第84話 蘭引酒とアランビック蒸留器
ども、坊丸です。
左手の火傷は、柴田の親父殿がとっておいた金創膏を塗ってもらいました。
本当は、アルコール消毒してからの軟膏塗布にしたかったんですが、消毒用アルコール無いからねぇ。
ま、無い物ねだりしてもしょうがないので、薄く塗って軟膏の上から包帯を巻き巻きしてます。
ま、包帯と言う名前の鉢巻なんですがね、実際は。
さて、本日は、石田村の視察を行うことに。
稲穂の状態を見るのが名目ですが、そこで、酒粕から粕とり焼酎を作って濃いアルコールゲットだぜ!ってのと、ちょうど良い太さの竹を集めて早合の試作もしてみたい、ってところですが。
なので、今日は、鍛冶屋の加藤さんと木工職人の福島さんも呼んでおります。
「これは、これは、坊丸様、中村様。本日も稲の状況確認とのこと、宜しくお願いします」
名主の仁左衛門さんの出迎えを受けると、すぐに稲の見回りに。
「稲の発育、だいぶ良いようですね。
この後、鍛冶屋の加藤さんと木工職人の福島さんが来るんですが、酒粕ってまだあります?
あと、この回りに矢竹や篠竹なんかはありますか?」
「酒粕ですか、堆肥作りは続けおりますので、うちの蔵に数樽分はあるはずですな。
矢竹は、わかりませんが、篠竹ならば、川原に生えていると思いますよ」
「そうですか、ありがとうございます。後で、竹をすこし刈らせて下さい。
酒粕は、加藤さんに頼んだ道具が上手く働けば、酒粕に残った酒の成分が取り出せるかもしれません」
「ほぉ、そんな道具があるのですか?楽しみですな」
「あれ、田んぼの一角に稲が少ないところあるんですが、どうしたんですか?」
「気がつきましたか、あれは、いもち病にやられた稲が生えていた場所ですな。
周りにうつすよりはと、その周囲でいもち病にやられていそうな稲とともに刈り込んたんですよ」
「せっかく、堆肥や干鰯を入れて土地を改良しても、病気はなくなりませんもんね」
「そうなのです、せっかく実りを迎えそうな稲が病でやられることもありますからな。
坊丸様の様に領地を見て回ってくれるような役人や代官なら良いのですが、そう言ったことを知らぬ役人や侍も多いものです。あ、中村様や柴田様は違いますよ」
「仁左衛門殿、そう気を使わんでも良いぞ」
と、中村文荷斎が苦笑いしています。
「ところで、いもち病は、もう大丈夫なんですか?」
「たぶん、といったところですな」
確か、いもち病って、カビの一種でしょ。
某豪腕でラッシュな番組で見た気がする。
確か、あの番組だと、ヨモギとか生姜、唐辛子を煮出した液に焼酎や酢を混ぜたやつ使ってたはず。
唐辛子は今は手にはいるかわからないど、焼酎はこれから作るし、似たようなのできるかも。
あと、カビならば乾燥気味にすれば増殖が抑えられるのではなかろうか?
灰やクズ炭をそのまま、あるいは水に溶いてまいたら効くのでは?
そのアイデアを仁左衛門さんに伝えてみます。
「確かに、いもち病は、湿った場所を好む気がしますな。
坊丸様の言う炭や灰を使って乾かすというのは、面白いかもしれませんな」
ひととおり、村の様子を見回って、仁左衛門の屋敷に戻ると、門のところに加藤さんと福島さんが待っていました。
加藤さんは、重なった釜のようなものを抱えて居ます。
「「坊丸様、遅くなりました」」
「いえいえ、二人とも、ご苦労様です。二人が来るまでに稲や畑の様子を見て回っていたので大丈夫ですよ。お、加藤殿、頼んだものを作ってくれたんですね」
「はぁ、先日、坊丸様からいただいた書状に書いてあった、奇妙な釜とその上にのせるこれまた奇妙な薬缶、その間を繋ぐ急須の口がついた寸胴のようなものの3つですな」
風呂敷から出てきたのは、まさしく蒸留器。
昔、十四代を作っている有名な酒蔵、高木酒造さんの米焼酎の「蘭引」ってやつを先輩の奢りで飲ませてもらった時に、酒好きの先輩から蘭引って名前はアランビック式の蒸留器から来てるって教えてもらってたんですよ。
で、蘭引とかアランビック蒸留器どんな感じの蒸留器か調べたことあったからねぇ。
金属製で水滴型の先端がむぎゅっと曲がっているのもあったけど、水冷できる三段重ねの方が良いかなって思ったんですよねぇ。
鍋島藩の陶器のやつの印象が強かったせいもあるかもしれませんが。
そして、作るのは面倒だったかもしれんけど。ごめんね、加藤さん。
「仁左衛門さん、台所で竈、貸してもらえます?文荷斎さんと福島さんは、酒粕を入れた樽を仁左衛門さんの蔵からもってきてもらっていいですか?竈のところでまってますんで」
そう指示を出すと、皆さん、すぐに動き出してくれます。
子供に指示されても、文句も言わず違和感なく受け入れてくれるくらいにはチームになっている感じです。
仁左衛門さんのご自宅の竈に火を入れ、その前で蘭引を準備していると、中村さん、福島さんが酒粕の入った木樽を持ってきてくれました。
三段のうち、一番下の釜の部分に酒粕を三分の一ほどと、少しのお水を入れてもらい、竈にかけます。二段目を装着し、最後に一番上に下向きの口がついたような薬缶的なものをのせ、その中に水をたっぷり入れておきます。
「これで準備はできました。あとは、少しの水を含ませた酒粕に熱が加われば、勝手に蒸留できるはずです。二段目のくちばしの先から滴が垂れてくれば成功です」
「滴が垂れるのですか…、ならば、二段目から延びる下向きのくちばしの先に滴を受ける器を置いた方が良いのでは?」
「あっ。そ、そうですね。文荷斎さんの言うとおりでした。このままだと、せっかく蒸留したものが駄々漏れですね」
そのやり取りを見ていた、仁左衛門さんの奥さんが、小さい壺をスッと差し出してくれたので、慌てて、くちばしの先に置きました。
「ところで、坊丸様。この機械は、蒸留と言う作業を行う機械なのですな」
と、加藤さんから質問されたので、そうだと答えておきます。
「それがしが見るに、下の釜で熱した物から出た湯気を上の薬缶の水で冷やして滴にして中の段と下の釜の間に集めて、二段目のくちばしから出す機械という事でよろいのですかな?」
「流石、製作者。図面と実際の使い始めの様子でそこまでわかりましたか!」
「そうなると、しばらくすると、上の薬缶の水も温まってしまいますが?冷やせなくなるのではないですか?」
ふっふっふ、加藤さん、この機械はそこも対策取られているんですよ!
「その温まってぬるくなった水は、一番上の薬缶についた下向きのくちばしから抜いて、薬缶の上の広い口から新しい水を足す感じですね」
「ふむ、そうなると、もう片方のくちばしの先に水を受ける器、それと足し水を準備せねばなりませんな」
と、文荷斎さん。
「あ。そ、そうですね、失念しておりました」
機械の写真や構造図は見たことあるけど、実際に使ったことがあるわけでは無いから、ここら辺勝手がわかりません。文荷斎さんの発言を受けて、速やかに準備してくれる、仁左衛門さんたち。いやぁ、周りの方がたのサポート、感謝です。
そんなこんなで、後付けでいろいろ準備していると、二段目の下向きくちばしの先から、透明の液が!
最初は、ぽぁたり、ぽぁたりとゆっくりでしたが、そのうち、ポタポタと垂れてきました。
よし、多分、成功。本当は一番になめてみたいところですが、小児だからね。
アルコールは二十歳から。
戦国時代だから、現代的倫理観や法規は無視してもいいかもしれないけど、脳の発育とかに悪いだろうから、ね。
で、一番に味見するのは、この中では、唯一の武士で役人の文荷斎さんにお願いしました。
「では、それがしが。見た目は、透明で、水のようですな」
くちばし下の器にたまった、多分、焼酎になっているものを小皿ですくい、少し冷やしてから、恐る恐る口に入れます。
口に入れた後、一度、むせるような咳をして、すこし難しいような顔をした後、飲み干しましたよ、文荷斎さん。
「ど、どうです、中村殿」
「かすかに、酒の香りがありますが、なかなかにきつい酒ですな。口の中でキッとして、喉でヒリっとしますな。酒の甘さが微かに残りますが苦み、酸味はほぼ無いっといったところでしょうか」
「では、我々も」
「焼酎とやら、気になりますな」
「そうですな、坊丸様の工夫した酒ですからな、いただきましょう」
三人とも、台所の小皿を盃にして、蒸留されたばかりの焼酎を飲み始めます。
仁左衛門さんと福島さんは、あおるようにして、一気に。
加藤さんは文荷斎さんよりもさらに慎重な感じで。
これの吞む様を見るで、三人の酒の強さがわかるというもの。
文荷斎さんと同じように、最初少しむせるものの、そのあとはゆっくりと味わう仁左衛門さん。
むせることもなく、美味そうに飲み干し、もう一杯ほしそうな福島さん。
むせることはなかったものの、微妙な面の加藤さん。
すでに結果はわかっていますが、一応聞きます。
「どうですか?」
「いや、思ったよりも強い酒ですな。しかし、スッキリして美味い」
「美味いですな。もう一杯いただきたいくらいだ」
「スッキリしているのは認めますが、少し強すぎますな。それがしは、一杯でじゅうぶんですな」
と、順番に仁左衛門さん、福島さん、加藤さんの感想です。
うん、まったくもって予想通りっす。
焼酎はあくまでも第一段階!これをもう一回蒸留して、消毒用のアルコールをつくちゃうからね!自分の健康のために!
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