第39話 商業ギルド
「スズ様。はい、あ~ん」
「ん」
「スズ様。こちらも」
「ん」
通りの中ほどまで来た俺達は、休憩がてらにカフェへ立ち寄っていた。
折角入ったのだし何か美味しいものでも食べようかということで、3人とも違うケーキを頼んだのだが、リリーとアリアはケーキを自分では食べずに俺の口元へと幾度も運んでくる。
「俺はもういっぱいだから、自分で食べてくれ。俺のが食べたいなら、遠慮せず食っていいぞ。ほら」
2人の頼んだケーキは、俺に食べさせてばかりのせいでもう半分も残っていない。
このままだと、3人分のケーキを食べさせられることになりそうだ。3つも食べたら、腹が膨れすぎてこれから歩けなくなってしまう。
俺のケーキをフォークで取ってリリーの前に差し出すと、恐る恐る口に入れた。
「美味しいです…! こんなに美味しいものがこの世にあったとは…」
口に入れたケーキをじっくりと味わったリリーが、目を潤ませながら感激している。
そんなにケーキが美味かったのか? いや、違うな…。考えるのはやめておこう。
「ス、スズ様、俺もいいですか」
「いいぞ、ほら」
アリアが遠慮がちにお願いしてきたので、アリアにもケーキを食べさせてやる。
「不肖アリア、これからもスズ様に尽くします…!」
遠慮しなくていいと言ったものの、本当にあの日以来遠慮が無くなっていっているな…。
他の客達がチラチラと俺達の方を見てきて居心地が悪くなってきたし、さっさと食べて店を出よう。
「…ん? なんかあの建物だけやけにデカくないか?」
店を出て通りを進んでいくと、前方に白く大きな建物が建っているのが見えた。
通りに立ち並んでいる店と比べると縦にも横にも大きく、軽く4倍はありそうだ。
「商業ギルドでは無いですか? クレアに拠れば、通りで一番大きい建物が商業ギルドと言っていましたし」
あれが噂に聞く商業ギルドか。さすが王都にあるギルドだけにデカいな…。
早速行ってみよう。色んな街を渡ってきたのに、商業ギルドって1回も行ったこと無かったからな。
白一色で染められた商業ギルドには、左右の端にそれぞれ入口があるようだ。右側の入口を確認すると『ギルド会員専用』と書かれていたので、引き返して左側の入口から入る。
中に入ると、屋内も白い壁に白いタイルが床に敷き詰められていた。
白い割に汚れがあまり目立っていないので、清掃に力を入れているんだろう。商売人は清潔が第一なんて元の世界でも言われてたしな。
「いらっしゃいませ、お客様。よろしければ当ギルドをご案内致しますが、いかがしましょう」
黒と赤の制服をピシリと着こなした男性が俺達を迎えてくれた。ギルドのスタッフだろうか? 随分教育がしっかりしてるみたいだ。
折角なので従業員に案内を頼むと、入って左側の壁に貼り付けてあるフロアガイドを使って、ギルド内の施設を説明してくれた。
まず、俺達のいるここのエリアはお客様向けのエリアで、右端にあったギルド会員専用の入口はギルドの業務エリアになっているらしい。日夜商人達はそこで仕入れや商談をしているのだとか。
3階建ての商業ギルドには、ギルド直営の店舗がいくつも入っていて、貴族向けには及ばないまでも、どの店舗も品質は折り紙付きだそうだ。
そのため値段は張ってしまうが、その代わりここで購入した物は全て保証書が付くので、何か破損などあれば交換や返金もしてくれるらしい。
それと、商店街の側にショッピングモールみたいなものがあったら商店街が食われないかとも思ったが、扱う商品が違うので大丈夫とのことだった。
フロアガイドである程度のことはわかったので、スタッフにお礼を言って本格的にギルドを回ることにした。
扱う商品が違うと言っていたが、軽く見ただけでも確かに並べられている物が違うとわかる。
スーツやドレス、高級そうなアクセサリーに、冒険者向けの武器や防具、さらに馬車関連の道具や部品まで、色んな店舗が入っているが、どれも通りに並んでいた店には無かった種類だ。
長く使うものばかりだし、保証書が付いているというのも購入者には嬉しいだろうな。
そういえば、武器や防具の装備を売ってるような店って今まで見たこと無かったかもしれない。
一度試しに見てみるか、使える装備があるのか興味がある。
「どうだ?2人とも」
「申し訳ありませんが、あまり使えませんね」
「私もこれと言ったものは…」
それなりに広い店内を見て回るが、2人の言う通りピンと来るようなものがない。
何の変哲もない鉄剣や、弓、ポーションの類も並べられているが、一番安いものでも5万シェルの値札が付いている。5万で命を拾えるなら安いのかも知れないが、俺のインベントリにはゲーム内のポーションがたんまり入っているので、今の俺達には必要無いものだ。
この世界の武器はどんな物かと少し期待していたのもあって、肩透かしを食らった気分だな。
……お?
「あれなんだ?」
店内の奥まった場所にガラスケースで覆われた一枚の本が置いてあった。
これ本だよな? なんでこんな厳重に陳列してあるんだろう。ゲームでも魔導書のような魔法武器があったし、そういう類の物か?
「あちらはスペルブックでございます」
いつの間にか俺達の後ろに立っていた店員が話しかけてきた。いつからそこにいたんだ? この店に入ってから店員を見かけないと思っていたが…。
それよりも、スペルブックって何だ?
「スペルブックというのは、魔法を習得することが出来る書物でございます。この本に魔力を流し自らの身体に魔法を取り込むことで、修練などの過程を無視して魔法を習得することが出来ます。まぁ、その代わりスペルブックには簡単な魔法しか込められませんがね」
新しく魔法を覚えられるってことか!? ゲームだとレベルを上げてスキルポイントを振ることでしか魔法を習得出来なかったが、これなら
「このスペルブックには何が入っているんですか?」
「ヒールでございます。冒険者だけではなく、広い需要のある魔法ですので少々お高くなっておりますが、一点限りの取り扱いなので、早い者勝ちですよ?」
ヒールか…。こっちの世界じゃ貴重なのかもしれないが、リリーの得意分野だからな。俺達には要らないものだろう。
でもスペルブックか、面白い物を知ったな。旅の途中で積極的に探してみてもいいかもしれない。
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