第42話 抹茶と碾茶の間で
ども、坊丸です。
いやはや、よくわかっていませんでしたが、信長伯父さんは饗応の時に続いて火縄銃の試射の時に、自分の将来に関してすごく大切なことを発言していたっぽいです。全く気が付きませんでしたが。
自分としては、信長伯父さんは食いしん坊だなとか、やっと農業改革できそうだぞ、とかしか思ってなかったんですがね。
「はっ、小姓や近習たちは、信行様のお子とはいえ、謀反人の子である、坊丸を一門衆と呼んだことに、ざわついておりました」と柴田の親父殿。
「じゃろうのぉ」と沢彦禅師。
え、あの、ざわつきは、伯父上が、自分を一門衆、連枝衆として遇すると明言したことに対するものだったのか…。わからんかった。
「では、改めまして、津田坊丸殿。さて、いずれは織田の一門衆となられる坊丸殿の教育係を選ばせていただいたが、拙僧の選びし、教育係の虎哉宗乙めに不十分なところがあらば、この沢彦宗恩になんなりとご相談くだされ。
坊丸殿が織田の柱石となられるよう、微力ながらお力添えいたす所存」
いままで、穏やかに微笑んでいた、沢彦禅師が、急に真顔になり、居住まいをただし、こちらにしっかりと頭を下げる礼をとりました。え、なに、このいきなり丁寧な対応。びっくりするんですけど。
「これ、坊丸、沢彦禅師がこう申しておるのだ、お答えせねば、失礼ぞ」
「はっ、沢彦禅師におかれましては、この坊丸へのお力添えのお言葉、痛み入ります。今後ともよしなにお願い申し上げます」
すると、沢彦禅師がふっと微笑み、頷きました。
「やはり、坊丸殿は、どこか違うの。吉法師だったころの信長様も時々カミソリのような利発さを見せたが、坊丸殿は、まるで大人と話しているかのような感覚になる時がある。
それでいて、どこか、ふわふわとした感じがあり、そうかと思えば急に見たことのない景色を見ているかのような不思議な感じじゃ」
「おほめいただいた、と受け取っておきます」
と、無難な答えでいくしかないでしょうね。
「拙僧もほめているのか、けなしているのかよくわからん。
だがわかることは、坊丸殿が元服するその日まで、柴田殿はまだまだご苦労なさるだろうということよな」
といって、クックっクと笑う沢彦禅師。それを聞いて困ったような柴田の親父殿。
なんか、話題を転換しよう。そうだ、お茶、お茶。
「ところで、この茶は駿河の国のものなのですか?」
「そうじゃよ、駿河の国は今川館の北西の山のふもとにある臨済寺の住職よりいただいた挽茶じゃ」
「挽茶ですか?抹茶ではなく?」
「ふむ、抹茶をしっておるのか、まぁ、ほとんど同じものよな。この挽茶を用いて茶を立てるものを足利義政公と同朋衆がはじめたという。その名を茶の湯と言っておったとのことだ。元は臨済宗の宗祖たる栄西禅師が唐の国より持ち帰ったものといわれておる。まぁ、最初は薬として使われたそうじゃの」
「そういえば、茶筅などでかき混ぜたり、泡立てたりしないのですか」
「それは、茶の湯の飲み方よな。この茶は普通に湯を注ぎ、すこしかき混ぜただけじゃ。濃くすれば、眠気覚ましや気つけ薬としてよく効くぞ」
「気つけ薬ですか…。沢彦禅師、挽茶をすこしお分けいただくことは可能ですか?」
「貴重なものなので、あまり多くは渡せぬが、小ぶりの薬篭一つ分くらいなら、よかろう。たくげん漬けもいただいたことだしの。薬篭は後で返却するのだぞ」
挽茶と抹茶の違いはよくわかりませんが、ほぼ同じものの様子なので、これで抹茶を使ったものができるはず。抹茶塩とかはすぐできそうだよね。
「ありがたき幸せ。たくげん漬けと名を使わせていただいた上に、茶もいただけるとは、恐悦至極にございます」といって、殊勝に頭を下げてみた。
「坊丸殿、礼を尽くしてはいるが、ちと言葉が軽いぞ。まぁ、よいがの、ホッホッホ」
どうにも、沢彦禅師には、うまくあしらわれている感じです。かなわないなぁ…。
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