第24話 タルタルソースと水飴と
はい、津田坊丸です。
今日は、明日の信長伯父さんの饗応役に向けて水飴作り本番です。とはいっても、柴田の親父殿と婆上様への朝の挨拶廻り、朝飯前の鍛練はいつも通りですがね。
で、朝御飯いただいています。そこで、柴田の親父殿から小言いただいちゃったよ。
「坊丸、明日は殿への饗応の予定だが、恙無く準備はできているのか?城に何かしら準備を依頼するなら、この後、登城するまでにいうのだぞ?」
「そうですね、では朝御飯のあと、お知らせ致します」
「うむ、それと、お妙殿や理介から麦を育てていると聞いたが、此度のことと関連はあるのか?なければ、そんなことに時間を使うのではないぞ?」
「勝家、坊丸殿が意味もなく物事をするとは思えません。それに饗応の話をいただいてから始めたことなら、何らかは関連あるのでしょう。ねえ、坊丸殿?」
「はっ、心配をおかけして申し訳ありません。実は、麦を用いて、水飴を作ろうとしております。つきましては、本日、餅米を少々いただきたいと思います」
「餅米と麦から水飴を作るとな?飴は、飴の職人や飴細工の職人から高値で買うものではないのか?」
「職人とて、何もないところから作り出すわけではございません。ただ、この作り方と同じやり方をしてるかは知りませんが。何はともあれ、上手く行けば水飴ができるはずです」
「理介より農民の真似事をしておると聞いて心配していたが、水飴を作っていたとはな…」
柴田の親父殿、そんな遠い目をしないでくださいよ。なんだか、すごく悪いことしていた気がするじゃないですか!
そんな話をしながら、朝餉をいただきます。今日の漬け物は昨日の野菜の酢漬けですね。らっきょうと大根いただきます。ん、このシャリっと感が、良い。あ、らっきょうの酢漬けをピクルスと玉ねぎの代わりにすれば、タルタルソースっぽいものができるんじゃないか…
よし、これも一緒に試作だ!
そして、食事のあと、親父殿が登城です。
「では、清須城に行ってくる。清須の厨方の方には、卵と鯵以外には餅ときなこ餅、水菜と白菜、昆布と鰹節と伝えればいいのだな」
「はい、お願いします、親父殿。後、帰りに明日の試作用に鯵を数匹手に入れていただけるとありがたいです」
「分かった。城に行く前に出入りの魚屋に伝えて、屋敷に届けさせる」
「はっ、宜しくお願いします」
とこんなやり取りをして、柴田の親父殿を見送った。
柴田の親父殿を見送った後は、いつもなら手習いや理介達と遊ぶんだが、今日は、婆上様、お妙さんらお千ちゃんとそのまま台所に行きます。つうか、水飴ときいた女性陣が勝手についてきているだけですが。
「お千ちゃん、縁側に発芽した大麦を乾燥させたものがあるはずだからとってきて!あ、料理番のおばちゃん!もち米のおかゆ作りたいんだよね。もち米は5合くらい。水多めで。」
「坊丸様、例のブツ、持ってきました!」
「なんだよ、例のブツって。乾燥麦芽でしょ。まぁ、いいか。乾燥麦芽は、すり鉢で砕こうか」
ここからは、料理番のおばちゃんがもち米のおかゆ担当、自分とお妙さん、お千ちゃんで乾燥麦芽の粉砕作業です。そして、婆上様は水飴がすぐできないことを察したのか、いつの間にかいなくなってます。
やるな、婆上様。さすがは、亀の甲より年の劫だぜ!面倒くさいところから即離脱な!
「もち米のおかゆはできたよ。冷ましておいていいのかい?」
えぇっと、実習の時は、温度計で50-60度になるようにして、交代で測って、冷ましたり、温めたりした気がするんだが、料理用の温度計とかない、戦国時代どうする?
「とりあえず、煮立ったやつは冷ましておいて。それとは別に、小さい鍋や器で良いから井戸水とわいたお湯を同じ量で準備して!」
「お湯を沸かすんだね。小さい鍋で良いならすぐ沸くよ。」
「沸いたら、同じ量の井戸水を入れて、熱さをみてください。それくらいの温度でおかゆの温度を維持できます?」
「ふん、これくらいの熱さだね。熱いけどしばらくは触れるくらいか…。覚えたよ。この温度くらいで維持すればいいんだね、坊丸様」
「その温度を2-3刻、維持してほしいんです」
「2-3刻もかい!そりゃ手間暇がかかるね」
「できます?」
「馬鹿にするんじゃないよ、柴田家の台所を預かって、はや25年、粥の温度を維持するなんて難しくもないよ!」
「坊丸様、お話し中申し訳ないんですけど、乾燥麦芽を砕くの終わりましたよ」
「ありがとう、お妙さん、お千ちゃん。できたものを、もち米のかゆに入れてよく混ぜて」
「はい、はいっと」「返事は一回で良いわよ、お千。すぐやりましょ」
「混ざったみたいだね。後は私がかき混ぜながら見ておくよ」
「おばちゃん、ありがとう」
「なあに、これで本当に水あめができるのか、私も興味あるしね」
お千ちゃんとおばちゃんは鍋を覗き込みながら、かき混ぜています。
「はい、お千ちゃん、水あめが気になるのはわかるけど、こっちはタルタルソースつくるから」
「多留多留蘇酢?またへんな酢をつくるんですか?」
今、絶対、タルタルソースでない、何か不思議な酢の名前が創造された気がする。
「タルタルソースは、マヨネーズに野菜とか漬物とかゆで卵を足してさらにおいしくしたものことだよ」
「へぇ~」「お千、無駄口をたたく暇はないわ!坊丸様、すぐ作りましょう。さぁ、作りましょう!多留多留蘇酢とやらを!」
お妙さん、ちょっと怖いよ!そんなに焦らせないでよ!
まぁ、お妙さんは、マヨネーズ好きだもんね。前回作った後、自宅でも卵が手に入ったときに試しに作ってみたって言ってたし。
「真夜寝酢のつくり方は、わたくし、お妙にお任せあれ。坊丸様とお千は、そのほかの準備を。あ、でもそのほかの準備も見てみたい。くぅ~」
お妙さん、キャラ壊れてませんか?だいじょうぶですか?
「お妙姐さん、坊丸様と隣で作るから大丈夫ですよ。真夜寝酢を作りながら見ていてください」
あ、お妙さんの顔色がいつもの慈愛に満ちたものに戻りましたよ。よかったよかった。
「じゃ、ラッキョウの酢漬けとネギをみじん切りにしようか。あ、おばちゃん、ゆで卵と余った白身を茹でたやつ作りたいから隣の窯でお湯沸かすね」
「ゆで卵と白身を茹でたやつだね。こっちで作っとくよ。どうせ、火加減見ながらかまどの前にいるんだ、一緒にやっとくよ。ていうか、白身を茹でたのはすぐできるよ」
「ありがとう!じゃ、お千ちゃん、我々は、みじん切りを続行だ」
「みじん切りできました!ほかに何するんですか?」
「茹でてもらった白身の塊もみじん切りで、出来れば荒みじんで、ネギやらっきょうよりも、大きめで」
「卵も茹であがったよ」
「卵も同じ荒みじんにするんですが…、はい、自分が剥きます」
「真夜寝酢は出来てますから、私が剥きますよ坊丸様」
「お妙さん、ありがとう!」
「白身の茹でたのとゆで玉子のみじん切りも終わりましたよ、はぁ、もうしばらくみじん切りは勘弁です」
「じゃ、マヨネーズにらっきょう、ネギ、玉子のみじん切りを混ぜて、最後に青のりを少し振りかけて!」
というと、お妙さんが、黙々と混ぜ始めました。
「こんなもんでどうですか?」
「完璧です!」といった瞬間、お妙さん、お千ちゃん、料理番のおばちゃんの指がタルタルソースを作っている深底の器に突っ込まれました。ずるいよ、発案者より先に味見するなんて!
「真夜寝酢に似て非なる独特の味わいですね。玉子の感じが濃い」
「らっきょうとネギのシャリっとした感じが爽やかですね」
「青海苔の風味と玉子の風味が良いね」
くっそぉ~、みんな、食リポが上手くなってやがる。発案者がなにも言えないじゃないかぁ。
「うん。予想通り美味しいです」
ウソです。タルタルソースに近い和風の何か…以上でも以下でも無いです。これをタルタルソースと言ったら、何かが違うことになっちまいます。でも、和風でタルタルソース風のなにかとしては十分上手いっす。
「ちわ、魚屋です。柴田の殿様から鯵を持ってくるように言われたんですが…」
「あいよ、何匹持ってきた?」
料理番のおばちゃんが威勢良く答えてます。
「一応、いつもの6匹ですね。店に戻ればまだあると、思いますが?」
「坊丸様、どうします?」
「6匹、とりあえず下さい」
「だ、そうだ。6匹おくれ」
「へぃ、毎度あり!今後も宜しくお願いします」
じゃ、鯵の唐揚げ作りますか。油で揚げてもらおう!
「油で揚げる?そんなに油を使うのかい?しょうがないね、灯り用の油をもらってきて」
なぬ?揚げ物は、一般的ではないのか、戦国時代?
「はい、もらってきますね」お千ちゃん、対応早いよ。
「その間に鯵をさばいておくよ。代わりにお妙さん、餅米の粥の様子を見といてくれ」
「捌いた鯵にうどん粉をまぶしてください」
「あいよ、とりあえず二匹をさばいたよ」
「油、もらってきました」
あ、油はそんなに多くないんですね、どうしよう…
で、できるだけ油の消費量を減らすために掛け揚げにしました。
鯵の唐揚げを作っているといつの間にか婆上様が台所に来ています。揚げ物の香りに引き寄せられたんだな、きっと。
鯵の唐揚げに和風のタルタルソースぽいなにかをのせて、完成。
二匹しかないので、みんな食べたいので、牽制しあってます。
おもむろに料理番のおばちゃんが四等分に切って八個に増やしてくれました。
皆で食べられて幸せです。
よし、鯵の唐揚げのタルタルソースっぽいもののせも、信長伯父さんの饗応に出せそうです。
と、いろいろなやっていると、餅米の粥にだんだん透明な上澄みみたいなのが出てきました。
「そろそろ良さそうですよ。袋で絞って下さい」
女性陣、興味津々です。料理番のおばちゃんに餅米の粥を火から下ろしてもらって、布袋に移し、頑張って絞ってもらいます。絞るのは、幼児は無理だからね!
「坊丸様、これで完成ですか?」
「まだ、これを煮詰めないと完成ではないですよ」
といってるのに、女性陣、指を入れてなめています。いつもは上品な婆上様も、絞ったものを受けた鍋に指突っ込んでます。
「少し甘いですが、まだ飴、ってかんじではないですね」
「ほんのり甘味がある蜜って感じですかね」
「水飴にはなってないね」
「だ、か、ら、これを煮詰めて完成ですよ!」
グツグツ煮詰めるのを皆で見つめること、四半刻、とろみがついて、やや茶色になってきたところで完成です!
「あっ!」お千ちゃん、まだ鍋を火から下ろしたばかりですよ?もう少し待とうよ!
あ、おばちゃん、鍋を水につけて冷やすんですか、賢いですね。
「「「「甘~い」」」」
いやはや、ギリギリですが、水飴もできましたよ。これで明日の饗応は、勝ったも同然です!
あ、ちなみに残りの鯵は唐揚げにして、三枚分作って夕餉にいただきました。
柴田の親父殿は、涙をながしながら、ごはん4杯食べてました。
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