第87話 75%アルコール。飲用ですか?消毒用ですか?

ども、坊丸です。

早合を頑張って開発して、せっかく作った千歯こきを再デビューさせる計画を遂行中の坊丸です。

早合は、本物の火薬と弾丸で幾つか作って、信長伯父さんの鉄砲の修練で御披露目しないとね。


「さてと、それがしは、焼酎の試飲に向かわせてもらいますかね。じゃ、坊丸様、また後で」


ふっふっふ。福島さん、せっかくの木工職人の労働力、まだ、解放しませんよ!


「福島殿、早合の細工ありがとうございました。もう一つだけ、お願いが!」


「まだなんかあるんですかい!坊丸様は人使いが本当に荒い」


台所の蒸留器のところに向かおうとしているのを、呼び止められた福島さんは、眉をしかめて、困ったような顔で振り返ります。


「なぁに、福島さんなら、ちょちょいのちょいのお願いですよ。ちょっとした小物を二つ作ってくださいってだけですから、焼酎呑みながらでもできますよ!」


「本当ですかねぇ。まぁ、焼酎呑みながらでも良いってんなら、話は聞きますがね」


「じゃ、台所に行きましょう。台所の竈の薪でちょちょいのちょいっと作れますよ」


後ろでは、文荷斎さんが深い溜め息をしながら、早合の試作品を片付けてくれていますが、気にしない。気にしないったら気にしない。


福島さんに頼んだのは、投扇興の的と土台になる箱。

的の一つはテレビで見た通りイチョウの葉型。両端に穴を開けてもらって、鈴をつける予定。

もう一つは板状。上部に少しの大きめの穴をつくってもらい、そこに鈴を紐で結びつける予定。


土台になる箱は、土台としての役割兼、扇と的をしまう箱。蓋の部分を外して、立てかけておけば、扇が当たったとき、蓋が倒れて減点になるシステムを採用する予定。


「こんなもんかな。呑みながらの技なので、まぁ、許してくれや」


うん、頼んだ通りの仕様で作ってくれたので、酒臭い息を吹き掛けられたのは、大目にみます。

信長伯父さんと柴田の親父殿、福島さん、仁左衛門分の焼酎は確保できたので、もう二合徳利分を福島さんに、預けて、残りは二度目の蒸留を、開始。


本当にもう一回蒸留するのか、焼酎がもったいない、信じられない、というつぶやきが福島さんから聞こえますが、無視です無視。

で、四合分の粕とり焼酎を二度目の蒸留のために蘭引に投入。

二度目の蒸留で出てくる焼酎は、先ほどよりもアルコールの香りが強いものですよ。

消毒用のアルコールのつもりだから、味のことは考えていないけど…

いつの間にか、福島さんが、小皿をもって、二度目の蒸留した焼酎の側でソワソワしてますよ。


呑みたいんです?飲みたいんですよね?


「福島殿?さっき、二度目の蒸留するなんて信じられないって言ってませんでしたっけ?」


「いやぁ、せっかく酒粕から焼酎を取り出したのに、もったいないなぁって思いましたよ。でも、この強い酒の香りがするやつはどんな味なのか気になるってのも本音ですな」


仁左衛門さんはうなずいていますが、文荷斎さんと加藤さんは首を振ってます。

うん、福島さんと仁左衛門さんはどうしも味見したい様子。


知らないよ?蒸留って3倍くらい濃度上がるからね?

酒粕には一般に8-9%くらいの濃度のアルコール分が残っているから、蒸留で24-27%になるって、酒飲みの先輩から聞いた気がする。なので、粕取り焼酎って25%くらいで売ってるのが多いって。


それを二度目の蒸留を行ったら、75%前後っすよ。

消毒用エタノールとしてはちょうどいいけど、飲料としては喉が焼けるレベルの濃度ですよ?


一応、止めたけどね。どうしても、試飲したいっていうからね、オススメはしないよって言ったからね。

試飲のせいの急性アルコール中毒が死因とかやめてね、福島さん、仁左衛門さん。


「「では、いただきます」」


注がれた、二度の蒸留を経た粕取り焼酎、推定アルコール濃度75%のもはやスピリッツといっていいようなものを小皿の盃に注ぎ合って、自分のほうに盃を向けて、わずかに目礼みたいなものをします。


福島さんはかなり勢いよく、仁左衛門さんは恐る恐る盃を傾けました。


「ゴホッ、グフ、ウゥゥン」


明らかに高濃度のアルコールに敗けてむせる福島さん。


「クゥー、きつい。喉が焼けるようだ。酒の醸し出す香りも旨味もほとんどなくなっていますよ、これ。ただただ、きついだけの酒だ。水、水」


きちんと感想を言ってくれた後、仁左衛門さんはすぐに柄杓から水を何杯も吞み始めました。うん、そうなるよね。


「だから、言ったでしょう。お二人とも。二度目の蒸留をしたものは飲む用ではないって」


その二人の様子を見ていた文荷斎さんと加藤さんは、ただただ微笑んで、二度目の蒸留した消毒用エタノールを二合分貯まったものを徳利に入れてくれました。


「そういえば、福島殿が吞みながら作っていたものは何です?いつもの坊丸様らしい細工ものではないような感じですが?」


なんか、加藤さんがひどいことを言っている気がしますが?気のせいですか?

なんだ、いつもの坊丸様らしい細工ものって!そんなに変わったものは作ってないと思うよ?


加藤さんとは千歯扱きとか備中鍬とかだけでしょ?

あんまり時代を飛び越えるようなものは作らせていない気がするけど。


雷管で使われる起爆薬の知識とか無いから後ろ込め銃とかライフルとか作れって言ってないし。本当は、作りたいけどさぁ…。


雷管で使われる起爆薬の知識が欲しいって言っても天使級10589号さんは絶対教えてくれなさそうだし。


黒色火薬で火縄で着火する方式で、後込め銃ってできないかなぁ…

先込め銃にもかかわらず、銃身にライフリング切って椎の実弾丸を使う方法とかねぇ…


「坊丸様?何か考え込んでいますが、大丈夫ですか?」


はっ、坊丸様の細工ってワードから銃の改良について考え込んでしまったよ。

えぇっと、なんだっけ、福島さんが作った細工物が何かって話ね。


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