第79話 馬糞!傷に馬糞ってマジすか!

ども、坊丸です。

左手の火傷、水疱は破れるわ、奇妙丸様に両手で全力握られるわで、めっちゃ、痛いです。

帰蝶様に、左手の火傷を見せながら、状況説明していると、奥御殿の警護の女中さんや侍女の人、そのあとに、細面で綺麗なお姫様が二人、こちらにやって来ました。


だいぶ騒がしくなってきました…。


奇妙丸様が泣いてしまったので、何事か!って感じで、みんな集まってきて、収拾がつかなくなりそうな感じですよ…。

と、思ったら、帰蝶様が一喝。


「皆のもの、静かになさい。奇妙と坊丸が遊んでいるときに、坊丸が怪我をしただけです。その痛がる声に驚いて、奇妙が泣き出した、それだけです。落ち着きなさい」


帰蝶様の一喝で、その場の喧騒は、かなり落ち着いてきました。流石です。


「しかし、だいぶ騒ぎになってしまいました。申し訳ありません」


「此度の騒ぎは坊丸だけのせいではありませんし、奥御殿の皆が奇妙丸の身を案じてくれたこと故、人が集まったのは、致し方ないこと。

まぁ、これだけの騒ぎになると、誰かが、表から事情を確認に来るでしょう。それは、私が対応します。

吉乃殿は、奇妙丸を落ち着かせるために、今しばらく、そばにいてやって下さい。

お犬は、この場で、あとから来た者共に問題ない旨の状況説明を。

お市は、近くの侍女とともに、坊丸の手当てを段取りなさい。

さ、皆の者、奇妙丸が大事ないことはわかったでしょう。

次は、今の指示通り、皆で手分けして動くのです。良いですね」


む、帰蝶様、事態の収拾に向けての段取り、人の手配、仕切りが完璧です。

でも、信長伯父さんは、こういう完璧すぎるところ、きっと、苦手な気がするぅ。


「えぇっと、あなたが、坊丸殿ですね」


眉目秀麗、細面で切れ長な目、信長伯父さんと同じ系統の美女に声をかけられました。

銀河が鉄道で、9が三つな作品のメ○テルさんに似てる奇麗な人や…。


あ、さっきの帰蝶様の話の流れだと、叔母のお市さんですね。

ふむ、どっかで見た浅井長政と対になっている肖像画のお市の方よりもこっちのほうが綺麗やね。

一時とはいえ、この人を奥さんにしてたのか、柴田の親父殿。ずるいな。


あ、でも、時間線管理のあの天使様によってなんか補正とか入ってるかもしれないから、本物の顔とは限らないんだよな。

そこのところ、気を付けないと。ん?気を付けてもあんまりメリットないか?まぁ、いいや。


「織田信行が一子、坊丸と申します。今は、伯父上の命にて、津田の姓に代わっております」


「まぁ、信行兄さんのお子でしたか。信長、信行の妹になります、市です。坊丸どのは信行兄さんのお子ですから、私の甥、奇妙の従兄弟になりますね」


「はい、お市様。以後、お見知りおきを」


「そうですか、あなたが、坊丸殿ですか。見知らぬ小僧が、奇妙丸のそばにいた上に、奇妙丸が大泣きしていたので、何事かと思いましたが、従兄弟なら、さもありなん、というところですね」


「はっ、そう言っていただけると、ありがたいです」


「ふふ、坊丸殿、信行兄さんのいきさつがあれど、親戚衆なのだから、もうすこし、砕けて話してくれてもいいですよ。それに、信長兄さんや帰蝶義姉さんから、美味しい料理を作っててもらった話は聞き及んでおりますしね。さて、帰蝶様に言われた通り、その左手の手当てをいたしましょう、これ、そこの女中衆、この傷に巻くような何かきれいな布でも無いかぇ?」


「すみません、お市さま、先に水で火傷の傷を冷やしたく存じますので、水場や井戸にご案内いただけるとありがたいのですが」


「まだ、熱を持っているのですか?坊丸がそう言うのならば、まずは傷を冷やしましょうか」


「汲み置きの水よりは井戸水で火傷の部分を冷やしたり、洗ったりいたしたく、存じます」


「ふふ。なかなか、言葉づかいは変わらないものですね。では、井戸まで向かいましょうか」


そう言うと、女中さんが、井戸のほうへ先導してくれる感じだったので、後をついていこうとしたら、右手をお市様に握られて、手を繋いで行くことに。

アイドルや女優さんクラスに綺麗な人と手を繋いで歩けるなんて、役得や!

いや、お市様は、戦国時代の有名お姫様だから、アイドルや女優さんよりもレアでランクが上か?


「坊丸、信行兄上や高島殿と離れて暮らしていると聞き及んでおりますが、寂しくはないかぇ?」


「はい。柴田の親父殿は、ああ見えて、優しいですし、色々と便宜をはかってくれます。

柴田の親族の子供達とも、色々と遊ぶことも多いので、寂しくはないですね。

それに近頃は、信長の伯父上から、石高を上げる工夫をせよと、命が下り、そちらで忙しくしております」


「そうですか、ならば良かった。しかし、坊丸は、まだ幼いのに、兄上のまつりごとの手伝いをしているのですね」


「はぁ、伯父上からのご下命ですので、柴田の親父殿の協力と村の人々の努力にてどうにかこうにか、といったところですが」


「坊丸は、兄上に、期待されている、のだと思いますよ。

功を積んでいけば、いずれは織田の名前に戻す、と言われるかもしれませんね」


「そんなものでしょうか…」


織田から津田に変わったのはそんなに気にしてないんですけど…

織田でも、津田でも、生き延びられるなら、どっちでもいいや、なんて言ってはいけない流れですかね。


と、そんな話をしているうちに、城内の井戸につきました。


先導してくれた女中さんが、つるべ式の井戸から水を持ってきた手桶に移してくれたので、火傷、特に水疱の破れた部分を何度も流水でながします。

なかなか滲みるし、痛みも微妙にありますが、流水で傷が少し冷えてきました。

良かった、良かった。


「お市様、傷はだいぶ冷えて参りました。後は先程言われていた布でも、巻いておけば、とりあえずは、大丈夫かと存じます」


と、包帯を所望します。


「刀傷には馬糞を塗る事もあると、父上から聞いたことがありますが、火傷には効くのでしょうか?」


え、えぇっ!

傷に馬糞塗るンすか?

ほぼ間違いなく、馬の腸内細菌たちが創部に感染しそうですが、本当にそんな事、するんですか?

とりあえず、馬糞は断っておこう。


「い、いえ、とりあえず、傷は冷えて、きれいになりましたし、あとは布を巻くだけでよろしいかと、存じます。

この後、帰蝶様や奇妙丸様に今一度、お会いした場合、馬糞の匂いをさせながら、というのは、どうかと思いますので」


「それもそうですね。では、戻りましょう。傷に巻く布は、今、準備させますから、戻ってから巻くのがよろしいでしょう」


あ、ここでお市様が巻くんじゃないんですか。

そうですよね、傷に布を巻くのは、お市様みずからやってくれるわけないですよね。


でも、先程の広間に戻るときもお市様は手を繋いでくれました!やった!


「戻りました」


「坊丸、戻りましてございます」


お、奇妙丸様も泣き止んでニコニコしている。良かった、良かった。


「坊丸様、これを」


ん、後ろから声をかけられたので、振り返ると、女中さんから白くて細い布を渡されました。


「鉢巻にございますが、先程、坊丸様やお市の方様が言っていた傷に巻く布、として使えるかと」


「あ、はい。ありがとうございます」


あ、誰かが巻いてくれる流れではなくて、自分で巻けと。

お市様は無理でも女中さんの誰が巻いてくれるのかと思ってたよ…。

まあ、巻きますけどね。自分で。


左手に鉢巻、改め、包帯を自分で巻いてから、今一度挨拶。


「手当ていただき、まことにありがとございます。帰蝶様、お市様。奇妙丸様も、驚かせてしまい、申し訳ございませんでした」


「良いのです、坊丸。先程、表にて、詰めかけてきた者どもに応対したところ、その火傷はまだ熱い火縄銃を、殿が坊丸に渡したがゆえ、とのこと。悪いのは、信長殿ですよ」


きりっとした目尻を、わずかに下げたかと思うと、帰蝶様は、本丸御殿の方を見ながら、すこし怒って見せます。


「しかし、自分のせいで奇妙丸様を驚かせてしまいました」


と、ここは、殊勝な感じで、謝っておきます。きっと、それが正解。


「坊兄ぃ、ごめんなさい。坊兄ぃ、痛かった?」


と、そこで、奇妙丸様が、優しく気遣ってくれました。その様子を見て、自分だけじゃなく、帰蝶様以下の女子衆が優しい笑顔になりましたよ。

えぇ子やぁ、奇妙丸様、えぇ子やぁ。


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