第41話 坊丸の通常運転はいつも斜め上

ども、坊丸です。

いやはや、沢彦禅師の見透かす感じの目は怖いものでした。

ですが、沢彦禅師の了解!ゲットだぜ!ってなもんで、あとは柴田の親父殿と沢彦禅師の話に付き合うだけですよ。


自分のミッションはクリアしたからね。あとはボンヤリ話を聞いてりゃいいってもんですよ。


「お師匠さま、お茶をお持ちいたしました」

宗尋さんが、ナイスタイミングで声をかけてくれました。そして湯飲みを先程と同様に配ってくれます。




って、話が切れるタイミングを見計らっていたかのように、宗尋さんがお茶を持ってきてくれました。


きっと、見計らってたよね。襖の向こうで。




全員、たくげん漬けで口のなかがややしょっぱかったせいでしょうか。すぐに湯呑みを手に取り、一服します。




「ほう、坊丸殿も茶を嗜まれるか。茶は渋みがありますからなぁ。幼子は、あまり、茶を好むとは思わなかったが」




うん、煎茶かと思ったんだけど、薄い抹茶か濃い粉末緑茶かって感じ。




思っていたお茶とは、ちょっと違う。




ま、外見は子供、中身は大人ですからね。渋みの中に旨味を感じる味覚も持ってますよ。




「お茶、美味しゅうございますな」と、柴田の親父殿。




「駿河の臨済寺の住職から茶を分けてもらってな」




す、駿河?今川の本拠地じゃん。なんで分けてもらえるの?




「駿河、ですか。今川の領地ですが、交流があるのですか?」と、聞いてみました。




「ふむ、坊丸殿が幼子にも関わらず周辺諸国の情勢を知っているのは、本当なのですな。拙僧が信長様に以前お会いした時に、信行殿の最期の後、末森城で仕置きを行った時に信行殿のお子が、童にも関わらず、天下の話をしくさったと言って、笑っておられました。てっきり、信長様の冗談と思っていたのですが…」




沢彦禅師、質問に答えてくれて無いでっすよぉぉ!




「沢彦様、それがしが本日参ったのは、そのことについてなのです」


と、食いつき気味の柴田の親父殿。へぇ~、なんか自分がらみの相談ですか?


お、お茶がうまい。




「ふむ、坊丸殿のことで、とのことですか。ちなみに、以前、ご依頼いただいた教育係、虎哉殿は、まだまだかかりそうですな。岐秀禅師から甲斐の長林寺を出たという連絡はきましたがの、その後、虎哉本人より一度手紙が来て、まだ信濃は木曽、長福寺にて修行しているとのことじゃ」




ですよね。虎哉禅師の確認だと思いますよね。




「わかりました。虎哉禅師は、修行熱心と言うか、自由と言うか…」


と、すこし呆れ気味の柴田の親父殿。




「それはさておき、坊丸殿のことですな」


うん、話を戻すのね、沢彦禅師。




「はっ、先日、殿が酔っぱらった時に坊丸を元服させる、信澄と言う諱を与えると申されました。ただ、酒の席の御言葉でしたので、どこまで本当か、と思っておりました」


うん、伯父上、そんな話していたね。ずずずぅ~。お茶がうまい。




「ふむ、信長様が、坊丸殿を元服させると申されたか…」




「はい、濁り酒を灰と炭を用いて澄んだ酒を作った功績にて、伯父上より、信澄の諱をいただきました!」


どうですか!いい仕事したんですよ、自分!とすこしアピール。




「坊丸殿、信長様が元服させると申した上、諱をくださった意味、よもやわかっておらんのか?」

と、目を見開いて驚いた様子の沢彦禅師。




「はぁ~、坊丸は、こう言う奴なのです、沢彦禅師」




「良いですかな、坊丸殿。信長様が坊丸殿を元服させると申されたと言うことは、今のところ坊丸殿を仏門に入れることはない、十五、十六の歳までは命を奪うつもりはない、と申されたのと、同じなのですぞ」


あれ、沢彦禅師、すこし説教モード?




「えっ、そう言うことだったんですか?」




「やはり、わかっておらなんだかぁ…」

と、天を仰ぎ見る、柴田の親父殿。だから、自分が不穏な事をいう前に、親父殿は無理矢理返事を被せ気味にしてあの場をやり過ごしたんですね。




ぜんぜん気がつかなかった&ありがとう、親父殿。




「諱に信の字を上にもらえたのも、大きいですな。信の字は織田弾正忠家の通字。津田の姓になってはいるものの、通字がいただけたということは、一門、連枝として扱う可能性があるということだと思われる」




「そ、そこでござる。先日、殿の火縄銃の試射を見せていただいたとき、殿が坊丸に火縄銃についてどう思うかを聞いた後、いずれは、一門衆、連枝衆として、殿と奇妙丸様を支えるように、とご下命いただいたのでございまする」




「な、なんと。火縄銃の試射ということは素面よの。して、その場に、他の者どもはいたのか?」


え、沢彦禅師、なんで驚いているの?




「橋本一巴殿、佐脇や長谷川といった、近習や小姓衆、それに少し離れてござったが護衛に太田牛一といったところがおりました」




「老臣、重臣格はおらんとはいえ、複数の人間が信長様の、坊丸は一門、連枝であるという言葉を聞いたのだな」




「はっ、小姓や近習たちは、信行様のお子とはいえ、謀反人の子である、坊丸を一門衆と呼んだことに、ざわついておりました」




「じゃろうのぉ」




え、あの、ざわつきは、自分の返答についてではなく、伯父上が、自分を一門衆、連枝衆として遇すると明言したことに対するものだったのか…。わからんかった…。


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ここまで読んでくださりありがとうございます。




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