第62話 呪い

 ドラゴン討伐への協力を承諾した後別室に移り、セレーネ皇女の口から詳しい事情を聞くことが出来た。


 元々このあたりの地域は小国同士の戦争が耐えない土地だったらしい。その戦争を終わらせたのが、当時まだ小国の王だった初代皇帝。皇帝は瞬く間に小国を征服し、このドラゴニア帝国を建国。その快進撃は、まさに竜の如き力だったという。

 帝都の名が国名と同じドラゴニアになっているのも、当時の帝国は帝都ほどの広さしか無かった頃の名残だとか。


 全てが上手くいっていた帝国だったが、予想外の事件がドラゴニア帝国を襲う。ある日突然ドラゴンが皇城に舞い降りたかと思えば、人の身で竜の名を騙るとは傲慢甚だしいと言って初代皇帝に呪いをかけた。

 呪いが全身に回った時、お前は死ぬ。呪いを解きたければドラゴンを打ち倒し、その心臓を食らうことで人間が真にドラゴンに匹敵する力を持つか証明せよ。そう言い残して、ドラゴンは去っていった。


 初代皇帝は力を示すため討伐隊を編成しドラゴンに攻め入るが、結果は惨敗。皇帝を守りながら撤退するのが精一杯だった。さらにその隙を突いて国中で反乱が起き、ようやく反乱が終息した頃には皇帝は呪いに侵されて崩御してしまった。


 悪い出来事はまだ続く、皇帝が崩御した直後に、次期皇帝であった嫡男の腕に黒い痣が現れ、呪いは子へ受け継がれていくことがわかったのだ。


 それから約100年以上経ったが、ついぞドラゴンを討ち倒すほどの英雄は、帝国どころか世界に一人も現れていない。


 「呪いについては、こんなところじゃ。妾が王国へ行っていたのも、武者修行ついでにドラゴン討伐に向けて強者を探し出すという目的もあったのじゃ。じゃが、折角声をかけても、ドラゴンと聞けば皆怖がるばかりでの。お主達に何も伝えずにここまで連れてきたのは、そういった経緯もあるのじゃ。どうじゃ? 今の話を聞いても、ドラゴンに挑む気は変わらぬか?」


 「変わりません。ですがその前に試したいことがあるんですが、いいですか?」


 「なんじゃ? 内容次第じゃが、出来るだけ叶えよう」


 「ええと…、皇帝陛下に回復魔法を使ってみたいんですが…」


 「回復魔法とな? ……言い辛いんじゃが、妾達もそういった回復魔法やポーション、薬などを試してみたが、全て上手くいかなかったのじゃ。無駄じゃとは思うが、母上に聞くだけ聞いてみるのじゃ」


 皇帝のいる執務室へ戻って、セレーネ皇女が皇帝に回復魔法をかけていいか尋ねると、「面白そうだからかけてみろ」と言ってくれたので、リリーに回復魔法を使うように頼んだ。それも、最上位の回復魔法だ。

 ゲーム内でも呪いという状態異常自体は存在していて、回復魔法で解呪することが出来た。この世界にも呪いという状態異常が存在しているなら、試してみる価値は十分にあるだろう。


 「いつでもいいぞ」


 「では、いきます。“完全回復パーフェクト・ヒール”」


 リリーが回復魔法を行使すると、皇帝の足元から緑と金の混じった粒子が全身に駆け巡り、やがて霧散した。


 「どうじゃ!? 母上」


 「駄目だな。ほら、見ろ」


 そう言って皇帝は袖を捲って、腕に絡みついた黒い模様を見せてきた。

 駄目だったか…。ゲームと同じように何でも状態異常を治すっていうのは、いくらなんでも都合が良すぎたか。


 「だがこれはすごいぞ。今までポーション飲んでもなんとも無かったが、かつてないほど体の調子が良い。どうだ、ここの専属にしてやるぞ。待遇も飛び切り良いものにしてやる」


 「お断りします。私の主はただお一人なので」


 「はは、確かにこれは手強いな。セレーネ、手放すなよ」


 「わかっているのじゃ。スズ、出発は3日後を予定しておる。それまで必要な物があれば、何でも言って欲しいのじゃ。侍女長を付けておくから、何かあれば伝えると良い」




 回復魔法で解呪出来なかったためドラゴン討伐の予定を聞かされた後、既に部屋の外に待機してい侍女長に客室へ案内された。

 皇城内というだけあって、室内は見たこともないような調度品や装飾で飾られて、若干目がチカチカする。


 帝都に着いてから色々ありすぎて体力的にも精神的にも疲れたので、どデカいキングサイズのベッドへうつ伏せに倒れ込む。


 「はぁ…、疲れた…」


 「スズ様、随分と簡単にお引き受けしましたが、大丈夫なのですか?」


 ベッドに埋もれた顔を横に向けてリリーの顔を見ると、相変わらず心配そうな表情をしている。

 実際、未だ討伐されたことのないドラゴンを倒しに行くなんて、この世界の人達からしたら無謀も無謀だろう。でも、でもなぁ…。


 「俺が旅をしたいって二人に言った時のこと覚えてるか? そのきっかけが、ドラゴンなんだよ。画面の中じゃなく、本当にドラゴンが実在してこの目で見れるなんて、ロマンだろ?」


 「う~ん…。私にはわかりませんが、スズ様が行かれるというのなら、私達はどこまでも付いていきますよ」


 心強い。アリアとリリーには巻き込んで申し訳ないが、この二人がいなきゃ俺は何も出来ないからな…。

 だが、実を言うと俺もかなり心配している。ドラゴン討伐に協力すると豪語してしまったものの、俺やアリアの攻撃が効かないとなれば、討伐は絶望的だ。討伐には貴重な最上位の弾丸を使うつもりだが、供給が無い以上大量に消費するのも避けたい。


 あれ、今になってめちゃくちゃ不安になってきたぞ。でも、もう断れるわけはないし、覚悟を決めるしかないか。







 そして、約束の3日後が訪れた。


 「皆の者、準備は良いか!!」

 「「「 応!!! 」」」


 セレーネ皇女が騎士達を鼓舞している。この騎士達は討伐には参加せず、ドラゴンが住んでいるという山の手前まで護衛する役目だ。

 そこからは精鋭達から希望者だけを募った騎士数名と、セレーネ皇女、そして俺達だけでドラゴンを討伐にし向かうことになる。


 「では、出陣じゃ!」


 セレーネ皇女の掛け声で、隊列を組んだ騎馬隊や馬車が動き出す。俺達が乗っているのは馬車だが、いつもの小さな馬車ではなく騎士団仕様の大きな馬車を3人で贅沢に使わせて貰っている。もちろん、御者も騎士の一人が担当してくれている。

 最大限に体力を温存して万全の状態で討伐に挑んで欲しいからだそうだ。


 帝都からドラゴンの住む山に着くまで、約一週間ほどかかる予定らしい。正直不安でいっぱいだが、後はなるようにしかならないんだ。流れに身を任せよう。

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