第54話 シーワーム
強化魔法をかけてもらった俺とアリアは、エギルフィッシュの群れの中に駆け出す。リリーは攻撃魔法を使うと船体を傷つける恐れがあるので、負傷した冒険者を回復するように指示を出した。
こうやって小さな魔物の群れを相手にしていると、ゴブリンに襲われていたナハ村を助けた時を思い出す。だがあの時と違って、サブ武器のサバイバルナイフを使っているせいで、刃が肉に食い込む感覚が手に伝わってくるのが、少し気持ち悪い。
エギルフィッシュはゴブリンのように群れで対象を襲うタイプ魔物のようだが、ゴブリンと違って武器は持っておらず、その代わりに鋭く尖った牙と爪を使って攻撃するようだ。
数人の冒険者はエギルフィッシュに噛みつかれたのか、痛々しい歯型の傷がついて、服に血が滲んでいる。
エギルフィッシュを約半数ほどに減らしたところで、エギルフィッシュ達が突然船から海へ飛び込んで逃げてしまった。俺達が戦闘に参加したことで、戦況の不利を察して撤退したんだろうか? ゴブリンを相手にした時も、同じようなことがあったし。
「ありがとな、助かったぜ。いつもならこんなにヤツらが出てくることは無いんだが、今回はやけに数が多かったからな。アンタらがいなかったら、どうなってたか」
エギルフィッシュが去って安心したのか、1人の冒険者が話しかけてきた。肩のあたりに血が滲んでいるが、痛がっている様子もないため、リリーに回復してもらった後なんだろう。
俺だけじゃなく、アリアとリリーも冒険者たちに感謝を伝えられている。特にリリーは回復して回っていたのもあって、恩を感じている冒険者が多いようだ。
エギルフィッシュの脅威が去り、冒険者たちの空気も少し和らぎ始めた時、1人の冒険者が船の正面方向を指さしながら、叫び始めた。
「シーワームだ!! こっちに突っ込んでくる!!」
冒険者が指をさしている方向を見ると、確かに遠くのほうで大きな水しぶきを上げながら何かが船に向かってきている。水しぶきの大きさを見るに、かなりの大きさだろう、前に戦ったワイバーンよりは間違いなくデカい。
「エギルフィッシュが逃げ出したのはアレが原因か…! お~い!船を帰還させろ!シーワームじゃどうにもならんぞ!」
俺に話しかけてきた冒険者が、大声を張り上げると同時に船が曲がりだすが、船体が大きいため曲がるのに時間が掛かっている。シーワームとやらが近づいてくるスピードのほうが圧倒的に速いため、このままでは間に合わないだろう。
あの巨体が船に突っ込んできたら、この大きな船といえど一溜りもないことは想像に難くない。
やるしかないか…。
インベントリから弁当箱ほどの爆弾を取り出す。この爆弾は威力が高い代わりに、自分で爆破箇所まで設置にしに行き、遠隔で爆破スイッチを押して爆破する必要がある。だが、この世界なら投げるなどして遠くに飛ばすことが出来れば、設置しに行かずに済むかもしれない。ゲーム内では投げるというアクションが無かったため、一か八かだが、やってみるしかない。失敗すればこの船諸共沈むだけだ。
「アリア、これをあいつに向かって投げてくれ、少し手前くらいがいい。それと、あまり船に近い場所には落とすなよ」
「はっ。俺に任せて下さい」
俺自身が投げることも当然考えたが、こういうフィジカル勝負はアリアに任せるに限る。もし失敗しても、爆弾自体はまだあるんだしな。まぁ、この世界で補充は出来ないから、なるだけ1回で決めて欲しいが…。
爆弾を渡されたアリアは、爆弾を振りかぶったまま硬直している。おそらく、まだ遠くにいるシーワームを引き付けているんだろう。俺は今見守ることしか出来ないため、タイミングを逃さないよう右手にスイッチをしっかりと握り込んでいる。
スイッチを握り込んだ手に汗が滲んできた頃、ついにアリアが爆弾を放り投げた。
泳いでいるシーワームに当てるには、空中ではなく水中で爆破させる必要がある。タイミングを間違えれば、数に限りのある爆弾を使う羽目になるだけじゃなく、かなり船に近い場所で爆破することになってしまう。そうなれば、船にも被害が出る可能性がある。
大きな放物線を描いて飛んでいく爆弾を見失わないように、目を凝らす。ただ投げられただけなのに、普通よりもゆっくり落ちているような気がする。水面に近づくにつれ、水しぶきで爆弾が見づらくなるが、それでも目は離さない。
長い長い時間をかけ、ついに爆弾が海の中に消えた。位置はシーワームの目の前。アリアは俺の期待通りドンピシャの位置に投げ込んでくれたみたいだ。
間髪入れずに右手のスイッチを親指で押し込むと、一拍の間を空けて、ドンという鈍い音と同時に巨大な水柱がそそり立ち、船が大きく揺れる。
……やったか!?
俺達だけじゃなく、他の冒険者も水柱で真っ白になった海面を、固唾を飲んで見つめている。段々と爆発による波が落ち着き、船の揺れも無くなってきた。
そして周囲に平静が戻ってきた頃、海面に黒っぽい何かがぷかりと浮いているのを見つけた。
「あれシーワームか!?」
「やった…、やったぞ!」
「アンタらがやったんだろ!? すげーな!」
俺達の周りに冒険者が集まってきたのと同時に、船内へ避難していた船員達が甲板にドタドタと出てきた。
船員たちは船に取り付けてあった小型のボートを何台も取り出すと、それぞれに乗り込んでシーワームの死体がある場所へ漕ぎ出してしまった。
「安全確認!!」
小型ボートをシーワームの死体を取り囲むように配置した船員達は、銛のような物を死体に投げて挿し込んでいる。どうやら本当に死んでいるか確認しているみたいだ。
「確認!!」
死亡が確認されたのか、他の小型ボートからも銛が投げられシーワームに突き刺さる。銛を突き刺した状態で小型ボートが動き出し、船の方へ戻ってきた。
もしかして、持って帰る気か!?
「なんだ嬢ちゃん、知らねぇのか。シーワームってのはとんでもなく美味いらしいぜ。1体で屋敷が建つなんて言われるくらいの高級食材って噂だ。俺は当然食ったことは無いがな!」
美味いって、あれ食べるのか!? どう見たってシーワームって魔物だよな…。魔物って食べて大丈夫なのか?
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シーワームは芋虫のwormではなく、亜竜のwyrmです。デカい海蛇っぽい見た目の設定です。
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