違和感

りこ

第1話

 五〇年来の親友がまるで罪の告白でもするかのように、あるときから感じている〝違和感〟について話しだした。

 

 

 

 確か五年生のときでさ、すごく暑かったことだけは覚えてる。

 その日俺は一人で下校していたんだ。いつもならお前と帰ってただろう?

 だけどあの日はさ、用事があるとか……まあはっきりは覚えてないんだけど、一緒に帰れなかったんだよ。

 暑くて頭はぼんやりするし、一緒に帰れないって言われたのもショックでさ。

 いや、べつにいまさらそんなことで責める気はないさ。

 ……まあ、暑さにやられてたんだろうな。

 体育もあったし。水筒のお茶はなくなったりとか、子供ながらに疲れてたんだと思う。

 そうしたら……なんていうんだ、アスファルトが揺れだして、陽炎? っていうんだっけ。

 あのときはわからなかったが、たぶんあれが陽炎っていうんだろうなって。

 ああ、そう、で、めまい、っていうか……ゆらっとしたんだよ。

 俺がじゃなくて、世界が。

 これははっきり言える。揺れたのは俺じゃない。世界だ。

 まあ、最初は地震がきたのかと思ったんだけど。

 にしては、空気感? が違うっていうか……うまく説明できないけど、結構な衝撃だったからさ、だれも騒ぎもしないのはおかしくないかっていうか。

 変だなって思っても家には帰るだろ。

 地震あったのに一人でいるのも怖いし。

 でもさ。家に着くまでもなんか変なんだ。なにが、って言われたら答えられないんだが。

 道も風景も、近所のおばちゃんもみんな同じなのに。

 いつもと同じなのに。

 なのに、違和感が拭えない。

 勘違いだって、そんなわけがない。って何度も思った。

 でも、違和感の正体を説明はできないから。どうしようもなくて。

 家にいても学校に行ってもずっと拭えなかった。

「でも、でもなあ……お前がいてくれたから、それだけでおれは、」

 俺は腑に落ちた。間違いではなかったのだと。

 彼の母親が俺の母にぽろりとこぼした

「あの子はだれなのかしら」

 彼の父親が酔ったときにだけ言う

「俺の息子はどこに行ったんだ」

 俺が感じる違和感も、ぜんぶあっていたのだ。

 だって俺と彼は一緒に下校する間柄ではなかった。

 あのまま進めば俺と彼が親友になれることは絶対になかっただろう。

 本当にそれくらいに気薄な関係だったのだ。



「……俺もお前がいてくれてよかったよ。お前と親友になれたことが俺の誇りだ」

 彼もどこかで幸せに生きてくれていることを俺は願っている。

 

 

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違和感 りこ @mican154

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