第47話 次の目的地
「いやぁ~、本当はもっと早く帰ってるはずなんだけどね……」
アレクさんが苦笑いで言葉を濁すと、ミアさんが事情を話してくれた。
「うちのギルマスが、こっちのギルドにある森の情報に夢中になっちゃって、いつまでも入り浸ってるのよ」
はぁ、と最後にため息をついたミアさんは、呆れた様子だ。
「まぁ、そういうわけなんだ。スズさん達はどうしてここに?」
「そろそろ王都を出ようと思うので、その前に金貨を換金してもらおうと思いまして。でも、いざ来てみたら人が多くて…」
受付の前は今も様々な人の怒号が飛び交っていて、落ち着くにはまだまだ時間がかかりそうだ。
「あーあれね…、僕たちも最初に見た時はびっくりしたよ。この時間帯はいつもこんな感じなんだ。良かったら、今から一緒にギルマスのところへ行くかい? あそこならすぐに換金してくれると思うよ」
「え、いいんですか?」
「ギルマスもスズさんに会いたがってたし、いい機会だと思うよ」
ギルドから人が減るまでどれだけ時間が掛かるかわからないし、ここはお言葉に甘えてグレンさんのところで換金してもらうことにした。
アレクさんに付いていくと、資料室とプレートに書かれた扉をノックも無しに開けてしまった。
「なんだ? 何度来ても同じだ、俺は帰らんぞ。ここの情報をまとめるまではここにいるつもりだ」
扉が開いたことに気付いても、グレンさんはこちらに目も向けずに机に向かっている。机の上には何枚も紙が乱雑に置かれており、熱心にノートのようなものへ書き写しているようだ。
「それもありますが、今日はもう一つありますよ」
グレンさんがアレクさんの言葉に反応してこちらに目を向けると、ついに俺達の存在を認識したようだ。
「嬢ちゃん! 来てたのか! やっと会えたな」
俺達を見た途端に顔を綻ばせたグレンさんが立ち上がって部屋から出てきて、「ここじゃなんだから、ランセスのところに行くか」と言って勝手知ったるといった具合にギルドの中をズンズンと進んでいく。
「ランセス、邪魔するぞ」
グレンさんに続き俺達も中に入ると、部屋の中には緑の長髪を肩辺りで一つに結んだ若い男性が、机に積み上げられた大量の書類を捌いていた。
「おや、グレンさん。どうしたんですか?」
「ちょっと部屋を貸してほしくてな。ほら、この嬢ちゃんが前に話した英雄だ」
グレンさんが親指を立てて俺に向けながら、男性に俺を紹介している。
「おお! 彼女が例の! 私も会いたかったんです。ちょうどいいので僕も休憩にしましょうかね」
俺達を置いてけぼりにしてグレンさんと男性が会話しているが、あの人は誰なんだろう? ギルドのこんな奥まった部屋にいるんだし、それなりの立場にいる人だとは思うけど…。
疑問を残しつつも、机を囲っている高級そうな革張りのソファに勧められるまま座ると、男性が自己紹介してくれた。
「はじめまして英雄殿、僕はランセス・ヘルスタッド。ここのギルドマスターを務めている者だ」
ギルドマスターだったのか! 冒険者ギルドのギルドマスターってグレンさんみたいなゴツい見た目のイメージだったから、選択肢から自然と外してしまっていた。
こういう細いギルドマスターもいるんだな…。
こちらからも自己紹介を返したところで、グレンさんがここへ何をしに来たのか聞いてきた。
「そろそろ王都を出て違う場所へ行こうと思うので、その前に換金して路銀を持っておこうと思いまして。受付はその…人がいっぱいで…」
「あぁ、この時間はな。なんだ、もう出ていくのか」
「私達も早いとこ出ていきたいんですけどね?ギルマス」
グレンさんの言葉にミアさんが反応して、チクリと刺した。
「俺は森の情報をまとめるまでは帰らん、お前だってわかるだろうアレク。森のことならうちのギルドが一番解っていると思っていたが、ここにはまだ知らない情報が整理もされずに放置されているんだぞ。ここで帰ったら一生後悔することになる」
「気持ちはわかるけど、遅れれば遅れるほどシルビアさんにどやされるのよ!? わかってる!?」
ミアさんの反論にうっとなるグレンさんへ、ランセスさんが助け舟を出した。
「まあまあ、こちらとしても放置されてばかりの資料を整理してもらって助かっているので…。それと、換金でしたね。今秤を持ってきますよ」
ランセスさんが秤を持ってきてくれたので、事前に用意していた金貨が詰まった巾着状の革袋を手渡す。
「思ったより沢山換金するんだね…。それにしても、変わった金貨を持っているんだね。刻印も随分と精密だ」
ランセスさんが俺の金貨を秤で計っている間、グレンさんが次の目的地を聞いてきたので、王国を回るか帝国に行くかで迷っているということを伝えると、ランセスさんが代わりに答えてくれた。
「それなら帝国へ行く前に港町へ行ってみたらどうだい? 王国と帝国を結ぶ道がその辺りだから、ちょうどいいと思うよ。内陸の方には見て楽しい物もそんなにないからね。そもそも、観光目当てで旅をするなんて酔狂な人の方が珍しいんだ。貴族でも、領地の外へ行くときは大勢の騎士を連れて行くものだしね」
ランセスさんにそう言われて、今までに訪れた町を思い出してみると、確かに観光名所と呼ばれるような物は一つも無かった。確かに、町の外に出れば魔物が当然の如く闊歩している世界で旅行なんて、余程の命知らずか強者だけだろう。もし観光名所を作ったとしても、誰も見に来ないんじゃ意味無いからな。
でも港町か、良いことを聞いたな。こっちの世界に来てからはずっと森ばっかりだったから、海は楽しみだ。この世界の海はどんななんだろう? 魚もちゃんといるんだろうか、食べれたりするのかな?
「ふぅ、やっと終わった。 はいこれ、これを受付に渡せば、換金してもらえるからね」
金貨を計り終えたランセスさんが、換金用の書類を書いてくれた。
「ありがとうございます。港町のことも助かりました。一度港町に寄ってから帝国へ行ってみようと思います」
次の目的地も決まったし、リチャードさん達に挨拶したら明日には出発しようかな?
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