第9話 信行パパに大逆転の献策をしてみたよ

ども、織田坊丸です。


先日、信行パパと土田御前グランマが大ゲンカしました。ていうか、土田御前グランマが叱り飛ばしたのに対して、信行パパが口答え&周囲の物にあたったようです。襖がざっくり切れてました。刀振り回したんでしょうか?危ないなぁ、もう。


それ以外にも、信行パパと高島局こと吉野ママが口喧嘩してました。

なんつうか、末森城内、特に奥向きは嫌な空気が充満してます。

そのくせ、吉野ママでも先日出産の側室の人でもない人が懐妊してました。


つうか、そっち方向にやることはやるのな、信行パパ。鬱屈していても、酒浸りでもEDにはならないんだね。そこんトコロ、男としてちょっと尊敬します。あ、今、体は3歳児ですが。


それでも、信行パパは一日一度は嫡男の自分の顔を見に来ます。いろいろ、織田家の心得とかをしゃべってくれたりします。ごくまれに、鷹狩のコツをすごく楽しそうにしゃべってくれます。

美濃から白山神社に登って行って、しばらくそこに籠って俗世のことを忘れたいとかいうこともあります。


色々、逃避したい様子です。

それと、信長伯父さんに何故負けたんだろうとかつぶやいていて、いまだに稲生の戦いの敗戦を引きずっているみたいです。勝家に指揮を任せず、自分が指揮を執っていれば…とかも言いだします。


いつまでも敗戦のことを引きずっている様子を見かねて、ついに意見してしまいました。3歳児が、自分の父に。


「父上、いつもお話を聞かせてくれて、坊丸はとてもうれしいです。でも、父上は伯父上に敗けたのがいまだに悔しい様子。なぜ、次は勝つとおっしゃられないのですか?次に勝つために雌伏し、勝つための策を練らないのですか?」


「ふん。子供が、何も分からんだろうに…」


「坊丸は、幼く、多くのことはわかりません。ただ、父上が後ろばかり見て、前を見ていないのはよくわかります」


「後ろばかり見て、か」


「はい、勝家どのから、孫子の言葉『算多きは勝ち、算少なきは負ける』、西国の毛利どのの言『謀多きは勝ち、少なきは負ける』というのを聞きました。ただ兵の多い、少ないだけでは勝てないということだと、戦の前にどれだけ準備するかが肝要だと、勝家殿は言っていました」


「勝家めが、稲生では負けたくせに偉そうに」


「勝家どのから、尾張の状況を聞きました。伯父上は、守護代の大和守家を討ち滅ぼし、力が増したと。その伯父上に一度負け、落ち目の父上が伯父上に勝つのは至難の業です」


「なっ、坊丸、おまっ」


「お怒りはごもっとも、しかし、事実は事実。そこで、です。伯父上は美濃の斎藤と争っております。また、岩倉の信安どのも伯父上と戦をしたばかり。これら二つの勢力と渡りをつけ、三方より伯父上の清州を包囲、一度にせめかかる、等を行えば、きっと勝てます。さらに心配なら庶兄の信広伯父も引き込めば…」


「坊丸、幼子にしてはよう考えた。なれど、斎藤の勢力を引き込めば、尾張の北部のいくらかは渡すしかあるまい。伊勢守家の信安どのを動かすには、上四郡を寄越せとくらい言ってくるであろう。信広兄を動かすにも、今以上の領地が必要であろう。さすれば、兄を倒したとて、幾ばくも領地が増えぬわ」


「父上は信長伯父上と信広伯父上どちらが手強いと思われますか?」


「当然、信長兄者よ。信広兄は、安祥の地を任されたのに守れなかった上、その後の戦でも大した戦功は無い。信長兄者に比べれば二段も三段も落ちるわ」


「ならば、信広の伯父上を恐れる必要はありますまい。信長どのを除き、弾正忠家を二人で盛り立てよう、と誘ったうえ、しばらく後に難癖をつけて取り除けばよいのです」


「信安殿や美濃の斎藤を引き込んだら、伊勢守家の方が尾張での立場は自分よりも格上で強気で戦後の差配をしてくるだろうし、斎藤を引き込めば、尾張の国人に離れられてしまうわ。土地を取られ、盟主としても戦後の差配もできぬのであれば、意味は無いぞ」


「信安殿に美濃斎藤と手を結んだことを細かく伝える必要はありますか?美濃斎藤にも同様です」


「信長打倒は父上と信安殿、父上と美濃斎藤との謀として、信安殿には美濃斎藤は信安殿を攻めぬよう依頼してあると伝えます。また、美濃斎藤にも信安殿は美濃斎藤に対し動かぬよう依頼してあるとだけ伝えます。後は、日時を合わせて信長殿を討ち、信安殿と美濃斎藤には同じ領地を切り取り次第と伝えれば宜しいでしょう。そうすれば、父上は下四郡を手に入れ、信安殿と美濃斎藤は同じ領地を奪い合い、勝手に弱体化。その隙を見て、より弱った方を討てば良いのです」


「坊丸、小賢しいな。所詮は子供の知恵よ。岩倉の信安殿を動かせば、必ず我等を下に見てくるわ。信長兄を討ったとて、守護代の権威が増すだけ。その様なことも分からぬか。話は面白く聞かせてもらった。だがこの話はここまでじゃ。そして、このことは他の者には漏らすな。よいな、坊丸」


「父上、出すぎました。申し訳ありませんでした」


頭を下げている間に、信行パパは部屋を出て行った。


いやぁ、やっちまいました。戦力だけで考えていましたが、戦国時代の人たち、意外と古い権威を大切にするし、古い権威を持っている人は振りかざすようです。そこら辺、思考方法や心持ちが現代人のままの人にはわかりません。


でも、今の策を聞いても特に何も動かないなんて、チキンだね、信行パパは。

このまま、予定通りに謀殺されちゃいそうだな…信行パパ…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る