第82話 投扇興、的な。

ども、坊丸です。

四人の綺麗な姫様たちが的当てをして、キャッキャと楽しんでいるのを見るのはとても良いものです。

でも、奇妙丸様がドンドンつまらなそうな顔になっていったからね。

ちょっと趣向を変えるのを提案しましたよ。

まぁ、提案する途中で、四人からものすごいプレッシャーを浴びせられましたが。


「坊丸から提案なのですが、的をもう少し離すか、投げるものを変えては如何でしょうか?」


「ふむ、的を離すのはわかりますが、投げるものを変える、とはどう言うことです?」


お、食い付いてきましたよ。予想通り、お市様が。


「そうですね、どなたか、扇子をお持ちでないですか?」


「これをどうぞ」


と、お犬の方様から、扇子の提供が。ありがとうございます。

帰蝶様と吉乃殿は一瞬躊躇してましたし、女中衆は差し出がましくならないように一拍待った感じでしたからね。

その場の空気を読んで、スッと扇子を差し出してくれる、お犬の方様、素敵です。


お犬の方様が差し出した扇子を恭しく受け取り、わざと音を立てて親骨をずらすように一段開きます。

親骨を持って、軽く振れば、音を立てて一気に開くので、ちょっと格好をつけて開いて見せました。

まぁ、女性はこんな開き方しないでしょうから、奇妙丸様が目をキラキラさせてこちらを見つめています。


よし、奇妙丸様の飽きはじめてきた気持ちを引き付けられた!ショーアップ成功なり。


「では失礼して」


と、言って、帰蝶様とお犬の方様の間に入り、的当てでみんなが投げるポイントまで移動。

美人さんの間に座れるなんて役得ですね。


と、それはさておき、扇の要を親指、人差し指、中指でつまむように持って、軽く押し出すように投擲。


スーッと滑るように的のほうに近づいていきますが、要の部分の重さで、くるりと半回転。

頼む、このまま、扇子の一部でも立てた墨にぶつかってくれ!

って、そのまま進まずにやや落下して、文箱にこつんと要の部分が当たってしまいました。


外した!と思ったけど、墨がことこと揺れて、手前に倒れ、そのまま、文箱から落下。

扇の上にコトンと落ちてくれました。


よし!さて、もったいぶって四人の方に向き直り、一度頭を下げてから、声をかけます。


「的には当たりませんでしたが、倒しては、ございます。

扇子の上に墨が倒れてござれば、浮舟のごとしかと。

また、扇がヒラリと舞う様はお手玉を投げるのに比べれば、艶やかさ、優雅さともに格段に上。姫様方が遊ぶにはよろしいかと存じます」


「へぇ~、面白そうですね。では、私も投げてみたいです」


やっぱり、競技に前のめりだな、お市の方様。

扇子をお犬の方様に返しつつ、投げる位置からどいて場所を空けます。

入れ替わるように自分の扇子を持って投げる位置に座り、自分が先程やったのと同じように投げる、お市様。


フワリと扇が舞い、やはり要の重さで半回転したあと、すこし右に傾いで行くように滑空しました。


そして、扇は親骨の部分が墨に当たり、墨が奥に落ちて、扇子は文箱の手前に寄りかかるように落ちました。


「お、当たりましたよ!」


フワリと浮きヒラリと舞う優雅な扇の動きと、お市様が投げて的に当たったので、女中衆がやんやんとわきます。


扇子を拾いに行こうかと思いましたが、気が利く女中衆が墨と文箱のセッティングをなおしつつ、扇を回収して、お市様に返していました。

ちっ、扇を返しつつ、お上手ですとか言ってお市様に触れ合えるかと思ったんだけど、そうはならないか。


で、そのあと、帰蝶様、吉乃殿、お犬の方様が順番に投げますが、吉乃殿が的に当てた以外は、当たりません。


「ふむ、坊丸とお市様が当てたから、もっと簡単かと思いましたが、意外と難しいものですね」


「ほんに、難しいですね、義姉上」


外した二人はちょっと悔しそうですが、ヒラヒラと舞う扇子の様子に、女中衆は、なかなかの盛り上り。


「奇妙も、奇妙もやる~」


奇妙丸様の参戦で、奇妙丸様のあとに四人の姫の誰かが投げる方式に、試合形式が変更に。

よし、自分の出番が無くなったので、拍手やヤジで盛り上げるのに、徹しよう。

それに、そっちの方が気を使わなくて楽だし。


十数投したところで、奇妙丸様も、満足したご様子。良かった、良かった。


「坊丸、奇妙丸の相手、ご苦労様でした。本日は、我々も楽しめましたよ、ねえ、吉乃殿?」


「はい。帰蝶様、坊丸殿は、ほんに色々と考え付きますなぁ」


「お褒めにあずかり光栄です」


「坊兄ぃ、楽しかったね。また、遊ぼ!」


「と、奇妙丸も言っておりますので、次の火縄銃の修練の機会があれば、その後などに、こちらにも寄ってくださいね。信長様の相手をするよりは疲れないでしょうから」


はっはっは、帰蝶様、そう言う最後の一言が、信長伯父さん的には余計だと感じるじゃぁ、ありやせんかね。知らんけど。


「はっ、時間が許せば、また、奇妙丸様のお顔を見に参りたく存じます」


「そうそう、先程の扇を投げる遊び、名前はなんというのですか?」


と、お市の方様からいきなりの質問が。


え、えぇっ!この世界に来る羽目になる少し前にテレビで見ただけだから、知らないよ!

確か、扇を投げて遊ぶだか、興じるだかって名前だったはず。それとも、扇を投げて競うだっか?それを音読みしてた気がするんだが…


「扇を投げる遊び、競い、興じるものですから、投扇遊、あるいは、投扇興、投扇競というのは、如何でしょうか?」


「とうせんゆう、とうせんきょう、のいずれかですか…」


と、帰蝶様。


「私は、投げて競うで投扇競がいいです!」


と、お市様。端正なお顔立ちのわりに、元気っ子ぽいキャラなんだよな、お市様って。


「私は、投げて興じるで、投扇興がいいですね、お市とは違う意見になりますが」


と、お犬の方様。


「私もお犬の方様と同じく、その名が宜しいかと」


と、少し控えめに、吉乃殿。


「まあ、音は同じですから、投扇競でも投扇興でもいずれでも良いではないですか」


って、無理やりにまとめましたね、帰蝶様。


「それと、的が墨では味気ないので、何か考えて来てほしいですわね」


「そうですね、私もそう思ってました。せっかく、扇が舞うのに、的が墨では、美しくないですよね」


帰蝶様と吉乃殿から、新しいオーダーが入りましたぁ…。

なんか、また、仕事、増えた気がするぞ…。


確か、テレビで見た投扇興は、銀杏の葉っぱみたいな的に鈴がついた感じのを使ってた気がするけどね。まぁ、なんか、それらしいの、考えます。


「はっ、坊丸、承りましてございます」


とりあえず、元気に承った旨、お返事。


「宜しくお願いしますね、坊丸」


「坊兄ぃ、またねぇ~」


帰蝶様と奇妙丸様から声に反応するように、今一度、二人の方に頭を下げてから退出しました。


あれ、そういえば確か奇妙丸様、最初は「坊丸兄」って言ってた気がするけど、いつの間にか、「坊兄ぃ」に呼び方変わってたな。

まぁ、良いか。


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