第85話 篠竹と早合

ども、坊丸です。


アランビック式の蒸留器で粕とり焼酎をつくることに成功した坊丸です。

体は子供、心は大人なので、作った粕とり焼酎を一口なめてみたいものですが、グッと我慢です。

ま、一緒にいる四人の大人の反応を楽しむくらいですよ、ええ。


「仁左衛門さん、徳利何個かあります?信長の伯父上の分と柴田の親父殿の分を取っておけば、あとは、四人にお分けすることができますよ。さいごに、徳利2本分くらいは、二回目の蒸留を試してみたいですから、取っておいてください」


「一度蒸留したものを、更に蒸留するので?それでは飲めなくなりますよ、坊丸様!いやぁ、もったいない!」


福島さんが信じられないようなものを見る目でこちらを見ます。

いや、二度目の蒸留したやつは飲まないから!

消毒用アルコールだから!


福島さんは、二度目の蒸留したスピリタスみたいな物も呑む気だったのかよ!

信じられないのは、こっちだよ!


「物は試しってところですね。それに強い酒は呑む以外にも使えますから」


「はぁ、呑む以外にもつかえるねぇ。そんなもんですか。まぁ、坊丸様が言うならそうなんでしょうな」


「粕とり焼酎の蒸留の方は、中村殿、加藤殿に任せてもよろしいですか?この後、福島さんに頼んだものと篠竹で早合の工夫をしたいので」


「「お任せあれ」」


飲んべえじゃない二人に任せておけば、つまみ食いみたいに、焼酎が蒸留されたそばから呑まれることもないでしょうしね。


「では、福島殿。三分から四分くらいの木栓を幾つか頼んだと思うのですか、お持ちですか?」


「はいよ、こちらの懐にっと。三分から四分の丸い木栓、少しづつ大きさと厚みを変えて、九つほどお持ちしましたよ。で、これをどうするんで?」


台所から場所を変えたところで、村に着いた後、仁左衛門さんのお宅に預けておいた短い火縄銃を持ってきてもらい、包みから取り出します。


「坊丸様、これは、なんです?」


「鉄の筒に細工がついておりますな。持ち手らしい部分があるから何かの道具らしいが」


名主の仁左衛門さんと木工職人の福島さんだと、火縄銃は知らない感じですかね。


「これは、火縄銃という飛び道具ですね。鉄砲ともいいます。この筒の先から鉄のたまを飛ばして、遠くの的や敵を撃ち抜く武器なんですよ」


「はぁ」


「で、仁左衛門殿、福島殿にお願いしたいのは、この筒の先に空いている穴と同じくらいの太さの篠竹を集めて欲しいのです。10本ほど集めていただきたくお願いします」


「ん?それがしが持ってきた木栓は9つだが?」


「一つは、鉄砲の筒に見立てる予定です。他の九つには福島殿に準備してもらった木栓を使って蓋をする予定です」


「では、行きましょうか。川の近くに篠竹の群生がありますので、そちらでなら、良い太さの竹がすぐに見つかるでしょう」


仁左衛門さんの案内で、篠竹の群生につくと、二人は太さを確認しながら手早く鉈をふるってあっという間に10本の竹を集めてくれます。

いや~、自分の出番なんかないね。幼児だし。


篠竹10本を仁左衛門さんと福島さんにもってもらって、また、仁左衛門さんのお宅に戻ります。


「戻ったら、一口、二口、焼酎呑みたいものですな」


「いかにも、一杯いただきたいですな」


この二人、明らかに、自分に向かって焼酎を呑ませろと要求している。

でも、戻った後呑まれて酔っ払われて作業にならないと困るのですよ。


「この後の作業が終わったら、お二人ですこし呑んでもいいんじゃないですか?」


「うむ、そうですな、酒はこの後の作業の後ですな、坊丸様、仁左衛門殿」


「ですな、福島殿」



仁左衛門さんの屋敷に戻って、早合の試作開始です。

仁左衛門さんと加藤さんに蒸留を任せ、鉄砲のことをわかっている文荷斎さんと木工担当の福島さんで早合の試作を手伝ってもらうことに。


「で、この竹をどうするんですか?坊丸様」


「先ほど説明した通り、一本は長めのままで節を抜いて、鉄砲の筒に見立てようと思います。そのほかは、橋本一巴殿のお弟子さんからいただいた、弾があるので、それと、砂を火薬に見立てて早合の試作をしてほしいのです」


「早合ですか。橋本殿の書状をそれがしも読ませてもらいましたが、火薬と弾をすぐに鉄砲に装填できるように準備しておくものでしたね」


福島さんがいるので、早合のことをわかりやすく説明してくれてありがとうございます、文荷斎さん。

現代風に言うと火縄銃の装填準備の際に本来別々に準備する弾丸と火薬を簡易的にカートリッジ化したものなわけです。


火薬を入れて、弾を入れて、カルカでっていう棒で筒の底まで押し込んでという手順が、一手だけですが短くできるすぐれもの。

現代の実包と比べればものすごく単純なんだけど、先込め銃の場合、装填時間が短くなるってのはそれだけで、効率がいいわけですよ。


で、いろいろ考えたけど、素材が安くて、簡単に手に入る竹を選んでみました。


油紙や木で作るのも考えたけど、紙は美濃とか越前とかの名産で尾張だと買わないといけないみたいだし、木だと一個一個作る羽目になりそうだし。篠竹ならどこでも取れて、早合を内職的に作れるようになるかなと。

さっき、篠竹を取りに行った時に思いついたんだけど、竹の皮を型紙作って使うのもいいかもね。


簡単に早合の構造を説明したら、福島さんが竹の太さを選んでいい感じの長さに切ってくれました。

それに、文荷斎さんと砂と弾を詰めてみます。うん、ここまではOKそう。


あとは、福島さんが作ってきてくれた木栓をはめていきますが…

うん、木栓と竹のサイズ感や相性があるのかうまくはまる奴とはまらない奴があります。


その様子を見て、福島さんが木栓を少し削って微調整してくれます。おお、流石に、ぴったりです。


よし、早合できそうだぞ。


----------------------------------

ここまで読んでくださりありがとうございます。

続きが気になる!楽しかった!という方は♥や★で評価していただけると嬉しいです。ブックマーク、フォローなどしていただけますと大変ありがたいです。


応援コメントで誤字脱字の指摘していただけるのには感謝しております。

応援コメントに対する返信ですが、今後の展開に大きくかかわる場合、ネタバレになりそうな場合などは、大変申し訳ありませんが、意図的に返信をつけないことがありますのでご了承ください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る