第46話 王都冒険者ギルド
教会の一件があった次の日の朝、いつものようにベッドで2人に抱き着かれ、身動きが取れないままではあるが、話を切り出した。
「そろそろ王都を離れようと思う。それなりに観光もしたし、いい頃合いだろう」
「そうですね。次はどこを目指すんですか?」
俺を右から抱え込むように抱き着いているリリーが耳元で聞いてきた。くすぐったい。
「う~ん…。まだまだ王国を回ったわけじゃないし、もうちょっと回りたいのもあるんだけど…」
「けど? 何か気にかかることでも?」
「皇女様から帝国の招待状を貰ったろ? 王国全体を回っていたら、かなりの日数になってしまうだろうし、折角招待して貰ったのにいつまでも待たせるのもどうかと思ってな…」
「あぁ、そういえばいましたね。そんな人」
リリーと同様に左から抱え込んでいるアリアが、皇女のことを思い出したが、アリアにとっては遠い過去の記憶らしい。
「そういえばって…、あれでも一応皇女様なんだぞ?」
「俺の記憶領域はスズ様で一杯ですので。それに、実力も拍子抜けでしたしね。アレクという男よりは強いと思いますが、それまでです」
リチャードさんが、皇女は有名な剣客と言っていたがアリアにしたらそれでも実力不足なのか。今まで出会ってきた人達の反応を見る限り、俺を含めても規格外な存在なんだな。
「ま、というわけだから、最後の観光として冒険者ギルドに行こうと思う。ちょうど路銀も少なくなってきたし、換金もしてもらおう。王都なら大量に換金しても、そんなに目立たないだろうしな」
冒険者ギルドに行くつもりはあったが、意外と行くタイミングが見つからなくて忘れてたんだよな。でも、結果的にはいいタイミングになったかもしれない。
ちょうどお金も心許なくなってきたし、王都くらいお金の集まる場所なら、大量に金を放出してもそこまで影響は出ないだろう。
「冒険者ギルドへ行くのはいいですが、私達から絶対に離れないで下さいね? あそこは特に虫が集ってきますから」
「わかってるよ。変な視線を向けられてる時に、2人が盾になってくれてるだろ? でもなぁ…、俺よりも2人のほうがそういう目で見られてるんじゃないのか? 俺よりもこう、ほら、大人っぽいし…」
思わず言葉を濁してしまったが、俺が長い時間をかけてキャラメイクした2人の身体つきは相当なものだ。
もし俺が男のままこの世界に来ていたら、正直危ないところだった。まさかこんな形でキャラメイクの成果が出るとはな…。
「なるほど、スズ様が私達をそういう目で見てくれているのは大変嬉しいことではあります――が、自覚がないというのは困りものですね。ただでさえスズ様の普段の服装は、この綺麗な
リリーはそう言うと、右手を俺の太ももに滑り込ませて、乱暴に撫で回しながら揉みしだいてきた。
「わっ、わかった! わかったから!」
「すぅぅぅぅぅぅ」
俺とリリーがじゃれ合っている隙に、アリアが胸に顔を押し付けてくる。
「アリア!どさくさに紛れて匂いを嗅ぐな!」
「いいですかスズ様、絶対に離れないで下さいね」
「わかってるって、そもそも2人から離れたことなんて今まで無かったろ?」
リリーにこれでもかと念を押されながら、冒険者ギルドに向かっている。俺ってそんなに信用が無いんだろうか…?
今日は商業ギルドに行った時とは違って冒険者ギルドに一直線で向かうため、いつもの小さな馬車に乗っている。冒険者ギルドなら、馬車を停めておく待機所があるはずだから、馬車が邪魔になる心配がない。
馬車を走らせて30分程で冒険者ギルドに着いた。予想はしていたが、王都の冒険者ギルドも商業ギルドに負けない大きさだ。ギルド内はかなり賑わっているようで、人の出入りで開いた扉から、中の喧騒が漏れ出してくる。
やっぱり、王都ともなると派遣バイトの需要が高いんだろう。
「では、入りますね。スズ様」
アリアも中の喧騒を感じ取ったのか、少し警戒しながらギルドへの扉を開いた。
「あと3人!あと3人いないかー!」
「日給15000シェル! “
「力仕事5人頼む!」「少々お待ち下さい!」
「護衛依頼D級以上3人!」「D級2人パーティなんだが誰か1人いないかー!」
「完了報告まだー!?」
中に入った途端、そこかしこから怒号のようなものがギルド中に飛び交っていた。
依頼を出す者、受ける者、そしてそれを整理しなくてはいけないギルドスタッフでギルドの中はまるでお祭り状態だった。
「こりゃすごいな…、俺達のことなんて誰も気にかけちゃいないぞ…」
今まではギルドの扉を開けた途端に視線が向けられていたが、王都の冒険者ギルドでは俺達を見ている視線は無いに等しい。朝の会話がまるで杞憂だな…。
「ま、まぁ男が寄ってこないに越したことはないし、さっさと換金しちゃうか」
と言ったはいいが、受付はどこも行列が出来ている。あそこに並ぶのも、それはそれで骨が折れそうだな…。
軽く見渡すと、食堂のようなスペースは比較的空いているようだ。人が落ち着くまであそこで時間を潰すか。
「やっぱりあそこでしばらく時間を潰そうか」
食堂の方を指さして提案すると、2人とも了承してくれた。
「あれ?スズさん?」
「げっ……」
食堂のテーブル席で暇を潰していたら、突然声をかけられた。
「アレクさん!? ミアさんまで。とっくにガルドへ帰ってると思ってました」
俺達に声をかけてきたのは、ガルドで知り合ったアレクさんだった。隣にはミアさんも立っている。
アレクさん達とは王都に向かう途中で別れたので、詳しいことは分からないが、俺達よりもずっと先に王都に着いていたはずだろう。どんな用事で王都に来たのかは知らないが、随分長く滞在してるんだな。
「いやぁ~、本当はもっと早く帰ってるはずなんだけどね……」
アレクさんが困り顔で頭の後ろを掻いている。
これは何か事情があって帰れないのか?
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