穏な暮らしに必要のないモノ。
「ほぉ? その幼い身で、この酒呑童──……」
不可視の刃で、首を切り飛ばした。
確実に殺すのであれば、頭部を切り離すのが最も有効な手段。
「む? 小娘、何処から迷い込んだ。此処は魔王城、貴様のような──……」
不可視の刃で、首を切り飛ばした。
何故、どいつも余計なことを喋りたがるのだろうか? そんな暇があるならさっさと襲いかかって来ればいいものを。
「も、もしやその首、酒呑童──……」
不可視の刃で、首を切り落とした。
その場にいたほぼ全員を殺し尽くした。
多少なりとも抵抗はあれ、私の防御を貫くものは誰一人としていなかった。
「なっ、魔王が!? き、君は──……」
不可視の刃で、首を切り落とした。
両手剣を持った金髪の女騎士が斬りかかり、妙に先の尖った帽子を被った女が杖の先から火球を出すが、それらも全て防ぎ、その首を薙ぎ払った。
魔王とかいう存在のいた城の外では、多くの兵士と
その足で、国王の住む城へ魔王と声を掛けてきた男の生首を持っていった。震える男は何を要求するのかと言い、私は金とお兄ちゃんとの二人の世界の邪魔をするなと伝えた。
日本でも、『協会』と国のトップに同じことを伝えている。
早くお兄ちゃんに会いたくて、城を出ると、早速物体を大きく太いゴム状へと形成し、スリングショットの弾として自らを射出する。全身を覆う膜を外骨格代わりとすることで、空気摩擦やその他諸々の影響を受けないようにして、落下し始めるところで物体で足場を作って着地。それを繰り返し繰り返し行うことで、自宅へと向かう。
どうやって海の向こうへ行こうか考えて編み出した力任せの強引なやり方だが、上手くいったのだからそれで良い。
「もう、お兄ちゃんを害するモノは無いよ!」
自宅の扉を開き、自室のベッドで蹲るお兄ちゃんに報告してぎゅっと抱きしめる。欲を言えば頭を撫でて欲しかったが、それは仕方ないだろう。
お兄ちゃんは、あの日から
──そして、数年後にあの日が来た。
私が朝食の準備をしていると、背後からバットで殴りかかってきたのだ。当然それを受け止めて、危ないものはくしゃくしゃにしてしまう。
虚ろだったお兄ちゃんの目は、はっきりと私を映していた。その目には、私への憎悪と怒りと……とにかく、あらゆる負の感情が込められている。
「殺す、殺してやる」
そして、はっきりと私に向けて言葉を発した。
──嗚呼、お兄ちゃんが私を視てる。
好きの反対は無関心、と聞いたことがある。お兄ちゃんは違う。私に、執着している。
その目は、私だけを映してくれている。
その頭は、私だけのことを考えてくれている。
絶頂を迎えそうなほどの喜びだった。実際、溢れたものは下着を濡らすだけに留まらず太腿まで流れていた。
「おはよう、お兄ちゃん!」
それは、それまでの人生の中で最も幸福に満ちた瞬間だった。
▽
「うぅ……」
またあの日の光景でも見ているのか、
「ぐっ……」
苦しそうな声が漏れ、直ぐに其れを引っ込ませた。無防備な、姿。そんなつもりは毛頭ないが、いつだって私はお兄ちゃんを殺すことが出来る。生殺与奪は、私が握っている。お兄ちゃんは、私の手の平の上で生きている。それが、堪らなく愛おしくて──興奮した。
「あ、んっ……」
お兄ちゃんの手を取って、既に溢れ切っている其処へとその指を当てる。指で秘裂を往復させ、お兄ちゃんの中指を第一関節まで開口部へと挿入した。そのまま、前後に動かす。
「あっ……ああっ……」
静かな室内に、粘着質な音が響いた。奥からとめどなく溢れる体液で、お兄ちゃんの手はべとべとに濡れていた。程なくして、達する。
最早、日課と化している秘め事。憎き存在に道具代わりに使われていると知ったらどんな反応を見せてくれるだろうか。
ぞくり、と背中を電流が走り、再び溢れ始めた。欲望が鎌首をもたげる。もう一度しなければ満足しなさそうだ。
「くふっ……うふふっ……」
──だいすき、おにいちゃん。
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