第67話 褒賞
皇帝にかかっていた呪いが無事解けてからは、もうてんやわんやだった。
山や街に置いてきた騎士達が帰り次第、皇帝の退位やセレーネ皇女の即位、そしてドラゴンを従えたことを国民へ発表するため、皇城内では使用人や文官がひっきりなしに廊下を行き来している。
さらに国民への発表が終われば、セレーネ皇女の即位を祝福するパーティが催される予定なので、それに向けての準備や各貴族への通達もしなければならず、皇城内はとにかく騒がしい。
俺が何故そんなことを知っているかといえば、俺達3人もパーティーに参加するからだ。
セレーネ皇女に「実力主義を掲げているこの国で、皇族にかかる呪いを打ち払った立役者に報いないとなれば、今後の信用に影響してしまうのじゃ。あまり大々的には発表しないようにするから、是非出席して欲しいのじゃ」と半ば無理矢理に説得されてしまったので、渋々だが参加を決めた。
「う~む。前々から見目が良いと思ってはいたが、こう着飾るといつにも増して可愛らしいのう」
「そう見た目が良いと、勘違いした子息共が言い寄ってきそうだな。主人が心配なら目を離さないことだ。といっても、君達もとびきりの美人だからな、言い寄られるのはスズだけじゃないだろう」
「ムグ、人間の好みはよくわからん。キラキラ光っているのは良いムグが、そんなに裾の長い服など着たらムグ動きにくいだけではないか」
セレーネ皇女、皇帝、そして緑の短髪に身長2mほどもある筋肉質の大男が、俺達3人のドレス姿を見て感想を言い合っている。ちなみに、この大男はあのドラゴンが人型になった姿だ。
ドラゴンから血を採取し終わったはいいものの、ドラゴンを住まわせておくようなスペースは皇城内にはないため山に帰そうか迷っていたところ、「小さくなればよいのか?」と言ってスルスルと縮んで人型になったのだ。
そのドラゴンは今や人間の料理に夢中で、俺達のドレス姿を鑑賞している今も骨付きの肉を両手に持ってかぶりついている。
「サイズは大丈夫かの? 問題ないなら後はメイド達に任せるのじゃ。皆素晴らしい素材に張り切っておるぞ」
俺達が着ているドレスはまだ調整前の物なので、試着が終わるとメイド達が手早く脱がせてくれた。
「さて、ドレスの仕立てが終わったなら、やっと本題に移れるな」
「本題?」
「褒賞だよ、褒賞。ドラゴンを打ち負かして呪いまで解いた者に、よくやったとだけ言って終わりにするわけないだろう。何が良い? この国に出来ることなら、なんでもくれてやろう。爵位なんてどうだ? 侯爵までなら問題なく叙爵させられるぞ」
ドレスから普段着に着替えた後、改めてテーブルについたところで皇帝から褒賞の話が飛び出した。皇帝の腕に走っていた蔓のような模様は既にすっかりと消えて、綺麗な白い肌が広がっている。数日経って呪いが完全に消えたようだ。
それにしても、褒賞か…。これといって欲しい物も無いし、爵位なんて貰っても俺にはちょっと荷が重い。旅もまだまだ続ける予定だしな、帝国としても、国から出てほっつき歩いてるだけの人間に爵位は渡したくないだろう。う~~ん…。
「アリアとリリーは何かないのか? なんでもいいらしいぞ?」
「そうですねぇ、私はスズ様が欲しいですね」
「俺は…その…スズ様のお召し物を頂けたら…」
「なんじゃ!どちらも帝国とは関係ないではないか! 何か無いのか? 貴重な物でも何でも国を挙げて用意してみせるぞ?」
アリアとリリーの要求は一度置いておくとして…、貴重な物か…貴重な物…あっ。
「おっ、何か思いついたかの? どれ、聞かせてみよ」
一つ思いついた物はあるが、正直貴重どころの話ではない。だが、ダメ元で頼んでみてもいいかもしれない。
インベントリから一つの銃弾を取り出して、テーブルに置く。
「実はもう手に入らない物なので、これを作って欲しいんですが…」
「なんじゃ?これは?」
「こ、これは我の翼を貫いた物か!? こんな小さな物に我の翼は負けたのか!」
「なぬ? これがスズの使っていた銃とやらの正体か。確かに随分と小さいのう…。鉄で出来ておるようだし、ドワーフにでも頼むか?」
「いや、相当量の魔力が込められているところを見ると、研究バカのエルフ共にも協力を要請する必要があるかもしれん。呪いの後遺症か、それともドラゴンの血を飲んだからなのか、あれから魔力を視認出来るようになったせいで魔力量の多さをひしひしと感じる」
「その、やっぱり、無理ですよね…」
三者の反応を見て、やはり無茶な要求だったかと銃弾を回収しようと腕を伸ばしたその時、セレーネ皇女が俺の腕をガシリと掴んだ。
「いや!これは帝国のプライドにかけて作ってみせるのじゃ! 任せるがよい!」
え、本当にいいのか? 俺ですらどうやって出来ているか分からない物を、一から作り直すんだぞ?
「わ、我は反対だぞ! こんな物が製造され始めたら、一方的に狩られてしまうわ!」
「と、言うわけで、お主らエルフとドワーフを集めた次第じゃ」
「皇女様よォ、俺達だって暇じゃないんですぜ? 帝都に集まる冒険者達から受けた注文で忙しいだからよォ」
「全くですね。私どももドラゴンの血という超貴重素材の研究で忙しいんですから」
皇城内の修練場にエルフとドワーフが集められ、どちらもセレーネ皇女にぶつくさと文句を垂れている。
というか、獣人以外にももっと違う人種がいたのか! エルフとドワーフなんて初めて見た。エルフは色白で耳が長く美形揃い、ドワーフは俺よりも低身長でヒゲモジャだが、皆筋骨隆々だ。どちらも俺の想像していたまんまの姿で目の前に立っている。
「そう焦らずともよいのじゃ。これを見て帰るというなら妾も止めはせん」
セレーネ皇女はそう言うと、懐から小さな箱を取り出した。あの箱はサンプル用に銃弾を一箱分渡した物だ。
勿体ぶった口振りで取り出された物が思いの外小さな物だったからなのか、エルフ達もドワーフ達も少々白けている。
「中を見てみよ」
セレーネ皇女が銃弾の入った箱を差し出すと、先頭にいたドワーフが歩み出て箱を受け取った。ドワーフが箱を開いて中身を確認すると、横に立っていたエルフがドワーフから箱をもぎ取った。
「ちょ、ちょっと見せて下さい! なんですかこれは、なぜこんな小さな物にこれだけの魔力が込められている?」
「おいおい、俺達にも見せてくれや。確かに見たところすげぇ技術だがよォ。これがなんだっていうんで?」
「お主らにはそれを作って欲しいのじゃ。このドラゴンを打ち倒した英雄たちの褒賞としてな」
「作るっつったって、こんなちっちぇ金属を画一的に揃えるなんざ、時間がかかりすぎますぜ?」
「おや、ではここは私達エルフが担当致しましょうか。ドワーフ共では無理だそうですので」
「ばっ、無理だとは言ってねぇだろうが! そもそもお前たちだけじゃ、そいつみてぇな金属加工は出来ねぇだろ!」
銃弾を見せた途端、エルフとドワーフの口喧嘩が始まってしまった。セレーネ皇女が見かねて手をパンパンと鳴らし、場を収めた。
「それだけでは何に使うかわからんじゃろう。スズ、頼むのじゃ」
「わかりました」
セレーネ皇女の指示で銃を取り出し、俺達とは反対側にある的に向かって射撃する。
「なるほど、武器というわけですね。あの筒でこの小さな弾を撃ち出すと。して、勿論そちらも貸して頂けるので?」
「どうじゃ?スズ」
確かに銃弾だけ渡しても、きちんと射撃出来るかの検証が出来なきゃ意味ないもんな。さすがに愛用の二丁拳銃は渡せないが、低レベル向けの武器なら渡しても問題ないだろう。
セレーネ皇女に低レベル向けの銃を渡そうと銃を差し出したら、横からドワーフの手が伸びてきて引ったくられてしまった。
「おお~、こりゃすごい。かなり精密に作られてるな。ここが外れるようになってるのか、それとここも…弾はここに入るわけか…」
銃を横取りしてきたドワーフは俺達のことなど気にせずに銃をためつすがめつ眺めながらブツブツと何か呟いている。
「はぁ…、すまんのうスズ、こやつらはこういう奴らなんじゃ。まぁ、放っておけば後は上手くやってくれるじゃろ」
本当に製造出来るようになったらこの世界での銃弾に困ることも無くなる。最上位の銃弾とまではいかなくても、中位程度の銃弾が手に入るだけでもかなり有難い。
だが、正直なところ本当に作れるとは思っていない。期待半分に思っておこうかな。
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