第29話 沢彦禅師に再会したよ!

ども、坊丸です。

元服後は、信長伯父さんがお酒を飲みながら考えてくれた諱、津田信澄になる予定の坊丸です。


はぁ、今朝は、朝から柴田の親父殿から説教です。




「だから、殿が元服後の諱をくださった時は、素直に、ありがたくいただくものだぞ、坊丸殿」




「いやぁ、殿も新しくできた酒に酔った勢いで名前を提案したのかと… あの瞬間に諱と言われてもピンとこないというか…」




「あのな、坊丸、例え、酒の席で、酔ったうえで言ったことでも、主君の言ったことは、命令としてとらえる。とりあえず、そうしておいた方が良いのだぞ。しかも、今回はわざわざ主君が諱をくださった。とりあえず、状況はどうあれ、喜んで受け取るのが、筋というものだぞ!」




「あの場面で、柴田の親父殿が、それがしの言葉を遮ったのは、そういうことだったのですね…」




「あと、座を無くすことを提案した時の殿の顔、ご覧になったか?小童に口答えされたから、鬼の形相に見えた。あの状況では何らかの処罰と言われてもおかしくなかったのですぞ」




「はい…、あの場面は、さすがにやってしまったと思いました」




「殿に意見するのは、我々、宿老の衆でも、殿の機嫌や顔色を見ながら行うものだぞ。次からは、本当に、本当に気をつけてほしいものだ」




「あい、すいませぬ。以後、気を付けます」




「次は、橋本一巴殿の鉄砲を見るのであろう?たぶん、殿も同席なさるだろうから、決して粗相の無いようにな、な!」




「はい、本当に気をつけて対応いたします」




「ふぅむ、昨日の事は、これくらいにしておくぞ。今日は、政秀寺に行くからな、準備をいたせ」




「そうですか、親父殿、いってらっしゃいませ」




「この馬鹿者!坊丸、お主の教育係を沢彦禅師に頼みに行くのだ!当然坊丸も一緒に行くのだ!」




「えぇ~」




「えぇ~、ではないわ!小牧山の近くまで行くのだ、今日は儂の馬に2人乗りで向かうぞ」




「はいはい」




「返事は一度で良い!速やかに準備いたせ!」


うーん、今日は、柴田の親父殿、沸点低めだな。まさか、「はい」は一度で良いって、ベタな怒られ方しちゃったよ…。今日は大人しくしておこう…




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政秀寺に向かう馬上、道すがら親父殿から今回訪問の詳細を聞かされました。




「吉田次兵衛殿から坊丸殿がすでに読み書き算盤が、年齢以上にできていることは報告を受けていたのでな。先日の法要でお会いした沢彦禅師に、坊丸殿の教育係のこと相談しておったのじゃ。昨日、我々が、清須城で殿の饗応をしている間に、沢彦禅師から便りが届き、一度、政秀寺にて会いたいとのことであったので、本日、政秀寺に向かっているというわけじゃぞ」




「教育係ですか…」


読み書きは普通にできるし、算盤については、算数・数学でしょう?


さすがにいろいろ忘れているけど数Ⅰ・Aくらいなら覚えているから、この時代の人に敗ける気はないけど…あ、そうだ、アラビア数字を使うのを許可してくれれば、もっと確実で早くできるんですがね、うんうん。


アラビア数字を使うと、なんか不思議な文様で計算しているって言われるからね…


最近は、面倒くさいから、坊丸の考えた数字の暗号ですっていうことにしているけどさ…


理科もまぁ、覚えてる内容は大学入試レベルは行けるはずだし、生物系に関してはそれ以上だからね!


あ、社会は歴史の一部は使えるけど、地理は特産品の知識とかは使えないところもあるのか…

江戸時代以降に日本に入ってきたものが特産品になっているところはわからないしな…


公民とか現代社会は、全然使えないし、むしろこの世界の常識を教えてもらわないといけないからな…




「もしかして、不思議なことや粗相を繰り返すから、教育係が必要だとか思いました?」




「それもある。お主は、変なことを知っているくせに当たり前のことを知らんかったりするからな。そこいらへんも教えてもらうのだ。次兵衛がもう無理だと泣きおった。教えるのが辛いと、大の大人を泣かすなんぞ、聞いたことがないわ」




「はぁ、あい、すいませぬ」




「お主のことを言っておるのだぞ、坊丸。まったく…。で、話は戻るがな、お主以上の問題児、うつけを教育係として、立派に育てたお方がいる。それが今日これから行く政秀寺の沢彦禅師だ」




「もしかして、その問題児、うつけって、伯父上のことですか?」




「あまり大きな声で言うなよ、坊丸。はぁ、そうだ、我らが主、織田信長ことうつけの吉法師様を教え導いたのが、平手政秀殿と沢彦禅師じゃ。うつけを尾張の風雲児に育て上げた実績のある沢彦禅師にお主の教育係を頼むのだ」




「伯父上と同じ教育係を手配いただくとは、恐れ多いやら、痛みいるやら」




「そういうところだぞ!坊丸!こちらを無駄に心配させおってからに…」




という話をしていたら、着きました、政秀寺。山門にかかっている政秀寺って山号額を見て初めて気が付きました。政秀寺って、織田信長の守り役、平手政秀さんを弔うお寺なんですね!




ということをつぶやいたら、また柴田の親父殿に怒られました。


「先日のお歌の法要の際、帰り際に、沢彦禅師がそのように申しておっただろうが!聞いておらんかったのか!」って。




聞いた気もするけど、この後、自分に関係すると思ってないから聞き流した上に覚えてないんですが、そういうと、また親父殿に怒られるの確定なので、ここは素直に聞いてなかったことを謝っておきます。




「頼もうぉ~!織田家家老、柴田勝家とそのほか壱名、沢彦禅師のお呼びによりまかりこした」




といって、山門近くの厩に乗ってきた馬をつなぎ、寺の中にずんずん入っていく親父殿。


寺男や小僧さんがやってきたので、もう一度案内を乞うと、話が通っていたらしく、すぐに、本堂近くの方丈のほうに通されます。




六畳ほどの書院造を一段簡素にしたような方丈に案内されると、沢彦禅師が既に座って待っていました。




「柴田殿、坊丸殿、よくぞ参られた。急にお呼び立てして申し訳ない」




「いえいえ、こちらこそ、お願いしていた坊丸の教育係についてのお話とあれば、とるものもとりあえず、参った次第」




「そのことでな、ちと話しがある」




「お聞かせ願いたい」




「拙僧こと沢彦は、臨済宗妙心寺派に属しておるのはぞんじておるかな?美濃・尾張は妙心寺派の強い土地柄でな、美濃の瑞龍寺、犬山の瑞泉寺など名刹が多数ある。その妙心寺派の寺院に、織田の子息の教育係を探しているので、誰か適任者はいないかと連絡をいれた。だが…」




「だが、なんですと?」




「尾張、美濃で拙僧の依頼にこたえる寺院も僧もおらんかった」




「どこもだめなのですか!」

柴田の親父殿、声が大きいですよ。




「吉法師こと織田信長殿の評判が、あまりにも大きくての。同じ織田の子息、しかも変わり者か麒麟児かかいまだわからぬ坊丸殿となると、吉法師どのと同じくらい大変ではないかと噂になっての」




「我が殿の悪評、ここに極まれり!ですか…」




「いや、悪評というわけではない、君主としての評判は上々だと思うぞ。だが、拙僧が教育係を務めておったころ、悩んでおった姿を近隣の僧たちは皆みておるし、拙僧も集まりで愚痴を言いすぎたかもしれんしのぉ」




カラカラと笑う沢彦禅師。いやぁ、教育係見つかんないんすか。そうすか。仕方ないっすねぇ。




「で、ここからが本題じゃ」




え、今までの前振りなの?信長伯父さんと俺ををディスったのが、前振りなの?




「で、仕方なく、近隣の妙心寺派の者ども以外にも声をかけた。かつて共に切磋琢磨した面々や、まあ、従兄弟弟子、再従兄弟弟子とでも言うべき連中じゃな。そのなかで応えてくれたのが、美濃の快川禅師、甲斐の岐秀禅師じゃ」




「はぁ…」




「勝家殿でも快川禅師のことも岐秀禅師のことも知らぬか。」




「は、不勉強にて…」




「まぁ、良い。儂の師匠の師匠の興宗宗松と快川禅師の師匠の師匠たる独秀乾才、岐秀禅師の師匠の師匠たる天縦宗受の三人の禅師はな、悟渓下八哲に名を連ねる名僧中の名僧なのじゃよ。まあ、そういうわけで拙僧と快川禅師、岐秀禅師は同門の、まぁ、再従兄弟弟子なのじゃ。そして、岐秀禅師は甲斐の武田に重く用いられている高名な学僧なのじゃよ」




「つまり、先程名があがった快川禅師、岐秀禅師…そして沢彦禅師は、名僧の孫弟子で、今の臨済宗妙心寺派でも有名な方ということですね」




「まぁ、自慢するようになるから、そういう言い方は好かぬが、まぁ、そうなるかの」




沢彦禅師は、知り合いのお二方とその師匠たちの凄さをアピールしながら、自分もそれに劣らないくらい凄いんだぞ!とアピールなさっていらっしゃるご様子。ここは、素直に感服しておきましょう。




「はぁ~!沢彦禅師はそれに劣らぬお方なのですね、感服つかまつりました」


「それがしも、同じく、でござりまする」




「まあ、そう驚かずとも良い、で、その二人がな、同じ学僧を推挙した。また、本人も此度の話を受けてくれるとのことで、師である岐秀禅師より文が届いた。その僧の名を虎哉宗乙という。美濃出身の英才らしいのぉ」




虎哉禅師って、伊達政宗の教育係、師匠じゃん!なんか、凄い人きたぁ~。




「ま、甲斐、信濃、美濃などの妙心寺派の寺を回って修行したり見聞を広めたりしながらこちらに向かうと言うでの、数ヶ月後に来ることになるらしいがのぉ」


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ここまで読んでくださりありがとうございます。




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