第36話 沢庵禅師の名をいただくはずだったモノ

ども、坊丸です。

火縄銃の試射を見に行くだけのはずが、袴着の儀やら乗馬訓練やら農業改革のご下命やらイベント盛りだくさんな感じに化けまして、すこしお疲れの坊丸くんです。はぁ。




そんなこんなで、いろいろあったんですよ。


柴田の親父殿のお屋敷に帰って、すこし休んでいると料理番のお滝さんから声がかかりました。


いや~、もう今日は、イベント発生させる気ないんですが…。




「坊丸様ぁ、ご帰宅ですか!ご帰宅なら、台所に顔をだして下さい」


はぁ、信長伯父さんから、何かうまいもの作ったら知らせろって言われた直後に、台所から呼ばれるのかよぉ、とか思ってしまうのは、悪ですか?


ま、そんなこと考えながらも、台所に行きますがね。




「はいはい、お滝さん、呼んだ?」




「あぁ、坊丸様、およびだてしてすまないね。以前、坊丸様に頼まれた大根の丸干しを糠漬けにした奴がさ、なんか黄色くなってきたんだよ。ほかの漬物も色が変わることはあるけど、黄色にはならないからねぇ、大丈夫かね、心配になっちまったよ」




お、沢庵漬け、そろそろできてきたのか?でもまだそんなに時間たってないけどな。




「どうでしょうか、一度見せてもらっていいですか?」




お滝さんが、糠漬けの壺の中を手で探って、糠漬けにされた丸干しの大根を数本出してきました。




「坊丸様、ほら見てごらん、この大根だよ。前に頼まれた通り、丸のまま10日ほど干してから、糠漬けにしておいたんだけどさ。毎日手入れしていたら、大根が黄色くなってきたんだよ」




お、まだ浅漬けな感じだけど、大根が少し黄色になってきてます。


これぞ、糠漬けの、乳酸菌の、乳酸発酵の力!大根の辛み成分を乳酸菌が分解です!


辛み成分が分解された化合物になって黄色くなるって、その昔、聞きましたよ、爺ちゃんに。




でも、後で調べたら、βカルボリン化合物以外にもアスコルビン酸が発生して黄色くなるとも書いてあったんだよね。


アスコルビン酸というと、あれですな、ビタミンCですな。




「大丈夫ですよ、お滝さん。黄色くなっているのは、上手に漬っている証拠ですよ。とりあえず、ぬかを落として、食べてみましょう」




「あ、坊丸様、火縄銃どうでした? お滝さん、ネギ持ってきましたよ」




お、お千ちゃんいつものようにタイミング良く登場ですね。




「あ、お滝さんが心配していた、大根のぬか漬けですね。お滝さんが言ってたとおり、なんか薄く黄色いですね」




その黄色いのがいいんだけどなぁ…


と、お滝さんが手早くぬかをおとして、大根を輪切りにしてくれます。




「できたよ、坊丸様。さあ、どうぞ」




大根のぬか漬けなんだから、そんなに警戒しなくても…


お、ぬか漬けの旨味、塩気、その向こうにすこしある大根から出た野菜本来の甘味。


転生前に食べてたのは、だいたいの奴が着色料と甘味料入ってたからね。


爺ちゃんの従兄弟が自宅で作ったお手製のやつをもらったことあるけど、こんな感じだったよ、ウンウン。色は鮮やかな黄色じゃなくて、味も塩気の向こう側にある甘み。




あ、そう言えば、転生前に買った山の前の地主さんは、爺ちゃんの従兄弟の友達の方なんだけど、どうしてるかなぁ。


いきなり、いなくなって心配させてるかもなぁ。


前の地主さんから、爺ちゃんや爺ちゃんの従兄弟も連絡いっただろうな。


そこから、両親に連絡いって、いきなり消えたって聞いて、二人とも悲しんだだろうな。


ほんと、すまん。


それに、職場とかも混乱しただろうなぁ。ま、こっちは致し仕方ないとあきらめていただこう。


なんか、神こと次元管理者の人とあの天使にやられる前のこと思い出して、ちょっと感慨深くなっちゃったよ。




「どうしました、坊丸様。やはり不味かったかい?塩辛かったのかい?」


「いえ、大丈夫です。ちょっと、いろいろ思い出しちゃって」


「いろいろですか、そうですよね、坊丸様は、まだ父上を亡くして半年もたっていないのですもんね。高島局様にも、もうあれから会っていないし」




なんか、お千ちゃんが壮絶に勘違いしてます。


まぁ、なんで感慨深くなったかの原因、訂正するのは、不可能でなんですがね、時間線が違うから。




「うん、お千ちゃん、ありがとう。でも、大丈夫。大根の糠漬け、しっかり漬っていて、すこし甘味があって美味しいですよ」




「そうですか、坊丸様が大丈夫っていうなら信じます。そして、いただきま~す」


「じゃ、あたしも。坊丸様の舌は信じているからね」


ポリポリポリ。二人がたくあんを食べる音が響きます。あ、まだ、たくあんじゃないのか。




「うん、すこし浅漬け気味の糠漬けって感じだね。干してあるからか、普通の糠漬けとちょっと触感が違うね。これなら、うちの殿様や奥方さまにも出せるね」




「坊丸様、甘いっていうから期待したじゃないですか!普通の糠漬けよりは甘味が少し強いくらいですよ」


それは、かってに思い込んだお千ちゃんが悪い。




「ちなみに、まだ日にちが経っていないから、薄黄色くらいだけど、数か月したら、もっと黄色くなるはずですよ」




「味は、どうなるんだい」




「今日食べたのは、まだかすかに大根の辛みがありますけど、もっと大根の辛みが抜けて美味しくなるはず、です」




「はず、ねぇ。ま、坊丸様のいうことだ、信じるしかないか。今日出したのは、このまま夕餉で出すとして、実はもう一つ相談があるんだよ」




「もう一つ、ですか?」




お滝さん、もう一つって、なにか、まだ問題あるんですかぁ?


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ここまで読んでくださりありがとうございます。




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