第61話 帝都と願い
野盗に襲われた街を出発して2週間、ついに帝都が目視できる距離まで近づくことが出来た。帝都を囲う巨大な壁は黒く塗られていて、今まで見てきた城壁の中でも異様な威圧感を放っている。
「ん? なんだあれ?」
「スズ様、どうしました?」
「門の前に人だかりが出来てないか? ほら」
帝都へ入るための門の前に、大勢の人が集まっているのが見える。最初は帝都入りを待っている人達の列かとも思ったが、列を為しているわけでも無さそうだ。
さらによく見ると、皆一様に同じ格好をしている。一体何だ?
門の前にいる集団へ段々と近づくにつれて、先頭に一人だけ派手な鎧を着ている人がいるのがわかった。
なんか…あの鎧…どっかで見た気がするぞ…。
「お主達、よく来たのじゃ! 歓迎するのじゃ!」
遠目から薄々気づいてはいたが、まさか本当にセレーネ皇女直々にお出迎えとは…。人だかりだと思っていたのはセレーネ皇女の護衛達だろう。他国で出会った得体も知れない人間を街の外で出迎えると言うんだ。そりゃあここまで大仰になるわけだな。
ん? というか、そもそもなんで俺達が来ることがわかったんだ? まさか、ここでずっと何週間も待っていたわけじゃないよな?
「妾はこの国の皇女じゃぞ。お主達が帝国に入って何をしていたか探るくらいわけないのじゃ。おお、そうじゃ、野盗の討伐ご苦労じゃったな。礼を言うぞ」
なんだそれ…。帝国に入ってからずっと見張られていたのか? 俺達が野盗騒ぎに巻き込まれたことも知っているみたいだし…。
「そんなことは置いておいて、早速皇城へ招待するのじゃ! 早く母上にも会わせたいからの」
母上って確かこの国の皇帝だよな? いくら皇女とはいえ、会わせたいで会える者なのか?
俺達をセレーネ皇女の母――皇帝へ会わせるということは事前に話していなかったらしく、案の定護衛の偉そうな人とセレーネ皇女が揉めている。
あ、護衛の人が折れた。あの人も以前会った側付きの人みたいに苦労してそうだな…。
「よし! では付いて参れ!」
楽しそうに満面の笑顔を見せながら、セレーネ皇女が馬車に乗り込んだ。
「部屋に案内してやりたいところなんじゃが、お主たちにはまず母上に会って欲しい。何も友人を母親に紹介したいがために、ここへ連れてきた訳では無いから安心して欲しいのじゃ」
いや…、それを聞いて逆に安心出来なくなったんだけど…。今からもう胃が痛いよ。あぁほら、前に会った側付きの人も渋い顔をしてるよ。
俺達は今、セレーネ皇女に連れてこられた皇城のどこまでも続いているような長い廊下を歩いている。
馬車から降りた後、客室へ行く前に母上に会って欲しいとやけに神妙な顔で言われ、今までけらけらと笑っているセレーネ皇女しか見てこなかったため、その珍しく神妙な顔に押されて承諾してしまったのだ。
セレーネ皇女は、皇帝へかなり強引に会わせたがっているが、何かあるんだろうか? 前回の勧誘が失敗したから、今度は皇帝の前で……とか?
「ここじゃ」
セレーネ皇女が、一つの扉の前で立ち止まった。扉は確かに高級感溢れる装飾がしてあるが、ここに皇帝が? 皇帝に会うって言うから、めちゃくちゃ豪華なデカい扉を開いて謁見の間みたいな所に行くのかと思っていたので、少し拍子抜けしてしまった。
「母上、入るのじゃ」
セレーネ皇女はノックも無しに扉を開けて部屋の中へ入った。部屋は想像よりも広く、扉の正反対に位置する部屋の奥には、執務机に向かって大量の書類を捌いている黒髪の女性が座っていた。恐らくこの女性がこの国の皇帝なんだろう。
ただ一つだけ妙なことに、室内だと言うのに首まですっぽりと隠れるような大きな上着を羽織っている。皇城内は大して寒くもないし、どちらかと言えば暖かいくらいなのになんであんな厚着をしてるんだ?
「ノックくらいしないか、セレーネ。ん? なんだ、そいつらは。まさかとは思うが、お前が王国から帰ってきてから仕切りに話している超人達か? なるほど、超人と呼ぶだけありそうだ。全く…本当に連れてくるとはな…」
「母上、妾はまだ諦めていないのじゃ。この3人ならきっと――」
「いい加減くどいぞ、皇位継承の準備は少しずつだが進んでいるんだ。仮になんとかなったとしても、今更変更は出来ん」
「即位に関しては妾も覚悟してるのじゃ! だからと言って、母上が死ぬのをただ見ているだけなんて耐えられないのじゃ!」
え、死ぬ!? やっぱりこれ物凄い厄介事に巻き込まれてないか!?
「フッ…、お前のお友達が随分と困惑しているぞ。まさか何も伝えずにここまで連れてきたのか?」
突然の厄介事に狼狽えている俺を見た皇帝が、セレーネ皇女を嘲るように笑う。
「スズ、アリア、リリー、今まで隠していてすまないのじゃ。お主たちに一つ、頼みがある。お願いじゃ、母上を救ってくれ、頼む」
少しだけ俯いたセレーネ皇女が決意を決めたように俺達に向き合うと、深々と頭を下げた。いつかもこんな光景を見た気がするが、さすがに皇女相手では洒落にならないぞ。この状態で断れるわけないだろ…。
というか、まず救うってどうやって? リリーの回復魔法でも当てにしてるのか?
「あ、あの……話が見えないんですが、どういうことなんですか?」
「そうじゃな、まずは見せた方が早いじゃろう。母上」
「全く…軽々しく見せるものじゃないんだがな…」
皇帝が上着の左袖を捲り上げると、黒い蔓のような模様が左腕全体に絡みついていた。模様が肩まで伸びて終わりが見えず、胸辺りまで伸びているのかもしれない。
「竜の呪いだ」
「……呪い?」
「詳しく話せば長くなるが、まぁ簡単に言えばこの黒い模様が全身に回ると死ぬんだ」
皇帝は露出させた左腕をまじまじと見つめている。その姿は余命宣告をされて余生を穏やかに生きて、全てを諦めているようだった。
「あの呪いを解くためには竜の心臓が必要なんじゃ。じゃが、竜というのは人智を超えた災害に等しい。改めて言わせてもらうのじゃ。頼む、竜……ドラゴンの討伐に協力して欲しい」
え、ドラゴン倒しに行くの? ドラゴン見に行けるの? そっかぁ…、ドラゴンかぁ…。
いやぁ…でもなぁ、どのくらい強いのかもわからないし、下手に手を出して痛い目を見るのは嫌だし…。
う~~~~~~~~~~~~ん…………
「わかりました。協力しますよ」
ドラゴン、見たい!
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アホの子
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