第17話 坊丸の調味料づくり、始まるよ~!
ども、津田坊丸です。
年が変わりました。で、永禄元年と改元されました。通例だと、朝廷と足利将軍家が相談して改元するのを、今回は朝廷と三好長慶の間で相談して決めたらしいです。
足利将軍より三好長慶の方が実質的な畿内の支配者って朝廷が認めちゃったってことですな。
そして、私、数えで5歳になりました。どうしても、頭のなかは、満で数える印象があり、年齢を間違えそうになることはしばしばです。
それはさておき、甘いものが食べたい。
が、この時代、まだ砂糖は琉球やら南蛮人との交易で手に入れるとても貴重なものらしく、ほとんど流通してません。
果物も、梨とか桃とかブドウなど甘味の強い果物は尾張の特産品じゃないらしいし…
真桑瓜は、美濃の特産らしく簡単に手に入りますが、微かな甘味が有るだけだし…なんつうか、瓜の味の向こう側に甘味が控えているって感じ?
うつけ時代の信長伯父さんは、瓜をかじりながら町を歩いていたって柴田の親父殿から聞いたけど、甘味と水分を手軽に摂取できる真桑瓜を食べていたに違いない。
腰にも下げてたらしいし、現代の感覚ならスポーツドリンクを常備しながら町歩きしてる感じ?
ただ、この戦国時代の感覚だと、食べ歩きしている人は超だらしない人扱いだから、うつけに見えるよね。
熱中症にならないためには、水分、塩分、糖分の摂取が必要だから真桑瓜良いと思うけど。
多分、信長伯父さんの、若い頃は何でも見たい聞きたいやりたいって感じで時間が惜しいから、水分補給に茶屋とかでゆっくり座って茶でも飲んで休むのすら、時間が惜しかったんだろうと思う。全部推測だけど。
「母上、ただいま戻りました。領地の者共から、土産を持たされましたぞ!後で皆で食べましょう」
甘いものが食べたいなぁ…と思っていたら、柴田の親父殿が領地の見回りから帰ってきました。やったぁ!お土産だって!何かな?冬だし、干し柿とかだったら嬉しいけど!
「親父殿!お帰りなさいませ!土産があるとか!」
「おう、坊丸殿、ただいま戻った。土産の話をもう聞いたのか!耳が早いな!」
いやいや、家には入る前から、あなたが家中に聞こえる大声で土産あるって宣言してたから!
「土産は、これじゃ」
籠のなかに藁と卵が沢山ありますね。
藁が土産のはずがないので、鶏卵がお土産ってことですね。うん、甘いものじゃなかったよ…
「何をがっかりしている、土産と聞いて、なにやら珍しいものでもあると思ったか?儂が出かけたのは、自分の領地ぞ。この卵とて、儂が見回りに来るからといって、領民の皆が、今朝、鶏が産んだばかりの卵をわざわざ取り置いて、持たせてくれたものじゃ、ありがたくいただかねばな」
はい、説教いただきました。こういう時は、殊勝なふりをして聞き流します。
「権六、坊丸殿も分かっている様子。それよりも厨に卵を運んでいただきましょう」
「それもそうですな、では、坊丸、それと、お妙さん、いただいた卵を頼みます」
柴田の親父殿から渡された籠を持って、厨に行きます。ま、卵を転んで駄目にされないように、実質的にはお妙さんが運んでますが。
厨には、お千ちゃんといつもの料理担当のおばちゃんがいます。既に夕飯作りが始まっている様子。大根と白菜を刻む包丁の音がしますし、ざるには五、六匹の鯵の干物があります。
今晩の献立は、大根と白菜の味噌汁に鯵の干物を炙ったものでしょうか。
「お千、勝家様が領地の方々より、卵をいただきました。せっかくですから、料理番の方に頼んでなにか一品、夕餉のおかずにでもしてください」と、お妙さんがお千ちゃんに卵の入った篭を渡しました。
「は~い、お、沢山の卵ですね。これだけあれば、みんなに卵焼きを作っても余りますね。明日の朝は卵かけご飯にして、夕は茹で玉子でもつけられそうですよ」
「そうですね、それでも余ったら、皆で持ち帰るのがいいでしょうね」料理場のおばちゃんも自分にもお裾分けしてもらえそうなので、嬉しそうです。ウンウン、良かったね。
大量の卵かぁ…
一、二個なら使わせてもらってもいいかなあ…
「お妙さん、あのね、信行の父君のところで見た、唐の国の書物に載っていた調味料を作ってみたいんだけど…手伝ってくれる?」
「は?唐の国の調味料ですか?そんなもの、いきなりはできませんよ、坊丸様」
お妙さんに優しくたしなめられます。が、夕御飯の代わりに炒り豆数個を手に入れるまで粘った交渉力を発揮しますよ。今ここで!
「卵の黄身と塩、酢、それと少しの油を混ぜるだけの調味料だから、お願い。卵が沢山あるから、試してみたくなったの」
お目目キラキラさせて、お願いします。お願い、プリーズ。
「あまり多く使うと、お梅様や勝家様に叱られますから、使う卵は二つまでですよ」
やったぜ、ベイベェ。キラキラ目力で調味料作りのチャンスを勝ち取ったぜ。
え、何を作るのかって?卵の黄身、酢、塩、油ですよ。みなさん、もう分かってますよね?そう、マヨネーズ様です。
ちなみにお妙さん、安心して!冷蔵庫無いから使いきりの量しか作る気もありませんからね。
卵二個を割ってもらい、白身と黄身を分離してもらいます。あ、汁椀の蓋に黄身を、椀に白身を取り分けたんですね。
さて、家庭科の実習で作ったマヨネーズの作り方、思い出せ、俺の脳細胞。
とりあえず、焼き物の器に黄身をおとしてもらい、塩を小さじ1、酢を大さじ2で混ぜる感じだったはず。で、後は油を少しずつ加えて混ぜてちょうどよさげなところで止めればいい、はず。
「お妙さん、まずは黄身を潰してください、そのあと、塩を小さじ1杯、酢を大さじ2杯入れて混ぜてください」
「は?何です?その小さじとか大さじとか」
やっちまったぁぁぁぁぁぁぁ!この時代、まだ小さじや大さじとか無いのねぇぇぇ!
「なにか小ぶりのさじはありますか?」
「お千ちゃん、さじある?」
「はい、お妙さん、散蓮花でよければ、どうぞ。あ、坊丸様と何か作ってるんですね?美味しいやつですか?」
「美味しいかどうかは、分からないわ。坊丸様の言う通り作ってみるだけね。美味しく出来たら、誉めてちょうだい」
なんか、お妙さんにチョイ、ディスられぎみな気がしますが、ここは、男として、味の探求者として引くわけには行かないのです。
「蓮花か…、だいだい知ってるサイズと同じだな、多分、大さじ二杯分くらいはありそう…」
「坊丸様、どうします?蓮花で良いですか?」
「はい、酢を蓮花で一杯、塩は…、指で二摘まみ、三摘まみほど入れてください」
「入れましたよ、次は?」
なんか、お妙さん、言い方、冷たい感じ。
「よく混ぜてください、ある程度混ざったら、油を少しずつ加えて混ぜてください」
「ハイハイ」
くっ、完全に馬鹿ガキのイタズラに付き合わされている感じだな。乳化が進んで一番良いときがきたら、必ずやビックリさせてみせるからな!
「あ、いい感じです。一度手を止めて!」
「これで完成ですか、黄色と白の間の不思議なとろみの汁ですね。舐めてみていいですか?」
って、いいですよって答える前に、お妙さん、もう指にマヨネーズすくってるじゃないですか!
あ、俺も俺も。
ふたりで、マヨネーズをなめます。
「マヨネーズ、うまぁ~」
やったぜ、ついに現代の味、再現したぜ!よくやった俺、全力で誉めてあげたい、おれを。
この時代の油は、胡麻油なんで、ちょっと香りが予想と違いますが…。でも、味付けはほぼ成功です。これは成功の部類です。
「あ、美味しい。もっと酸っぱくて、もっと脂っこいかと思った!」
あ、その感じだと、やっぱり、お妙さん、まともなものができると思ってなかったんですね。
仕方ないよね、五歳児がいきなり美味しい調味料のレシピ知ってるとか絶対信じないよね、普通。
「あ、できたんですか、私にもください。あ、うん、コクがあって、旨味があって、ちょっと酸っぱくて、美味しいぃ」
あ、お千ちゃんいつの間にか近寄ってきて舐めてるし。
ま、美味しいって言ってくれてるし、良いかな。
ね、美味しいでしょう、マヨネーズ。
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