第53話 海の魔物
「お困りのようだねっ!!!」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、嫌な予感がしながらも後ろを振り向く。
そこには、ポーズを決めたエリオさんが俺達を見つめていた。
「なんだ、知り合いか?」
カルロさんが俺とエリオさんとの関係を聞いてきたので、ホテルでナンパされたことを伝えると、カルロさんは苦笑いを見せた。
「アルカ商会はこの町じゃ最大手と言っていいくらいにはデカい商会なんだが、会長が変わり者で有名なんだ。商才は確かだし、悪いやつではないから、みんな気にしないようにしてるがな」
アルカ商会ってそんな大きい商会だったのか。それに、あの性格というかポーズを決める癖が周知の事実だったなんて…。
「船に乗りたいそうじゃないか! ならば丁度いい、たまたま僕の船が今出港するところなんだ。良ければ乗っていくといい、君達のような美しい花が一緒なら船員達の士気も上がるだろう」
出港ってことは、海に出るってことだよな? 魔物がいて危険だとも言っていたし、俺達みたいな素人が乗ってもいいものなんだろうか?
「アルカ商会の船はうちの船よりもデカいからな。部外者が数人乗ったところで、何かあるってことはないと思うぞ。俺はここで待ってるから行ってくるといい」
「そうですか…? なら、お言葉に甘えて…」
「ようこそ、僕のシャイニングスターアルカディア号へ!」
「会長、勝手に名前をコロコロ変えないで下さい。この船にはエトナ号という由緒正しい名前が付いているんです。この船を作った職人たちが泣きますよ」
エリオさんへ突っ込みを入れるのは、黒髪を後ろでお団子にした女性秘書のスージーさんだ。キリッとした眼鏡も相まって、まさにデキる女性といった風体だ。
カルロさんの言っていた通り、アルカ商会の船は他の船と比べると2倍はある大きさだった。船の中には既に漁師や船員が乗り込んでいて、出港に向けてあちこち動き回っている。
「本当なら僕が船を案内したいところだが、生憎仕事が残っていてね。寂しいかもしれないが、一度ここでお別れだ。スージー、あとは頼むよ」
エリオさんが投げキッスをして立ち去ってしまい、スージーさんは投げられたキスを手ではたき落とすような仕草を見せた後、俺達に向かいあって眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。
スージーさんの案内で船内を回ることになり、まずは甲板に案内してくれた。そこでは、制服を着た船員達が太縄を縛ったり、荷物を運び出したりしているが、ちらほらと制服を着ていない人達もウロウロしている。共通点といえば、全員が何かしらの武器を所持していることくらいだ。
「制服を着ていない方々は当商会が雇っている冒険者です。船員はあくまで通常の漁を行うのみで、それ以外のことは彼らに任せています」
通常の漁?ってことは、通常じゃない漁があるってことか…? 魔物がいるって言ってたし、そのための護衛みたいな感じなのかな?
甲板の次は船室や操縦室、獲った魚を貯めておくコンテナまで見学させてもらい、後は漁場エリアに着くまで客室で待機となった。
船に揺られながら客室で待つこと1時間、船員の1人が呼び出しに来てくれた。どうやら漁場へ到着したらしい。船員に付いて甲板へ出ると、船員達が大人数で巨大な網を引き上げている最中だった。網の中には大小様々な魚が入っていて、魚市場で見かけた魚も入っている。
やっぱり、漁の仕方はどの世界でも変わらないんだな…。
邪魔にならないように甲板の隅で見学しながら、船員達が3つ目の巨大な網を引き上げたのを見届けた直後、突然甲板に鐘の音がカンカンと鳴り響き始めた。何事かと音のする方へ目を向けると、高台に登った1人の船員が叫んでいる。
「エギルフィッシュ! エギルフィッシュの群れだ! 一般船員は船内へ退避!!」
叫び声が終わった途端、先程まで網を引き上げていた船員達が雪崩込むように船内へ入っていく。それと同時に、甲板にいた冒険者達が何かを待ち構えるように武器を抜いた。
な、なんだ…? 何が起きるんだ?
「魔物が出現したから、船員たちは避難させて冒険者に対処してもらうのさ! 君達は避難しなくて大丈夫かい? 怖ければ僕の胸へ避難して来てもいいんだよ」
いつの間にか横に立っていたエリオさんの提案を丁重に断り、魔物との戦闘と聞いて俺達も少し身構える。レーダーを確認すると、確かに数え切れない数の赤点がこっちに向かってきている。
船員が避難して5分も経たないうちに、奇妙な魚?が次々に甲板へ飛び乗ってきた。海面からここまでかなりの高さがあるはずなのに、どうやって上がってきたんだ?
飛び乗ってきた魚の大きさは4,50センチほどで、凶悪な顔をしたカサゴのような見た目をしている。だが、一番の特徴は大きさでも顔つきでも無く、ヒレの付いた手足だ。魚なのに、二足歩行で歩いているのを見ると、頭が少し混乱してくる。
なんだ、あの…魚…?
奇抜な見た目をしているがかなり厄介な魔物らしく、気が付くと甲板は人間よりもエギルフィッシュという魔物の方が多くなっている。小さい分1体1体は弱いが、数で攻めてくるタイプの魔物みたいだ。冒険者たちも、少しずつではあるが甲板の中心に追い詰められている。
これはマズイな。
「さすがに助けよう。リリーは俺とアリアに強化魔法をかけてくれ」
「強化魔法…? 近接戦闘をするつもりですか?」
「ここじゃ銃は使えないからな、やむを得ないだろう」
2人に助けるぞとは言ったものの、俺の戦い方は船の上では不向きだ。エギルフィッシュは背が低いため、床に弾が貫通して穴を空けてしまう可能性がある。いくらなんでもそれはマズイだろう。
「…………わかりました。 “
「ちょっと大袈裟じゃないか?」
「念の為です」
リリーは渋々だが、俺とアリアに強化魔法をかけてくれた。でも、随分大仰な強化魔法をかけたな…。まぁ、これなら怪我をする心配も無いな。
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