第55話 分配

 「本当にありがとう! それしか言葉が見つからないよ! あのままだったら、僕含めて船が大破していただろうからねぇ。船員や冒険者達も随分興奮した様子だったよ。それで、あのシーワームはどうするつもりなんだい? もし良ければ、僕の方で買い取ることも出来るよ?」


 「おいおいエリオさんよ、抜け駆けはいけねぇや。交渉するなら俺達も混ぜてもらわねぇと」


 船に縄を括り付けて港まで引っ張ってきたシーワームだったが、あまりの巨体さ故に、陸へ引き上げるまでが一苦労だった。船員と冒険者達だけでは力が足りず、最終的には港にいる漁師を集めてやっと引き上げることが出来た。

 港に引き上げられたシーワームは想像よりも巨大で、軽く20メートル以上はありそうだ。外見は蛇のようだが、大きなヒレが頭の後ろに付いている。頭は左半分が抉れたように消し飛んでいるのは、爆撃が当たった箇所なんだろう。


 シーワームの目の前では、エリオさんと他の商人達が揉めている。船で獲られた物は基本船の持ち主の物だが、今回ばかりはエリオさんが雇っている船員でも冒険者でも無い俺が倒してしまったことで、所有権が俺になっているらしい。

 そのため、エリオさんも商人達も俺からシーワームを買い取るために、交渉権を勝ち取ろうとしているのだ。

 あの冒険者が言っていたが、ここまで言い争っているのを見るとシーワームが高級食材ってのは本当っぽいな…。


 「まぁ待て待て、まずは嬢ちゃんの意見を聞かんことには始まらんだろう」


 喧々囂々と商人たちが言い争う中で、カルロさんが話をぶった切ったため、周囲の目線が一気に俺へ集まった。


 う…、どうしたもんか…。シーワームは食べてみたいが、さすがにあの巨体全てを食べるのは無理がある。エリオさんの船に乗せてもらわなかったらシーワームを獲ることも出来なかっただろうし、カルロさんへも折角だから何か返してあげたい。


 「美味しい箇所を貰えればいいので、カルロさんとエリオさんで分けて余った分は他の方に、ということで…」


 「ちょっ、嬢ちゃん! 俺までいいのか!? まぁ、うちの資金じゃいくらも買い取れないとは思うが…」


 「う~~ん。さすがに僕でもここまでの大物を全て買い取るというのは無理だね。それに、ここでの商売もまだまだ続けたいし」


 「よっしゃ! 余った分は商業ギルドの競りにかけるってことでいいな!?」


 話は決まったとばかりに、エリオさんやカルロさんも含め、商人たちがまたどやどやとシーワームに集まって話し合い出した。



 結局、シーワームの分配が終わったのはすっかり日も暮れた時間になってからだった。俺達は、一番美味しいと言われている腹の部分を丸々貰ったが、これだけで10kgほどもあり、インベントリに入れておけば腐る心配は無いにしても、食べ切るのは骨が折れそうだ。

 エリオさんは頭の部分から腹までをごっそりと買い取り、カルロさんは腹の尻尾側を買い取っていた。それでもまだまだ取り分が残り、競りが開催されているあたり、シーワームの巨大さが窺える。


 シーワームが買い取られた際のお金だが、あまりにも膨大になり過ぎたため、一時的に商業ギルドの預かりになっている。帝国へ行く前に、忘れずに受け取っておかないとな…。





 その日の夜、夕食をレストランで食べていると、突然ウェイターが頼んでいない料理を運んできた。頼んでないですよとウェイターに言うと、ホテルのオーナーがシーワームのお礼にシーワーム料理をサービスするとのことだった。


 シーワームの料理! まさに求めていたものが! 自分では調理法が分からないから、困っていたんだよな。これでどういう料理に合うか分かれば、後で作れたりもするだろう。


 運ばれてきたのは、煮込み料理らしきものと、スープ、そして揚げ物。まずはスープから手を付けようと、スプーンでシーワームの切り身っぽいものを口に運んだ。


 …………ウナギ? これウナギじゃない?

 まさかと思い、さらに煮込み料理を食べてみる。…………ウナギだわ、これ。めっちゃ美味いウナギ。

 淡白だけど、しっかり脂がのっていてめちゃくちゃ美味い。昔高級うな重を食べたことがあるが、あの時よりも数倍は美味い。これは確かに高級食材になるはずだな…。あんなデカい魔物を倒しに海に行こうなんて無謀過ぎるし、そもそも倒す術も無いだろう。

 あぁ…、蒲焼が恋しい…。料理の文化は発達してるっぽいのに、醤油はまだ無いっぽいんだよな。いつか醤油に出会ったら、シーワームの蒲焼でも作るか。





 シーワーム料理も堪能し、お腹いっぱいでベッドに転がると、案の定リリーとアリアもベッドに潜り込んできた。


 「自分のベッドで寝てくれよ」

 「ここが私達のベッドですので」


 俺の言葉にリリーが答えると、アリアがうんうんと頷く。

 どうせ言っても聞かないのは分かっていたことなので、諦めて目を閉じた。


 そろそろ帝国に向けて出立しないとな。金があると言っても、ここのホテルは安いものじゃないし、いつまでも居られない。そういえば、帝国までの道って教えて貰ってないな。手広く商売をやっているみたいだし、エリオさんに聞いたら教えてくれるかな?


 リリーとアリアに体を寄せられつつ、頭の中で明日からの予定を立てていると、いつの間にか寝てしまっていた。






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 短くてすみません。

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