第80話 的当て。気を配っての接待的当てです!

ども、坊丸です。


せっかく流水で洗浄&冷却した火傷の傷にもう少しで、馬糞を塗られそうになった坊丸です。

お市様の様な戦国時代の有名お姫様が、馬糞、馬糞って口にするのはどうですかね?

この時代の民間療法では、当たり前なのか、傷に馬糞。

後で、柴田の親父殿に聞いてみようっと。


それはさておき、傷の手当をして奇妙丸様たちにご挨拶しました。


「坊兄ぃ、ごめんなさい。坊兄ぃ、痛かった?」


と、奇妙丸様が、気遣ってくれます。

痛くない、といえば、嘘になります。

でも、ここは奇妙丸様に心配かけないようにしないと。


「まぁ、すこしだけ。坊丸の不注意のせいですよ。奇妙丸様のせいではございません。それにお市様と女中衆に手当てしていただきましたので、もう大丈夫です」


って、包帯を巻くのも、流水で流すのもほとんど自分でしていて、井戸のところに連れて行ってもらっただけな気もするけどな。


「よかったぁ。坊兄ぃ、まだ、遊べる?」


うッ。これは、正解がわからないやつ。


ここらへんでお終いにしておいてもいいだろうし、奇妙丸様の相手を少ししてもいいだろうし…。

しょうがないので、帰蝶様や吉乃殿の顔をチラ見すると、相手をしていきなさいっていうのか、二人とも軽くうなずく様子。


「はっ、それがしは、左手を痛めておりますので、他の遊びにいたしましょう。それなら、どうでしょう?」


「そうですね、お手玉などいかがでしょう?」


と、吉乃殿。


知ってますぅ?坊丸は左手痛めているんですよ?片手痛めた状態で、お手玉をしろと?

このままでは、左手を痛めたまま、お手玉をやらされる流れになってしまう…。

考えろ、考えるんだ、坊丸。


「そうですね。お手玉の玉を使って、的あて、などいかがでしょう。文箱の上に、墨など立てて、すこし遠くから狙うのです。いかがですか、奇妙丸様」


「うん、的あて、するぅ!」


よし、成功。これなら、体を大幅に動かすこともなく、右手だけでできる。

奇妙丸様に先に投げさせて、うまく競るように調整して、最後の最後、勝ちを自然に譲ることもできる!


畳を目安に半間(90センチ)の距離に文箱を起き、そこに墨を立てて、的にしてもらいました。


うん、これくらいなら、いいじゃないでしょうか。

自分が先に投げると、調整できないので、奇妙丸様に先手を譲ります。

五回投げてより多く当てたほうが勝ち、として勝負形式にしました。

勝ち負けがあるほうが、わかりやすいしね。


一回戦は四投目まで、奇妙丸様の投球の結果をトレース。五分五分の試合展開として、五投目に奇妙丸様が的にお手玉を当ててくれたので、こちらは力んだふりをして、文箱に当てるようにして、勝ちを譲ります。


完璧な接待的あてだぜ、自分。


しかし、女中の方々の奇妙丸様への声援が熱い。自分が投げる時は、女中衆はとても静か。

帰蝶様が義理で応援してくれるのと、お犬の方、お市の方の姉妹が、奇妙丸様と自分をイーブンに応援してくれるのが、せめての救いです。

いくらアウェーとはいえ、ちょっと泣きそう。


二回戦は、五投目もトレースして、引き分けねらいでしたが、奇妙丸様が決着をつけたいとのことで、延長戦に。六投目もトレースして、意図的に五分のままに。


女中衆の応援がヒートアップして、ちょっと盛り上がってまいりました。


七投目で奇妙丸様が外したので、こちらも外すつもりで投げたのに、手元が狂って、墨を倒しちゃいました!うん、勝っちゃった。やばいよ、やばいよ。


「坊兄ぃ、もう一回、もう一回」


周囲の雰囲気がちょっと悪くなりかけましたが、奇妙丸様がすぐにもう一戦を挑んでくれたので、場の雰囲気が大荒れになる前に、落ち着きました。

奇妙丸様、その負けず嫌い、ナイスです。この場の雰囲気的にも、戦国武将のご子息の性格的にも。

よし、今度は、上手に負けるぞ!


奇妙丸様が一投目を当ててくれたので、暴投気味に外して、その後、追いつかないように調整して、負けました。

よし、よくできました、坊丸。これでいいんだ、これで。


こちらの調整具合も気にせず、やんや、やんやと奇妙丸様を褒める女中衆。


場の雰囲気を見て、女中衆の褒める言葉に合わせて、こちらは、すこし、大げさに悔しがっておきます。

よし、やり切った、自分。と、ほっとしていると、視線を感じました。


その視線の先には、帰蝶様。

帰蝶様と視線が交錯すると、帰蝶様はうっすらと微笑み、よくできましたとばかりに小さく頷いてくれました。

よし、どうやら、今回は正解を引けたらしい。


奇妙丸様が、もう一回と言いたげに、こちらを見てきましたが、ここで、予想だにしていない闖入者が。


「それ、私もやってみとうございます。奇妙、坊丸、良いでしょう?」


って、お市様がそういうなら、仕方ないですよね。

坊丸は良いですよ!っていうか、誰かが止めるまでエンドレスに奇妙丸様と的あてゲーム継続になるよりはよっぽどいいですよ!


「坊丸は、良いようですね。奇妙も、ねえね に、ここは譲ってね」


お市様のナイス笑顔でのご依頼は、実質的に有無を言わせない感じです。あ、叔母上って言わないようにしてるのね、お市の方様。


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