第35話 信長伯父さん、食いしん坊、バンザイですか?

ども、坊丸です。火縄銃の訓練を見学するだけのはずが、信長伯父さんから意見を求められました。三段撃ちの前振りをしたので、後は帰るだけ~




って、思ってたんですけどね…




「時に坊丸、清酒で煎り酒とか申すものを作ったとか」




「はっ、柴田家の料理人が、煎り酒なる調味料を知っておりましたので。本来は米をかなり削って作る諸白という澄み酒で作るらしいのですが、聞くところによると、諸白の澄み酒はかなり高値だとか…。安価な濁り酒から作る清酒で作れれば、と思いまして…」




「して、その煎り酒で白身魚を食ったと」




なんつうか、煎り酒で、ホウボウの刺身とカワハギの肝和えをたべたことがすでに筒抜けなんですけど?


さっきから、隣にいる柴田の親父殿が微妙に視線をこちらからはずした感じで、じっと地面を見ているんですが…


親父殿ぉ、まぁた、美味かった美味かったと伯父上の前で言いくさりましたね?ね?


ジト目で親父殿を見たうえで、問いただしたいところですが、ここは伯父上の返答を優先しないといけない場面ですな。




「はっ、聞くところによると、生の魚を短冊に切った刺身、切り身は、塩や酢で食す事があるとか。それ以外では魚を生に近い姿で食すのは野菜と酢で和えた膾になると聞きましたので、何か違う食べ方はないかというので考えました。それと、それがし、酢が苦手でして、酢以外の食べ方をと、刺身に煎り酒、味噌だまりなぞをあわせてみました」




「ん?真夜寝酢や多留多留蘇酢では酢を使っておったではないか?」




「たしかに、酢は使っておりましたが、あれらはどちらかというと卵の黄身が主体の調味料かと」




「ま、たしかにな。で、生魚を塩や酢以外で食おうとしたときに、煎り酒を、か」




「は、そうでございます。酒の中の旨味と梅干の旨味、塩気、それに鰹節の旨味と加えてみました」




「で、あるか。話を聞くだに美味そうじゃの。それにカワハギの肝に煎り酒と味噌を合わせたもので、カワハギを食ったとか。勝家はそちらが絶品だったと、何度も申しておっての」




はい、確定。


柴田の親父殿が伯父上の前でホウボウの刺身カワハギの肝和えが美味かったと言ったせいで、今こんな目に合ってるの、確定。




「は、以前のなめろうと同じ、漁師のつくる料理法の一つにカワハギの肝和えというのがあると、柴田家出入りの魚屋より聞きまして、魚の肝なんぞどうして使うのか?とも思ったのですが、魚を知りつくした漁師が作るのであれば美味かろうと、作ってみました。ただ、肝に臭みなぞもあるやも、と思いまして、味噌や煎り酒で臭みを消し、味を調えてみた次第でございます」




「で、あるか。坊丸、今後、美味いものを作ったときは、清須にも知らせよ。勝家が大げさに言っておるのだろうとは思うが、やはりどんなものか儂も気になるからな」




「はっ、今後は、美味きものができた時には、柴田の親父殿と相談し、包丁頭の井上殿にご連絡申し上げます。井上殿もよろしければ、それがしの作った料理を殿のもとに届けていただくようにいたします」




「包丁頭の井上には伝えおく。楽しみにしておるぞ」




「は、殿のご期待にそえるよう、精進いたします」




「で、あるか。坊丸。美味いものをつくるのに精進するのは良いが、そなたは、我が連枝じゃ。連枝衆、一門衆として儂と奇妙を支えねばならん。体錬に勉学も励めよ」


やっば、怒ってる感じじゃ無いけど、正解じゃ無かった感じ。お怒りではなく、ゆっくり諭してくれてる呈だから、ここは、殊勝に振る舞うが吉ですかね。




「ははっ、津田坊丸、体錬、勉学もおろそかにせず、一門衆、連枝衆として恥じぬようなるため、努力いたします。そして必ずやひとかどの武人となり、殿と奇妙丸様をおささえ申し上げます」


これで、正解でしょ。


の、わりには小姓や近習の方々、柴田の親父殿が微妙にざわついているのが、解せぬ。




「で、あるか。坊丸、儂は、来年までには岩倉の伊勢守家を討伐し、尾張を手に入れるつもりだ。今のそなたに槍働きは期待しておらん。お主は、どうも、他のものが考えないようなものの見方をしている感じがする。その不思議な視点で、尾張の石高を、米の収量をあげる策を考えろ。勝家、そなた、坊丸の後見人であるからな、坊丸の策が使えるか、領地の一部で試せ」




「はっ、しかし、もし、坊丸の策が外れたときは、その村の年貢が大変なことになりますが…」




「安心しろ、坊丸の策に協力する村は年貢を一部免除する。例年より多くとれた時は例年並み、例年より少なければその分年貢を減らす。儂とて鬼ではないわ、坊丸の策が必ず上手く行く等とは考えておらんからな、協力する村にも少しは利益が出るように配慮するわ」




「ははっ、殿のご恩情、痛み入ります。今の内容であれば、幾つかの村は坊丸の策を試すことを受け入れると思いまする」




「後見人の勝家がああ申しておるのだ、坊丸、石高を上げる策、疎かにするでないぞ」




「は、津田坊丸、槍働きに代わりまして、尾張の石高を上げるため、殿のため粉骨砕身、策を絞り出す所存です」




「で、あるか。皆の者、幼き坊丸も、尾張のため、儂のため、働いてくれると申しておる。勝家、一巴、そして近習衆、坊丸に敗けぬよう、次の岩倉との戦では、そなたらの一層の奮起に期待しておるぞ」




「「「ははっ」」」


その場にいる家臣一同が、一斉に片膝をつき、伯父上に向かって首を垂れました。慌てて、自分も同じ姿勢を取りましたよ。


しかし、自分に対しての話の流れから家臣を奮起させる人心掌握の術、そしてナチュラルなカリスマ性、やっぱ織田信長はすげえわ。


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ここまで読んでくださりありがとうございます。




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