第89話 投扇興。改良、改造、魔改造?
ども、坊丸です。
酒飲みの福島さんに見守れながら、みんなで投扇興してました。
的の形を2パターン作ったので、あとは鈴をつけて持っていく予定でしたが、それじゃあ味気ないという話に。
織田の奥方様、お姫様に納品するのは見栄えも良くないといけないみたいです。
そこまで考えてなかったよ、トホホ。
「で、皆さん、何か良い案あります?」
「先程、福島殿に頼んでいるときに鈴をつけると言ってましたが、それ以外にこちらの銀杏の葉の形のものには、絵奉書でも貼るのはいかがですか?板状の方は何か絵でも書けば宜しいかと」
すぐにアイデアをだしてくれる文荷斎さん。投扇興の改良案をもとから考えていたんじゃないかしら。
まぁ、物が良いものになるのであれば、全然その案に乗るんですがね。
「絵奉書?」
なにそれ、美味しいのってやつですよ。絵奉書なんて知らないよ、ぼく。
「年の割には様々なことをご存知の坊丸様も、ご存じではないですか。公式の文書につかう真白い紙を奉書紙というのですよ。その奉書紙のうち、草花の絵を描いたものが、絵奉書というのですよ」
絵がかいてある綺麗な和紙みたいなものか。千代紙のご先祖様なものなのかな?
「良いですね、それ。でも、絵奉書なんて持ってないしなぁ」
「坊丸様、お忘れですか?それがしは、坊丸様の父上、信行様の右筆だったのですよ。宛先や書状の内容によっては白無地の奉書紙よりも絵奉書の方が良い時もありますからな、数枚ですが、今も絵奉書は所持しておりますよ」
「文荷斎殿、それ、ください。お願いです!粕とり焼酎を二本つけますから!」
「いやいや、絵奉書は差し上げますよ。ただし、この遊具をお犬の方様、お市の方様に献上するとき、それがしも連れて行って下さい」
「そんなことでよろしければ、どうにかします!」
よし、帰蝶様や奇妙丸様のところに連れていくだけで対価になるとは、お手軽でいいですな。
「で、絵の方はどうします?それがしで良ければ何か描きますが」
「えっ、加藤殿、絵も描けるんですか!」
「まぁ、下手の横好きというか、手習い程度ですが」
そういうと、台所の土間におりて、囲炉裏にあった火箸で、地面にサラサラっと、浮世絵の美人画みたいなものを書きました。
すっげえ、加藤さん、うまいじゃん。ビックリして、地面の絵と加藤さんの顔を何度も見ていると、だんだん照れてくる加藤さん。
「いやぁ、加藤、こんな技も持っていたのだな。子供の頃からの付き合いだが、知らんかったぞ」
文荷斎も、驚く腕前。
「今のおっかあと一緒になるときにな、気を引きたくて、少し絵の手習いなんぞな。まぁ、なんだ、そのぉ、おっかあの絵を描いて贈ったことがあるのだ」
と言うと、顔を赤くして更に照れる加藤さん。
なんか、可愛らしい恋ばなですよ。照れてる加藤さんとその話に、坊丸、キュンとした。
それはさておき、図案だな。
火箸を借りて地面に、切手でも有名な菱川師宣の見返り美人図みたいなものものを更に劣化させた何かを書いてみました。う~ん、自分の絵心のなさが憎い…。
「なんです?これ?人?」
文荷斎さん、失礼だな。そしてあんまりだ。
自分としては、和風の美人さんが振り返っている絵を書いたつもりなんですって!
「ふむ、面白い構図ですな。振り返った美人の図ですかな。ならば、簪をこう伸ばして、ここに孔に結びつけた鈴がくるようにっと、こんな感じていかがです?坊丸様」
凄いよ、加藤さん!自分が書いたつたない絵をブラッシュアップした上に、穴に結びつけた鈴まで意匠に組み込んでる!
「この的をあの箱の上に置くならば、倒れる蓋の部分には、つづら折りの道などどうです?あの箱の上に立てるなら、山道を登っていて、誰かに呼ばれて振り返ったように見立てるのはいかがですかな?」
文荷斎さん、面白いね、それ。採用。
「なら、俺からも一つ。箱に立てかけた蓋が倒れたら、失敗って感じなんだろ?なら、蓋の裏側には、墓場や髑髏を描いたらどうだ?で、箱の底に、山姥でも描いておけば、失敗して蓋を倒した時に、墓場や髑髏、山姥が見えるって寸法さ。扇子を投げるのに失敗すると山で遊んでいた美人さんが、山姥に食われるって話になるわけよ」
お、福島さん、酔っぱらっている割にはいいアイデアだすねぇ~。
面白い、それも採用!
なんか、みんなのアイデアを全部、加えていたったら、テレビでみたお座敷遊びの投扇興とは、だいぶ趣きが違う感じになってきた気がしますが、面白ければいいでしょ。
しかも、そのアイデアを自分が「良いね、採用」っていうと、仁左衛門さんのお宅から借りた筆ですぐさま加藤さんがだいたいの感じで書いてくれちゃうもんだから余計、悪乗りした感はありますが。
いやぁ~、早合、粕とり焼酎、改良?した投扇興と信長伯父さんとお姫様ズに見せる手札がそろった有意義な石田村訪問になりました。
いっそ、石田村に工房でもつくるか?とか考えちゃうね。
「あ、そうだ、仁左衛門さん、早生な感じの稲ができたら、一束早めにもらえますか?千歯扱きの実演を伯父上の前で行うときに使いたいので」
「今年は坊丸様のおかげで実りが豊かですからな、それぐらいであれば、お安い御用ですよ。あとで柴田様のお屋敷にお届けします」
「ありがとうございます。仁左衛門さん」
そんな感じで、石田村でみんなとやり取りした後、粕とり焼酎二合徳利二本と焼酎由来の消毒用アルコール一本を持って帰りました。
予定通り、そのうち一本を柴田の親父殿にあげましたよ。もう一本も欲しそうにしてたけど、信長伯父さんに献上用っていったら、あきらめてくれたみたい。
消毒用アルコールは、台所に置いておくと間違って飲んだり、料理に使ったりしてしまって被害がでるかもしれないので、柴田家の位牌が置いてある仏間、位牌の側に置かせてもらいました。
ちなみに、その晩、仏間から、柴田の親父殿の叫び声が聞こえました。
だから、あれほど、消毒用アルコールで飲用には適さないって言ったのに。やれやれ、だぜ。
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