第30話 いつもの魚屋さんは三郎さんていうらしいですよ!

ども、坊丸です。数ヶ月後に虎哉禅師が自分の教育係になることが決まりました。


確か虎哉禅師って、痩せ我慢を強要したりする変わり者だった気がするので、やっていけるか不安です。


ま、教育係として赴任してくるのは数ヶ月後、って話です。今は永禄元年2月ですから、実際に会うのは永禄元年4月5月ごろですかね。


ま、今は気にしても仕方ありませんね。ウンウン。




それはさておき、せっかく清酒の作り方を信長伯父さんの前でぶっつけ本番で成功させたので、その清酒を使ったものでも作れないかなぁ…と考えているわけですよ。




まぁ、五歳児ですからね、飲むわけにはいかんのですよ。


天使のミスで死んじゃう前は日本酒と焼酎をメインで呑んでましたがね。




「ちわ、魚屋です。いつも、鯵をたくさんお買い上げありがとうございます。ちなみに今日はホウボウとカワハギの良いのが入ってるんですが、どうですかね?鯵だけにします?」


あ、遠くで魚屋の人の声が聞こえる。




「坊丸様、魚屋が来ましたよぉ~!手習い終わったならすぐ来てください!終わってなくても来てください!」


なんか、料理番のお滝さんが、無茶苦茶なことを言って、俺のことを大声で呼んでますが、どうしますかねぇ?


ねぇ?次兵衛さん?




「はぁぁぁぁぁぁぁ。仕方ありませぬな、今日はここまでにします。台所にいってらっしゃい」


心の底から絞り出すようなタメ息をつく、次兵衛さん。


先日、政秀寺に行ったときは、そんなに次兵衛さんに迷惑かけてないと思ってましたが、いやぁ、実は次兵衛さんにストレスかけてるんだなぁ、と、今、実感しました。ええ、たった今。




「次兵衛殿、申し訳ございません。では、呼ばれたようなので、台所に、行ってまいります」


はぁ、今日はだるい漢字の書き取りと計算問題だったから、呼び出してくれたお滝さんには感謝だけど、なんだろうね?


魚屋がきたっていってたけど。




「お滝さん、呼んだ?」


といって、台所に足を踏み入れると、魚屋さんとお滝さんがいました。それと、ちょうど昆布と鰹節を持ってお千ちゃんが入ってきたところのようです。




「お滝さん、乾物屋さんで昆布と鰹節買ってきましたよぉ!あ、坊丸様、どうしたんです?また、なにか思い付きました?」




「いやいや、お千ちゃん、今回は、お滝さんに呼ばれたから来ただけで、なにか新作を思い付いたわけではないよ」




「またまた、それでも、なにか作り出すんでしょ、坊丸様のことだから」




むう、お千ちゃんに自分が新作をすぐ思いつく創作料理人のようなものだと思われている様子である。


マヨネーズとタルタルソース以外は、戦国時代的に何か変わったもの作ったか?腑に落ちぬ…




「それはともあれ、お滝さん、何用ですか?」




「ああ、魚屋がね、ホウボウとカワハギを持ってきたって言うからね、坊丸様なら何を作るか聞いてみたくてね。あたしじゃ、焼くか煮るかばかりだからね」




「刺身はどうですか?」




「お、坊丸様、お目が高い、知多や伊勢では、ホウボウもカワハギも今が旬だぁ!脂がのってるから、刺身にして、塩や酢をさっとやって生の旨味で、喰う。これが漁師の食い方さぁね!」




「三郎、お前、魚屋で漁師じゃないだろう!」




魚屋さん、お滝さんにツッコミ入れられてますよ。そして、笑って誤魔化している。


ちなみに、いつも来る魚屋のお兄さんて三郎さんていうんだ!初めて知ったよ。あ、ちなみに屋号は三河屋さんじゃないよね?


ま、そこは置いておくとして、




「カワハギの肝はどうです?魚屋さんの三郎さん?」




「お、ますます、良いね。坊丸様、カワハギの肝の旨味を知ってるのかい!カワハギは今の時期は肝も美味いよ。別にして焼いて喰ってもよし、味噌と肝をたたいて、刺身に和えて喰うのも良いね」




カワハギの肝あえかぁ…


冬の味覚だよね…


時々行っていた銘酒居酒屋だと、冬のカワハギは、基本、肝和えだったなぁ…


って、味噌と和えるのか!そういえば、醤油って見なかったな、今まで!


そっか、それかぁ、いまいち、ご飯の味に満足しなかったのは!


醤油ないのか?戦国時代!




「ちなみに、お滝さん、醤油って聞いたことある?塩気のある濃い茶色の液の調味料なんだけど?」




「はぁ、なんです、坊丸様?藪から棒に?醤油?聞いたことないね!」




「大豆と塩、麦、麹で仕込む調味料なんだけど?」




「大豆と、塩、麦、麴で仕込むのは、麦味噌だろう!なんで汁みたいになるのさ!」




「塩水を使う、とか?」




「塩水?味噌を仕込むときに塩水は使わないんじゃないかい?あ、そうか、坊丸様のいってるのは、味噌だまりのことなんじゃないかい!味噌を取っておく時、重しを乗せることがあるんだけど、時々、味噌の上に黒っぽい液が出るんだよ!」




「それです、きっと」




「お千ちゃん、味噌の壺、もってきてくれるかい?味噌だまりが出てるか見てみようじゃないか!」




お滝さん、話が早い。味噌だまりか、醤油の原型みたいなものかな?


お千ちゃんが持ってきた味噌の壺を三人で覗き込む。確かに、味噌の一部に茶色い液が出ている。




「これって、集められます?」


「匙ですくってみようかね。味噌だまりは旨味があるんだけど、この色だろう!料理には使わないよ。それに、少ししか取れないし。まぁ、味噌蔵だったら大量にとれるかもしれないけどね」




確かに、小さめの木の匙でふたすくいしかありません。小皿にとってもらったものをなめてみようとしたところ、後ろから声がかかりましたよ。




「あの~、お取込みのところ悪いんですが、ホウボウとカワハギ、どうします?お買い上げで?」




「ああ、三郎さん、すまなかったね。で、坊丸様、どうします?両方もらいますか?」




「そうですね。両方買い取りましょう。その代わり、鯵は今日は無しで良いんじゃないですか?」




「だってよ、ホウボウとカワハギもらうよ。鯵は今日は勘弁してもらうよ」




「へぃ、毎度あり!また、ごひいきに!」




魚屋さんと柴田家の台所の大帳を前にお滝さんと三郎さんがやり取りして、掛け売りの取引が成立したようです。


で、今日は鯵が売れなかったんですが、魚屋の三郎さんはホウボウとカワハギがさばけたからでしょうか、機嫌よく帰っていきました。




で、味噌だまりです。




「坊丸様、味噌だまりだけを取り出してみたけど、どうするのよ?普通は、また味噌に混ぜ込んでなじませるもんだよ、これは」




「とりあえず、味噌だまりだけで味わってみましょうよ」




「坊丸様、お滝さん、お先にどうぞ!」お千ちゃんがすごくいい笑顔でそういいますが、色を見て、最初になめるのを拒否ってる感じです。




「じゃ、お先に」って、料理番のお滝さんも手を出しやがらねぇぇ!一人でチャレンジかよ!




お、塩気はそこそこありますが、豊潤でわずかに甘みがあり、それでいて味噌のコクをしっかりと感じられる液体です。


でも、醤油とは何かが違う気がする。醤油に負けないくらい美味いけど。




「坊丸様、難しい顔して、どうなんだい、美味いのかい?不味いのかい?」




「うん、塩気と味噌のコク、すこしの甘みがあり、美味しいですよ」




「なら、そんな変な顔しないで、いつものように『美味しいぃ~』って大きな声でいいなよ。まずいのかと思っちまったよ」




といいつつ、お滝さんが小皿に小指をつけて、一舐めしてます。




「あぁ、味噌だまりってこんな味だったのかい、知らなかったよ。美味しいねえ」




「じゃ、私も~!うん、美味しい~!」




「でも、坊丸様、味噌だまりが美味いのはわかったけど、料理には使いづらいよ。なんといっても、この色。ほうじ茶を、更に煮しめたようなこんな焦げ茶色じゃ、何をやったって茶色になっちまうよ。それに量。さっきも言ったけど、味噌だまりは、いつもできるわけじゃないんだ。できてくるのは味噌の気分次第だよ。たくさんほしいなら、味噌蔵にでももらいにいかないと」




「まぁ、色はなれてもらうとして、量が安定して出来ないと、使いづらいですね…」




「あっ」


料理番のお滝さんとディスカッションしていると、ガシャンという音とともにお千ちゃんの声が。


お滝さんとともに、お千ちゃんの方を見ると味噌だまりをいれておいた、小皿が地面に転がっています。




「!」「何やってるんだい、お千!」




お千ちゃんは素早く味噌だまりの入った小皿を拾っていますが、小皿の一部がかけ、味噌だまりの半分程は、地面にシミを作っています。




「ごぉめぇんなぁさぁい、ぼぉまるさぁまぁ」


欠けた小皿を手に持って泣き顔のお千ちゃん。




「お千、落としてしまったのは仕方ないよ、それより欠片なんかで怪我はないか?」




まさか、ここでお千ちゃんのドジっ子パワーが発揮されるとは…


末森城にいたときに比べると、最近はドジっ子しないなぁと思っていたのですがね。


伯父上の饗応の時も俺と違ってやらかさなかったし…




でも、覆水盆に帰らず、味噌だまり小皿に戻らずですからね。


お千ちゃんが怪我しなければ良しとしましょう…




でも、味噌だまり、だいぶ少なくなっちゃったなぁ…


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ここまで読んでくださりありがとうございます。




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