第83話 金創膏と馬糞

ども、坊丸です。


橋本一巴さんの形見の火縄銃を、信長伯父さんに確認してもらうって、所持の許可をとるだけのはずだったのに、形見の品の試射することになるわ、火傷する羽目になるわ、火傷に馬糞塗られそうになるわ、奇妙丸様の相手する羽目になるわ。


いやぁ、もぉ、いろいろ起こりすぎでしょ。

やっと、柴田の親父殿の屋敷に帰ってこれたよ、本当に。


「「ただいま戻りました」」


柴田の親父殿と一緒に屋敷に上がるまえに、ご挨拶。

婆上様やお妙さん、お千ちゃんが出迎えてくれるのが、ほっとします。お妙さんの手に引かれて弟たちもいます。


お千ちゃん、お妙さん、弟たちと一緒に、自室に引きさがりって、ゆっくりしたい気持ちがめっちゃ強いですが、橋本一巴さんの火縄銃のことがあるので、挨拶をした後は、仕方なく、柴田の親父殿の部屋に行きます。


柴田の親父殿の部屋で向かい合って座ると、親父殿から労いの言葉が!


「坊丸、今日は、災難だったな。しかし、信長様もひどいことをなさる。撃ったばかりの火縄銃を子供に渡すなど、火傷するに決まっておろうに」


「はい、まさか、火縄銃を投げてよこしてくるとは思いませんでした。

慌てて、受け取ったら、この有様です」


左手に巻いた鉢巻き包帯をクルクルっと外し、創部を柴田の親父殿に見せます。


「うむ、やはり火傷しておるな」


「奇妙丸様と遊んでいる途中で、傷の処置を行っていただきました。

そういえば、その際に、お市の方様から、刀傷に馬糞を塗る、といったことを聞きましたが、本当ですか?」


「傷に馬糞?ああ、戦場で刀傷を受けた時に、馬糞を塗ることはあるぞ。

だが、あれは臭くてな。

小さな刀傷やそれほど血が出ていないときなどは、いま、坊丸がしたように、布をぎゅっと巻いて、あとで金創膏という軟膏をぬるのが普通だな。

そうだ、火傷に効くかどうかはわからんが、塗っておくか?金創膏を?」


「そんな、軟膏があるんですね!」


うん、馬糞を刀傷に塗る方はスルーしておこう。

柴田の親父殿も塗ったことあるかどうか、詳細も聞きたい気もするけど。


「たしか、以前に刀傷を受けた際に、金創医から軟膏をもらったものが、すこし余っているはず。

文箱の底に入れたはずだから、っと。

おお、あったあった。よし、塗ってやろう」


机の脇に置いた文箱を探っていた、柴田の親父殿が、小さくて丸い白磁の香合を取り出しました。

その香合の中には、薄紫の軟膏が。


「ありがとうございます。親父殿。ちなみに、その軟膏は何がはいっているのですか?」


馬糞よりはよさそうだけど、傷に馬糞を塗る時代の軟膏だからな…。

体に悪い鉱物とか入ってないよね?水銀とか。ヒ素と。


「う~ん、何が入っておったかな。

儂も気になって、聞いたことがあるのだが、漢方薬に使われる生薬の大黄や芍薬なんぞが入っていると、言っていた気がするが…。

その金創医殿がな、全部は教えられんと言っていたしな。

まぁ、儂は刀傷に塗ったが、それで治ったんだから、火傷にも多分効果があるだろう。きっと」


柴田の親父殿、その軟膏が火傷に効能があるかは確証はないんですね。

最後のころの、「多分」とか、「きっと」がすごく不安。

でも、基本は漢方の生薬が練り込まれているみたいだから、体に悪いってことは無いだろう、うん。

多分。きっと。


で、火傷の水泡や赤くなったところに、軟膏を塗ってくれました。

いろいろあったけど、火傷の手当してくるのは、結局、柴田の親父殿かよ…。

女中さんも、お市様も手当も包帯もしてくれなかったからなぁ…。


「よし、塗ったぞ。しかし、鉢巻きを傷に巻いているのか。

それならば、手も動かせるし、締め付け具合も塩梅できる。美味いこと考えたな。坊丸。

それと、だがな、その…、馬糞を塗るというのを、お市様から聞いたと言っておったが、お市様とお会いしたのか?」


「あ、はい。火傷の手当てのために、井戸に案内いただいたり、包帯の手配をしてくれたりしました」


「なんと、傷の手当てをしてもらったのか?うらやましいことよのぉ」


「いえ、井戸に案内いただいたのと、包帯の手配をしてくれただけですよ。

火傷は自分で井戸水で洗ったり、冷やしたりましたし、包帯も自分でまきました」


「なんだ、手当してもらったわけでは無いのか。なら、まぁ、良いかの」


ん、なんだ?この世界の柴田勝家もお市の方様に惚の字なのか?まぁ、良いけど。


「話は変わりますが、親父殿、強い酒なぞ、ご存知ではありませんか?」


「強い酒だと?まぁ、薩摩の方では何でも焼酎という強い酒があるらしいがな。儂も興味があるが、まだ飲んだことはないな」


「そうですか…」


なんだ、もう九州では焼酎あるのね。尾張にはないと。

よし、そうなら、自分が焼酎作っても、問題なしでしょ。多分、きっと。


「強い酒なぞ、どうする気だ、坊丸」


と、すこし不思議そうな柴田の親父殿。


「強い酒や濃い酢を傷を負った箇所に使えば、傷が化膿しづらくなるのでは、と思いまして」


「そんなものかのぉ…。酢締めをした食べ物は腐りつらくなるからな、そんな事もあるかもしれんが、酒は、どうかのぉ。

それに、酒を傷に垂らすなんぞ、もったいないわ。酒は美味しく飲んで、楽しく酔う、これが一番じゃ!

ま、子供の坊丸にはわからんかも知れんがな、はっはっは」


はっはっは、こっちもこの時間線に放り込まれる前は、美味しく日本酒やらビールやらをいただいてたので、酒を飲んで酔う感覚はまだ覚えていますがね、まぁ、説明するの面倒だから、酔う感覚知ってるなんて柴田の親父殿には言わないけどさ。


火傷や刀傷に、流水洗浄からの、一次消毒、湿潤環境を維持する披覆材での保護なんて平成令和の知識での治療は無理だけど、アルコールや酢酸での消毒をしたうえで包帯での保護くらいのレベルの治療は出来るようにしたいよね。


創部感染からの敗血症で、せっかくの二度目の人生終了&天使級10598号さんの贖罪と罰則の早期終了なんてしたくないしね。


せめて、本物の信澄と同じ本能寺の変くらいまでは生きてやるさ!

できることなら信孝なんかにも殺されない様にして、長生きしてやるんだから!


よぉし、その為に、焼酎!いやや、消毒用アルコールを作ろう!

消毒用だよ!呑みたいんじゃないよ!ホントだよ!


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