第6話 稲生の戦い…で負けちゃったみたい
ども、織田坊丸です。
夏です。暑いです。でも、平成令和の夏に比べると過ごしやすいです。
生後一歳すぎになりました。視力もはっきり、単語も発語できます。何より短距離ですが、自分で歩けます。
現在のところ、言語・運動の発達は良好です。
ていうか、発語できるようになったので、頑張って色々聞きたいんですが、まだ単語か二語文しか話せません。
でも、まわりからは、言葉が早い、賢い、ともてはやされてます。まぁ、中身は30歳近いですからね。
あ、あと弟が生まれたみたいです。たえさんやおせんちゃんのしゃべっていた情報です。
当然、高島局ことよしの母さんから出生の弟ではありません。
いわゆる側室の子、異母弟ってやつですね。まだ会ったことないのでどんな子なのかわかりませんが。
そして、一番大切なことですが、どうやら信行父さんは信長伯父さんに戦を挑んで負けたようです。
すこし前に、信行父さんと柴田勝家が出陣式をやってました。エイエイォー!と鬨の声をあげて出陣していきました。
で、敗けて帰ってきました。そのあとの末森城内の雰囲気の暗いことといったらまるでお通夜でした。
何事が起こったか、一生懸命情報収集したところ、信行父さんが信長伯父さんに戦を挑んで負けたということが分かった訳です。
信行父さんは、自室にこもったままですし、もうすこし情報収集したいのですが…。歩けるようになったのを生かして、こそっと城の表に出てみますか。
たえさんやおせんちゃん、おみつちゃんの目を盗んで、出発です。
お、鎧姿の柴田勝家がいます。よし、いろいろと聞いてみよう。勝家殿って言いたいけど、ここは通称の権六って呼びかけるのがいいでしょうね。
「権六殿、こんにちは!」賢い2歳児のふりをして笑顔で挨拶です。
「おお、坊丸様ではないですか。どうしてこんなところに?戦の後始末、場合によっては籠城もあるので、こんなところにいては危ないですぞ」
って、籠城戦になるの?やばくね。そして、なにか誤魔化しとかんとね。
「遊んでいたらね、おせん達いなくなっちゃた」
「そうですか、では、それがしが、おせんかおみつを呼んできますので、ここでお待ちいただけますかな?」
「うんとね、権六殿。近頃、遊んでいてもみんな楽しそうじゃないの。つまらないの」
「ははは、どうも奥向きも稲生での負け戦で沈んでいる様子。無理もないのですがなぁ」
独り言のようにつぶやく勝家。そうそう、織田信行・林秀貞・柴田勝家の軍が織田信長の軍に敗けてたのが、稲生の戦いだった。よし、柴田勝家に聞き込みだ。
「戦で負けたの?誰と戦ったの?」
「負け戦を語るのは、本当は嫌なのですが、坊丸様の頼みですしな…。聞きたいですか?坊丸様?」
「うん、聞きたい」
つぶらなひとみで柴田勝家殿を見上げてみる。
「此度の戦は、坊丸様の父君、信行様と伯父で現在の当主信長様の戦にございます」
「うんうん」
「信行様の軍勢は、信行様本隊、それがしの手勢あわせて1000、それに林秀貞、通具兄弟の軍勢700、すべて合わせると1700、対する信長殿は信長殿の供回り、森可成、裏切り者の佐久間盛重あわせて700。
こちらが倍する兵力をそろえたので、何かなければ勝ちは間違いないと思われたのですが…」
「でも、負けちゃったの?権六殿がいたのに?」
「はっはっは、この権六、個人の武勇、兵の統率や用兵、尾張でも5本の指には入ると思っていますぞ。
信長方の森、佐久間も、それがしに勝るとも劣らないとは思いますが、まぁ、それがしのほうがすこぉしばかり上かと」
「でも負けちゃったの?」
二度目の、でも負けちゃったの?の一言は効いたようで、柴田勝家の肩が見ていても分かるくらいに下がりました。
「負けました。佐々のところの次男、孫助を討ち取ったあと、信長殿の本陣に迫ったときは、正直勝った!と思いましたが、戦下手な林の奴らがそれがしの軍略をぶち壊したのですよ」
とため息をつきながらうつむく勝家。
「林殿は戦下手なの?」
「ま、林殿は、兄の秀貞殿も弟の通具殿もまぁ、戦上手ではありませんな。まぁ、並みといったところでしょう。此度は、弟の通具が軍を率いたのですが、あの馬鹿、功をあせって、それがしの率いる軍勢の前に軍を割り込ませたのです。
それだけならよかったのですが、信長殿の供廻りの黒田なにがしと切り結んでいるうちに、疲れ切り、肩で息をしているところに信長殿に槍でぶすりと。で、討ち死にしやがりました」
「林殿の弟が討ちとられちゃったんだ」
「そうでございます。その軍の大将が討ち取られると、軍を率いる者がいませんから、総崩れになることもあり得るのです。しかも、今回は、信長殿に討ち取られました。信長殿の声で『林美作討ち取ったり』と勝ち名乗りを上げられたら、林の軍は総崩れでございますよ。
さらには、信長殿は大声で、それがしの率いる軍勢にも一喝なされました。
林の弟めが討ち取られたうえに、信長様の一喝をくらったら、それがしが率いる軍勢の勢いも止まり、むしろ兵どもは逃げ出す始末。
後は、兵をまとめていかに損害を抑えて撤退するかになってしまいましたよ」
と、勝家も最後のほうは自嘲気味になる。
「伯父上が勝ち名乗りしたのが効いたの?」
「そうでございますな、信長殿の声は大声なうえによく通りもうす。あの声で、『林美作、討ち取ったり』といわれれば、周囲の者は、吞まれてしまいますな。
特に尾張の者なら、その威勢に呑まれて、我先に逃げだすでしょうな」
「で、林どのの軍はみんなにげちゃったの?」
「いやはや、蜘蛛の子を散らすようにとは、あのざまなのでしょうな。坊丸様、大将は何があっても生きて兵をまとめねばならないのです。まぁ、坊丸様が兵を率いるのはしばらく先でしょうが」
と言いつつ、勝家は思っていた。
此度の負け戦、信長の出す沙汰次第では、信行が蟄居や出家の身となるだろう。
そうなった場合は、目の前にいるこの坊丸は兵を率いての戦働きでは活躍はできないかもしれないと。
「権六殿、大将が討ち取られた時に指揮を引き継ぐ人は決めてないの?大将が討ち取られたら2番目の人、2番目の人が討ち取られたら、3番目の人って?」
「副将や軍監ですな。大きな戦や準備万端の時、複数の手勢が混じるような時は決めますが、此度はそこまで決めませんでしたな。と、そんなことをどうやって思い付いたのですかな、坊丸様」
大将が討ち死にした時の指揮権の移譲について質問をうけ、勝家は、坊丸の言ったことが幼児の発言とは思えず、思わず目を丸くする。
と、その時、
「坊丸様~」
遠くで、おせんちゃんが坊丸を探す声が聞こえる。
「お、坊丸様、おせんが探しに来たようですぞ。おせんを呼んで参ります故、少しお待ちを。今度は一人で歩き回っていけませんぞ」
「分かりました。ここで待ってます」
さて、一人になった。今の勝家との会話から分かったこととして、予定通り信行パパは稲生の戦いで敗戦。
信長伯父さんが尾張の最大勢力になったようだ。たしか次の謀反の計画がばれたうえ、信行パパは信長危篤の虚報に踊らされ、清州城で謀殺されるはず。
次の謀反の計画前に信長伯父さんにあえれば良いが…。だめなら、信行パパ死亡後に自分の助命嘆願できる場所が欲しいなぁ…
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ここまで読んでくださりありがとうございます。
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