第34話 柴田の親父殿、火縄銃の試射、頑張って!

ども、坊丸です。信長伯父さんと橋本一巴殿の鉄砲の訓練を見学するだけのはずが、柴田の親父殿が鉄砲の試射することに。なんだかなぁ。




「勝家、せっかくだから、火縄銃を一度射ってみるが良い」




少しにやついたような、いたずらっ子のような微笑で伯父上が親父殿に言いました。


伯父上がそういうこといい出したら、実質上の君主命令ですからね。




「はっ、では、火縄銃を使わせていただきます」




一拍おいて、柴田の親父殿が諾と答えます。


あの微妙な一拍、親父殿もいろいろと考えたんだろうなと思いますが、そこはそれ、気がつかないふりですよ、ええ。




「柴田殿、こちらへ」




親父殿は、岩室さんに案内され、伯父上と橋本一巴殿の方に歩いていきました。そして、火縄銃のセッティングを手伝ってもらうご様子。


使ったことない道具を使うのってプレッシャー掛かるよね。しかも、火縄銃は火薬を使うし。


いつも豪快な親父殿が火皿に火薬をもる時とか、手震えている感じだったし。




親父殿は岩室さん、山口さん、橋本一巴殿の従者の人にいろいろ手伝ってもらって、伯父上たちが射撃した位置に火縄銃を持って移動していきます。佐脇さんがそばに立って、三番目の巻き藁を指さしていろいろ話している感じなので、伯父上がつかった巻き藁人形のうち、一番損傷が少ない巻き藁人形を目標として指示されているご様子。


なんか、親父殿の顔がどんどんこわばっていきます。ありゃ、もの凄く緊張しているの確定ですね。




親父殿がおぼつかない手つきで火蓋をゆっくりと切り、引金に指をかけます。


照準を先目当、前目当を使ってつけるはずなんですが、もしかすると分かってないかもしれません。


あるいは緊張で忘れてしまっているかも。何となくで引金を引くご様子。




「パァァァァァン!」




親父殿ぉぉぉ!ああ、撃った瞬間に銃がすこし跳ねた気がする!


何度も撃っている伯父上や橋本一巴殿と違い、親父殿は撃った衝撃や音で驚いちゃった感じです。


巻き藁人形には、当然当たらず、何の変化もありません。


あ、佐脇さん、一応、巻き藁人形を見に行くんですね。でも、伯父上や橋本一巴殿の時と違って、歩いて行ってます。ま、外れてると思ってるからでしょうね。


うん、佐脇さん、入念に巻き藁人形をご確認のご様子。




「柴田殿、外れにございます!」




「で、あるか」


伯父上、すこし嬉しそうに答えます。当然、柴田の親父殿は悔しそうですが、最初の一発から命中させたら、すごいことだと思いますよ。




「殿、お借りした火縄銃をお返しいたします。外れてしまいました。面目ない」




「槍働きが自慢の鬼柴田でも、火縄銃は勝手が違うものよな。儂とて最初から当てられたわけではない。ま、火縄銃がどういうものか、経験させたかっただけじゃ」




いや、口先ではいいこと言ってますが、絶対、外れる姿が見たかったに違いないやつですよ。


だって、伯父上、悪い感じの微笑ですもん。




「は、殿のご配慮、痛み入ります」


あ、伯父上の口上を柴田の親父殿は素直に信じている感じですか?親父殿は真面目だなぁ。




「で、坊丸は火縄銃の訓練を見て、どう思った」


やっべ、こっちに伯父上のチェックが入りましたよ。末森城で面談した時のような圧は感じないけど、織田信長から直で質問来ると、やっぱりプレッシャー半端ないっすね。




床几から降りて、片膝をついて答えようとすると伯父上から優しい一言が。




「坊丸、よいよい。礼儀は大事じゃがな、今回は良い。座ったままでよいから答えよ。火縄銃についてどう思った」




「さすれば、座ったままにさせていただきます。火縄銃についてですが…。まずは、伯父上、橋本一巴殿の腕前に驚きました、あとは…」




「坊丸、世辞のようなものはいらん」


伯父上から冷たい一言が!えぇぇ!主君の鉄砲の腕を褒めて怒られるって理不尽じゃねぇ!


まぁ、織田信長っぽいと言えば織田信長っぽいのですがね。




「は、すみませんでした。では、おそれながら…」


もう、長篠の戦いで行われたという伝説の三段撃ちの話をしちゃいますか!


でも、全部自分で説明するとまた機嫌悪くなるかもしれないからなぁ。


饗応の時に楽市楽座のアイディアの一部を話した時も、急に伯父上の雰囲気が変わって、いらぬプレッシャーがかかったしなぁ。


いろんなアイディアを散らして出して、自分で気づいてもらうのが、一番無難かなぁ…。




「柴田の親父殿のように初めて、鉄砲を撃つものは、音、光、煙などでかなり驚く様子。鉄砲隊を編成する時は、専門部隊として、鉄砲に慣れたものだけで編成するしかないと思います」




「であるか」




「また、鉄砲に慣れないのは、敵兵も同じこと。敵兵は音、煙、光で驚き、さらに、その後に味方が急に倒れる、間違いなく、慌てふためくかと」




「それよ、坊丸。戦は、兵法も大事じゃが、兵の数、士気も大事じゃ、火縄銃は敵の士気を削る武器になりえるのだ」




「ただ、それは、敵兵が火縄銃の何たるかをあまり知らぬうちの話、いずれは慣れてしまうでしょう」




「果たして慣れるかな、まぁ、お主がそういうなら聞いておこう」




「それに、柴田の親父殿のような筋骨隆々としたものでも慣れなければ当たらず、橋本一巴殿のような細身の方でも、慣れていれば当てられます。つまり、鉄砲を扱うものは、体格や力はあまり必要でない様子。今まで、体が小さく、線が細く、弱兵と思われていたものを有効な戦力にかえることができるかもしれません」




「それよ、尾張は皆、弱兵であることで有名じゃ。三間半の長槍を足軽に持たせたのも、兵の恐怖心をすこしでもごまかすためのものよ。鉄砲をそろえれば、尾張の弱兵を鉄砲をうまく扱う強兵に変えられるやもしれん。やはり、火縄銃は数か…」




「そうですね、あとは火縄銃はどうしても先込めなので、手順が多いし、撃つまでに時間がかかりますね。一巴殿の従者の方などはとても手早く、火薬、弾込め、押し込み、火皿の準備、火縄の準備をしますが、普通の足軽などは相当訓練しないと時間がかかって無理ですね。どうにか手順を簡略化できればいいのですが。例えば、口薬と弾をまとめて入れられるようにするとか」




「ふむ」




「殿、一言、申し上げてよろしいですか?」




「師匠、許す」




「それがしは行いませんが、ほかの流派では口薬と弾をまとめて銃口から入れやすくしているところがあると聞いたことがあります。たしか、早合といったはず」




「師匠、いや、橋本一巴、織田家当主として命ずる。早合について可能な限り調べろ。そして、当家でも使えるようにしろ、良いな」




「は、橋本一巴、早合の調査、当家での使用についてのご下命、しかと承りました」




「伯父上、鉄砲のこと、まだ申し上げたき儀が」


そろそろ三弾撃ちのことを話しますか…




「おお、坊丸、良いぞ。おぬしの目の付け所は面白いから、まだ何かあるというなら聞かせて見せよ」




「は、しからば、火縄銃の弱点は一発撃ったあとの隙かと。その隙を無くす、つまりは射撃間隔を短くする工夫ですが、案としては二つ。伯父上と小姓の方々がしていたように、射撃に特化した集団と弾込めに特化した集団を作り、射撃組が火縄銃を撃ったら、弾込め組に渡し、弾込め組はあとは撃つだけの火縄銃を射撃組を渡すと分業をすすめるのが一つ。もう一つは、鉄砲隊をいくつかの組に分け弾込め、射撃準備、射撃と行い、また、後方に下がって弾込め、射撃準備、射撃と繰り返す案です」




「で、あるか。どちらが良いかは、訓練次第よな。二組に分けての分業の方が早そうじゃが、鉄砲撃ちの方だけ打ち取られてへったら困るな。分業や組み分けしての射撃であれば、射撃のあと、敵が近づかない工夫も必要であるな」




「柵を幾つか立て、その内側で撃って、敵が近づいたら、次の柵の内側に逃げ込むというのもよろしいかと」




はい、三段撃ちを誘導完了いたしました。


あ、信長伯父さんのことだから、長篠の戦いの前にいろいろ試しまくって、長篠の戦いが伝説にならないかも…


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ここまで読んでくださりありがとうございます。




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長篠の戦の鉄砲三段撃ちは最近は否定的な意見も多いですが、フィクションなのでロマン重視です。

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