第16話 柴田家の法要に参加したよ!

ども、津田坊丸です。


今日は柴田の親父殿も、鍛練軽めで、朝食後は、仏間に向かった様子。何かいつもと予定が違う感じ。

仕方ないので、朝食後に婆上様に聞いてみます。


「婆上様、親父殿は、今日は登城したりしないのですか?」


「坊丸殿は、初めてでござりましたな。今日は、うちの息子の先妻、お歌の命日なのですじゃ」

仏間を見ながら、穏やかに微笑む婆上様。


「それは、存じ上げませんで」

知らなかったけど、ここは、畏まっておくのが正解。きっと、多分。


「いえいえ、坊丸殿には伝えてありませんでしたからね。今日は一門が、焼香に参りますので、ご一緒に迎えていただけますか?坊丸殿のご紹介もありますので」


「承りました」

そんな感じでこたえて殊勝な顔をしておきます。


「では、仏間へ参りましょう」

婆上につれられて、仏間へ向かうことになりました。


仏間では柴田の親父殿が、登城するようなきちんとした服装で、静かに読経しております。


「親父殿、婆上から、お歌どのの命日と伺いました。一門への紹介も、あるとのこと、ご一緒させていただきまする」


「うむ、坊丸殿は、それがし、母上とならんで座り、一門を迎えていただきたい、よろしいかな?読経はしなくてもよいからの」


「承りました」

とこたえ、二人のとなりにできるだけ神妙な顔で座る。


しばらくすると、柴田の親父殿より少し若い感じの武士と、婆上似の女性が幼子を抱き、いつも遊んでいる理助とその弟の久六と一緒に現れた。


「柴田殿、本日は、宜しくお願いします」


「権六、本日は宜しくお願いします」


「「お願いします」」


柴田の親父殿を権六呼ばわりするってことはどうやら、柴田の親父殿のお姉さん夫妻らしい。


お、いつもは、元気の塊みたいな理助もさすがに畏まって、仏壇に手を合わせております。

理助と久六は、勝家の甥っ子なんですね。


「佐久間の兄上、兄上も末森での仕置きの場にいらっしゃったから御存じとは思いますが、勘十郎信行様の忘れ形見、坊丸殿です。下に後二人おりまして、こちらも当家で預かっておりますが、まだ幼き故、お目に掛けるのは、また後日といたしたく」


「佐久間 久右衛門 盛次にございます。隣に控える勝家殿の姉を娶っております。勝家殿からすれば、まぁ義理の兄になりますな」


「佐久間殿は、信長様の今の筆頭家老、佐久間信盛殿の従兄弟にございます」

と、婆上様が補足情報をくれます。ぶっちゃけ、佐久間盛次?誰?ってなっていたからありがたいっす、婆上様。


「津田坊丸です。柴田の親父殿にお世話になっております。今後、宜しくお願いします」


「これが、子息の理助と久六、伊助です。理助と久六は、既に一緒に遊んでいるとか、坊丸君、今後もよろしゅうお願いします」


「いえいえ、こちらこそ宜しくお願いします」


三歳児ですが、頭脳は大人、ここは、謙遜しながら対応が正解ですよね。


「これ、理助、柴田殿と坊丸君に挨拶せぬか!」

佐久間盛次殿が、理助の頭を無理やり下げてます。いつもは、子供達のリーダーみたいに暴れまわっている理助、頭が板の間に押し付けられてやんの、ぷぷ。


「いやいや、柴田様、少し遅れもうした」

と、吉田次兵衛さんとその奥さん、それと伊介が登場です。


「権六、本日はお歌さんの四回忌、ご焼香させてくださいね」


「義兄上、姉上、本日はご足労ありがとうございます」


吉田次兵衛の一家が焼香してます。伊介は、お利口さんに父母を見習って焼香してます。偉いぞ、伊介。こないだ遊んであげたの覚えているか?


「姉上、こちらは、信行様の忘れ形見、津田坊丸殿です。次兵衛は、既に手習いを見てもらっているから、見知っているな?伊介も、先日こちらに来たとき、会っているよな」


「津田坊丸です。以後お見知りおきを」


またまた、神妙な顔で頭を下げます。


「すまん、柴田殿、少し遅れた」


「兄上、すいません、遅れました」


「これはこれは、佐々政次殿、本日は妻、歌の、四回忌にご足労ありがとうございます。まずは、焼香を」


「おう」


二人が焼香を済ますと、またまた、紹介タイムです。


「政次殿、こちらは、信行様の忘れ形見、今は姓を織田から津田に改めた、津田坊丸殿だ。政次殿は、末森での仕置きの際におらなんだが、仔細は聞き及んでおられるか?」


「末森での仕置きの際に信長様の供回りを勤めた弟の成政から、少しはな。柴田殿が、信行様の御子息を預かったと聞いておる」


え、今の話ですと、柴田の親父殿の義弟、佐々政次さんは、冬の日本アルプスを越えた佐々成政さんのお兄さんてことですか?佐々成政って織田家の重臣クラスじゃん。


ていうか、柴田の親父は、義兄の佐久間盛次さん経由で佐久間信盛と親族で、義弟の佐々政次さん経由で佐々成政と親族と…。

織田家の重臣て、血縁関係、凄く濃いな。


「勝家殿、沢彦禅師は、まだ着いておらぬようですな。間に合ってよかった」と、柴田の親父殿より20歳から30歳くらい年上の方登場です。


「これはこれは、溝口の義父上、どうぞこちらへ」


父上の前に溝口ってつけてたから、多分、お歌さんのお父さんなんでしょうね。わからんけど。とりあえず、神妙な顔で頭を下げとくことにします。


あ、どうやらお坊さんも到着の様子。


「皆さん、お揃いのようですな、本日は柴田勝家殿の亡き御内儀、お歌殿の四回忌の法要を勤めさせていただきます、政秀寺の沢彦宗恩でございます。では、早速始めさせていただきます」


仏壇の前に沢彦さんが座り、最前列に婆上様、柴田の親父殿、そして何故か、俺、という席次。

その後ろの列に、左から溝口の義父上、吉田次兵衛さん一家、佐久間盛次さん一家、佐々政次さんご夫妻と並びます。

その後ろに、手の空いた家人や妙さん、お千ちゃん達。

良いのかなぁ~?いくら元柴田勝家の主君の子供とはいえ預かっているもらっている子がこんな前で…。


あ、沢彦宗恩、沢彦禅師ってことは、信長伯父さんの教育係を勤めたお坊さんだよね。岐阜の名前を考えた人だったはず。そんな人を命日に呼べるって、柴田の親父殿、やっぱり織田家でも偉い人なんだなぁ…


あ、読経終了ですか。そろそろ、おとなしくしているの辛いので、他の子供達と一緒に退散したいのですが…。


「沢彦禅師、本日は、亡き妻、お歌の為にありがとうございました。それと、信長様からお聞き及びかもしれませんが、こちらが、信行様の忘れ形見、坊丸殿です」


「ほう、こちらが…」


沢彦禅師が、目を細て、こちらをじっと見てきます。目をそらしたいのですが、何故か沢彦禅師にしっかりと向かい合い、目をそらしてはいけないような、不思議な感覚です。自分の感覚では、十分、二十分も向かい合っていたかんじですが、実際はもっと短い時間だったみたい。


「不思議な目をしている童ですな。数えで四歳。満で三歳と聞いていたが、目付きやその奥の雰囲気、魂の色の様なものは、童にはあらず、もっと年上、そろそろ三十路くらいに見える、といったところかの」


「そうですか?お褒めいただいていると思って宜しいのでしょうか?」

本心は焦りまくりですが、丁寧に対応です。


「並みの三歳、四歳にこのような対応はできまい。しかし、邪悪な気配はない様子。御仏の加護という感じでもない… 不思議というよりほかないのぅ」


と沢彦禅師が目を細めたまま呟いています。


「坊丸様は、一を聞いて十を知る、そんな麒麟児なのかもしれないと思っております。信行様と問答して、信長様を討つには美濃、岩倉と結んで包囲すべしとか、信行様を討った謀もなんとなく察していた様子」


その呟きを聞いた柴田の親父殿が、沢彦に答えています。

なんか、めっちゃ買い被られている感じなんですけど。誉められてるぽいけど、麒麟児って恥ずかしいよね。


「拙僧も、信長様から伝え聞いております。末森での仕置きの際に『信長様は天下を取る』と申し上げたとか… 。 柴田殿、坊丸殿の養育に困ったときは、相談なされるが良い。拙僧は、天下のうつけもの、吉法師こと信長様の教育係を勤めましたからな、なにか助力致せることもありましょうぞ」


「沢彦禅師、その節は宜しくお願いします」


沢彦禅師と柴田の親父殿が、顔を見合わせたあと、深々と頭を下げあってます。

え、何。麒麟児って持ち上げられたあと、吉法師こと信長伯父さんの幼少のうつけぶりと比べられた気がするんですが… 納得いかぬ…。


「さてさて、其では拙僧は、政秀寺に戻り平手殿のために経の一つでもあげますかな」


沢彦禅師が帰ったあと、柴田家の広間で皆で精進料理をいただくことになりました。

今日は、子供達、遊ばずに親に連れられて直で帰宅の様子。年の近い子供達と遊ぶのも楽しいけど、体力使いきるまで遊びやがるから、今日くらいは良いかな。


柴田の親父殿、婆上様と一緒にみんなをお見送りです。

佐々政次さん夫妻が屋敷を後にする直前、柴田の親父殿が佐々政次さんを呼び止めました。


「政次殿、稲生の戦いでは、貴殿の弟、孫介殿を我が手の者が討ったこと、誠にあいすまぬ」


「勝家殿、勝敗は兵家の常。武士ならば、死ぬ覚悟なく戦場に出ることはあるまいよ。弟が死んだこと、気にしてはおらぬよ」


「そう言ってもらえると、幾分かは気が休まる。お気遣い有難い」


「いやいや、こちらこそ、頭まで下げてもらって、有難いことよ。弟は、潔い死に様じゃったか?」


「近くで見た限り、佐々孫介殿の奮戦、死に様、誠に潔いものでござった」


「ならば、よし、よ。孫介は死んだが、その分、下の弟の成政が信長様の馬廻りとして取り立ててもらった。孫介には申し訳ないが、佐々の家としては信長様には存分に報いてもらっておる。何も恨み言は言うまいよ。だが…」


「だが、なにか?」

ちょっと不安げに、答える親父殿。


「信長さまには一日も早く岩倉の織田伊勢守家を下し、尾張の中で小競り合いをするような日々を終わらせてもらいたいものよな」


「誠に」

絞り出すように答える、親父殿。


「では、勝家殿、後日、清須でな」

そういうと、佐々政次殿は、穏やかな笑顔で、去っていった。


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