第86話 開きづらい早合は早合とは言えない、よねぇ…。
ども、坊丸です。
蒸留の具合は大分良さそうだし、早合の試作もなんとなりそうで、ほっとしている坊丸です。早合の試作の後に福島さんが粕とり焼酎飲み過ぎないと良いですが…。
「早合もどうにか形になりそうですね、文荷斎殿、福島殿」
と、すこしほっとしながら、二人に言いました。
「まだですよ、坊丸様。実際に弾と火薬に見立てた砂を鉄砲の筒に見立てたものに入れてみなければ」
さすがに真面目な文荷斎さん。試作品ができるだけで、まだ終わりではないと、指導が入ります。
そうですよね、実際に試作品で装填の手順が楽になるかが大切ですもんね。
「そうですね、じゃ、早合を開けて装填の手順と同じことをしてみましょう」
二人が見守る中、いくつかできた試作品を開封してみます。
あれ、上手く開くやつと開くのに手間取るやつがある。びたっと竹と木栓がはまったやつほど開くのに手間取るなぁ。
「開きづらいのと開きやすいものがありますね」
「わずかに木栓が緩いくらいの方が開きやすくて良いですな。しかし、それだと、湿気が入って火薬が湿気ってしまうやも知れませぬ」
文荷斎さんも幾つか試作の早合の蓋を開けては閉じてをしながら、そう言います。
「中に入れる火薬とやらは、湿るとよくないのか。では、やはり木栓と竹筒はびたっと閉じた方が良いのではないか?」
福島さんは、ぴたっと閉じた方が良いだろうとのご意見の様子。
でもね、それだと開けづらくなるんだよね。
「ですが、それだと開けるのに手間取りますからなぁ」
お、同じ意見ですな文荷斎さん。
「栓はしっかりして、湿り気が入らぬよう気密を高めるが、さりとて開けやすくしてくれってことかい。それは難儀だな」
すいませんね、福島さん、早合では、実用性を考えると、それを実現したいんですよ。
その時、篠竹の短い筒をつくるのに邪魔だと払い落とした、竹の葉や竹皮が目に入りました。
木栓はわずかに緩くして、竹筒と木栓の間に竹の葉や皮を挟んだらどうかな?
竹の葉や皮を引っ張ると木栓が外れるんじゃなかろうか?
よし、提案してみよう。
「うむ、面白いかもしれませんな」
「竹の葉や皮を挟むだけなら手間も増えないし、素材は同じ竹だから別に集める必要もない、良いんじゃないか」
早速試してみると、火薬に対する密閉性と開封の操作性が両立できましたよ!
やった!今度こそ、早合、完成です。
「できましたな、坊丸様」
「良かった良かった」
文荷斎さんと福島さんも完成したと喜んでくれます。
「二人と、あと、竹を取りに行ってくれた仁左衛門のお陰ですよ。まぁ、一番は、亡くなる前に早合のことを調べておいてくれた橋本一巴殿のおかげ、かもしれませんが」
「じゃ、俺は焼酎を呑んで良いな?坊丸様!」
待て、まて、マテ。
まだ、終わりじゃないんですよ?福島さん?
「もう少し、待って下さいね。ちなみに、これを戦で夫を失った後家さんや負傷して戦に行けない負傷中の足軽とかにつくってもらうことはできると思いますか?」
「うーん、竹筒に弾と火薬を詰めるだけだろ?戦で夫を失ったおっかあたちにも出来るだろうよ、そんなに難しいことをするわけじゃねぇしな」
「作業、それ自体はできると思いますよ、坊丸様。
ですが、火薬にはどうします?火薬と弾を配って作ってこいって訳にはいきませんよ。
爆発することを考えると、火薬の扱いは気をつけねばなりませんし。
それに、早合の作り方や大量生産していることについては、秘密にすべきと思いますが」
作業のことだけを考えていてはダメってことですね、文荷斎。さすが、そこら辺は、右筆と言う官僚兼秘書みたいな仕事をしていただけはある。そういった点まで考えてくれるのは、本当にありがたいっす。
「あ、あと、木栓の調整だな。あれは後家さんたちには面倒かもしれないな」
福島さんも、木工職人らしい視点で指摘してくれて、ありがたいっす。
うーん、早合の秘密と火薬に対する安全性、木栓の調整役ねぇ。どうするかな。
「では、最初は、武家や足軽などの後家を中心に、城や陣屋などで火薬を詰めて作るのはどうでしょう?
竹筒や竹の葉、竹皮を集めるのは、武士や足軽以外の町民や農家の後家や老人達に少しの金を払えば、うごいてくれるかと」
フッフッフッ。現代的な分業性の内職システムを流用ですよ。
「材料を集める者と火薬や弾を詰める者を分けてしまうのですか。
うむ、それなら、良いかもしれませんな。
ですが、まだ、木栓の調整は解決しておりませんよ、坊丸様」
「木栓の調整は、木工の職人の座に人の派遣を依頼するか、小刀で木栓の細工ができるような武家の隠居にやっていただくか、どちらかでしょうかね。まぁ、そこは、もっと偉い人に決めてもらいましょう!」
ご隠居も労働力にしてしまえ大作戦ですよ。ビバ!労働力!
「まぁ、我々で全てを決めなければならないわけではないですからな。ある程度、案を出して、最後の詰めは信長様にお任せするのですな。まぁ、それがいいかもしれませんな」
「まぁ、どうやって手配するかとかは、それがしはわからないからな、坊丸様と中村様がそれで良いなら、良いんだがよ。
一つ気になるのは、さっきから後家さんをえらく当てにしているんだが、後家さんばかり使ってしまうと、稲の収穫のあと、脱穀の作業はどうするんだ?
普通はあの時期、後家さんの仕事だろうよ?」
「それについては大丈夫ですよ!加藤殿と福島殿が作ってくれたじゃないですか、脱穀を手軽に行える機械、千歯こきを!」
どうだ、と胸を張って千歯こきを再登場させるアイデアを、いま、ここで提案。
「あぁ、あれか!柴田の殿様のところに持っていったとき、なんか使うなと言う感じのことを言われたから、忘れてた。
そうか、あれを使えば、後家さんを早合作りに駆り出せるって寸法か!」
「確かに、それがしも坊丸様が後家を労働力に使うことに先ほどからこだわっておったので、不思議でしたが、千歯こきを使えば、良いのですな。
しかも、後家を使うことで一年中早合作りの人手が確保できる。うむ、素晴らしき案かと存じます。
千歯こきをここで持ってくれば、柴田殿も使うなとは言いますまい」
はっはっは、もっと誉めてくれても良いですよ?
千歯こきにダメ出しされてから、後家さんに他の内職的なお仕事を割り振れないか、考えていたところに、早合の研究、試作のご依頼、ご下命だったからね。
千歯こきを使うことであまった後家さんの労働力を、早合製作で後方支援の労働力に組み込めるナイスアイデア!と思ったわけさ!
ま、あとは、柴田の親父殿と信長伯父さんの承認待ちだけどね。
「じゃ、それがしは、焼酎いただいてきますよ。ってね。」
って、酒呑みの姿勢はぶれないな、福島さん!
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