第29話 ワイバーン

 予定していた2日後の朝、早めに身支度を整えた俺達はライウッド侯爵の馬車に揺られていた。

 馬車の前後には騎士だけでなく、魔法使いと思しき人達も列をなして行軍している。

 ライウッド侯爵は俺達にだけ任せっきりにするつもりはないらしく、侯爵本人も、馬車に同乗している。


 長い行進の末、もう少しで昼頃になるかという時間になって、やっと馬車が止まった。


 「着いたようだな。ワイバーンを刺激しないように、ここからは歩きになる」


 ワイバーンが住み着いているという場所の近くまで到着した後は、馬車から出て徒歩で移動するようだ。

 歩き始めて30分ほどすると、遠くの空に小さな影が飛んでいるのが見えた。あれがワイバーンだろうか?


 「フレデリク様、ここからは私が」

 ライウッド侯爵と騎士が着いてくるのはここまでのようで、ここからは俺達とロジェさんだけでワイバーンに近付いていく。




 コウモリのような翼に、刺々しい顔から獰猛な牙が生え、湾曲した鉤爪のような鋭い爪、鱗が生えた薄い青色の体色。体長4メートルくらいのワイバーンが20体ほど地面で寝ている。それだけではなく、空にも見えている限り10体ワイバーンが飛び回っている。


 ワイバーンって1体じゃなくてこんなにいたのか…。これは骨が折れそうだ。


 「どうだろう、やれそうか? 騎士は一度下がらせてはいるがこの数だ。何か策があるなら君達に従おう。フレデリク様にもそう言われている」


 俺達に一任してるってことか?こりゃ責任重大だな…。


 「あの、ワイバーンって冒険者のランクで言うとどのくらいですか?」


 「ワイバーンか?確か単体でB級扱いだったと思うが…。だが、群れとなるとA級でも手に負えないぞ、本来なら軍が出てもおかしくないんだ」


 B級ってことはキングゴブリンよりは下って考えてもいいのか?

 なら…。


 「なら、騎士達は下げたままでお願いします、危ないので。ですが、念の為に街の方へいかないよう警戒してくれますか? 後は私達がやるので」


 「冗談だろ? 君達の実力は疑っていないが、この数のワイバーンだぞ。オークと違って空も飛んでいるんだ、あの時のようにはいかないぞ」


 心配するロジェさんに俺がもう一度大丈夫だと伝えると、しばらく悩んだ末に「フレデリク様に確認を取ってくる。もし許可が出たら青、却下だった場合赤い旗を上げるから、その時は一度戻ってきてくれ」と言ってライウッド侯爵の元へ行ってしまった。



 しばらくすると、騎士達のいるほうから青い旗が上がった。どうやら許可が取れたみたいだな。

 俺の言った通り騎士を後方へ下げている。


 「アリア、リリー、準備はいいか?」


 「はい、スズ様」「いつでも大丈夫です」


 「よし。アリアは近付いてきたワイバーンの対処、空中にいるワイバーンは俺が撃ち落とすから、リリーは落ちてきたワイバーンにトドメを刺してくれ。それと、ワイバーンは火を吐いてくるらしいから最初に壁を張ってくれ。…いけるか?」


 「スズ様には指一本触れさせません」「お任せを」


 二人の返事をしっかりと確認して、インベントリから白い銃身に赤いラインが入った、ロボットアニメに出てきそうなビームランチャーを取り出す。

 この武器はDMRと同様にMPを必要としない。ランチャー武器なので威力が高いように思えるが、実際はDMRよりもダメージ自体は低い。

 だがその代わりに、ロックオンした対象を最大5体まで追尾する性能を持っている。

 これなら空を飛んでいるワイバーンにも、問題なく弾が当たるだろう。


 「いきます “戦神の守護プロテクション・イージス” 」


 リリーが魔法を発動すると、半透明のドームが俺達を囲むように現れ、しばらくすると完全な透明になって見えなくなった。

 リリーの唱えた魔法は、飛び道具の攻撃からダメージを一定量無効化してくれる防御魔法だ。



 防御魔法を張ったのを合図に、俺はランチャーを肩に担いでロックオンを開始する。

 まずは飛んでいるワイバーンからだ。ロックオンを終えて引き金を引くと銃口から赤い光線が5つ発射され、空中にいるワイバーンにそれぞれヒットした。

 5体のうち3体は胴体を貫かれて絶命したようだが、残りの2体は翼に当たったらしく、空中でバランスを崩しながら落下してくる。


 落下してきたワイバーンの首をリリーが風属性魔法で切り落としたことで、地上で寝ていた他のワイバーンも目を覚まして飛び始めてしまった。


 一度撃っただけでは、まだまだ数が残っている。続いてもう一度ランチャーを発射すると、ワイバーンもこちらを見つけたようで、攻撃の準備をしている。


 ワイバーンが口から火球を放つが、俺達に当たる前に火球が霧散するように掻き消えた。リリーの魔法は防御魔法はしっかり機能しているみたいだ。

 それでもワイバーン達は懲りずに何度も火球を撃ってくるが、無駄だと気付いたのか今度は俺達の方へ急降下してきた。 直接俺達へ攻撃する方に切り替えたみたいだな。


 「アリア!」

 「はい!」


 大きく口を開け牙を剥き出しにしたワイバーンが急降下してくるが、一歩前に出たアリアはその牙ごとバターのように斬り伏せる。仲間が目の前で斬られたことで逆鱗に触れたのか、後続のワイバーンが咆哮を上げながら続々と突っ込んでくる。


 「捌けるか!?」

 「ご心配なく!」


 群がってくるワイバーンからアリアが守ってくれている間に俺が減らさないと、いつまで経っても終わらない。

 再度ランチャーを構えて撃ち始めるが、3回ほど撃ったあたりでワイバーン達の動きが変わった。どうやら追尾弾のクセを掴んで避け始めている。

 そう何度も避けられるものではないと思うが、早めに終わらせた方が良さそうだ。


 「リリー!落ちたワイバーンはもういい!飛んでいる方を狙ってくれ!」

 「わかりましたっ “闇影の弾丸シャドウ・バレット”!」


 リリーが使った魔法は、ランチャー同様に闇属性の敵を追尾する黒い球を放つ魔法だ。闇属性の初期魔法なので威力は低いが、スキルレベルを上げることで最大6発まで撃てるので、総合的なダメージはそこまで低くはないし、ワイバーン相手には十分だろう。

 実際、3発も当たればワイバーンは行動不能になっている。

 

 リリーの攻撃が加わったことで空中にいるワイバーンはいなくなり、あとは地上に落ちて飛べなくなっているワイバーンを仕留めるだけだ。

 レーダーを取り出して赤い点が表示されているワイバーンにトドメを刺し、赤点が無くなったのをしっかりと確認してから、下がっている侯爵達の元へ向かった。








 「まさか本当に3人だけでワイバーンを倒し切るとは…。ロジェから聞かされた時は耳を疑ったが、確かにあの戦い方では他の騎士がいたところで邪魔になるだけだろうな。まずは、礼を言わせてくれ。後始末はこちらでやる、というよりやらせて欲しい、このままでは面目が立たないからな。君達は馬車でゆっくりしていてくれ。ワイバーンが積み終わり次第帰還しよう。ロジェ、騎士達にワイバーンを運ばせろ」


 「はっ!」

 命令されたロジェさんが他の騎士達の元へ駆けていくと、手早く指示を出してワイバーンを運び出しに行ってしまった。


 「積む?ワイバーンを持って帰るんですか?」


 「あぁ。ワイバーンはいい素材になるんだ、無駄には出来ないからね。出来るだけ持って帰るつもりだ」


 そうだったのか…、もうちょっと慎重に倒すべきだったかな。結構穴だらけにしちゃったよ…。


 「ははっ。なに、そんなに気にせずとも傷つけずに倒すなどとは最初から考えておらんよ。元々の目的はワイバーンの討伐で、素材はあくまで副産物に過ぎん」


 また心の声が顔に出ていたのか、俺ってそんなにわかりやすいのか?それとも、これくらい表情を読めないと貴族としてやっていけないんだろうか…?





 ワイバーンの積み込みには軽く2時間ほどかかったが、全てのワイバーンを積み切ることは出来なかったので、残りは俺のインベントリに収納した。

 「それなら他のワイバーンも…」というロジェさんの言葉は、ライウッド侯爵に睨まれたことで封殺されてしまった。




 街が見えてくる頃には日が暮れて、街がオレンジ色に照らされている。

 侯爵邸に帰ったら風呂に入ってゆっくりしよう。


 「お風呂が楽しみですね、スズ様」

 「次は俺達二人だけでお世話してみせます」

 リリーがニッコリと笑い、アリアが戦場に行くような顔をして張り切っている。

 やっぱり俺ってわかりやすいのか…?









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この作品を書き始めてもう1ヶ月になります。

こうして書き続けていられるのは、フォローや応援、★、そして読んでくださっている方達のおかげです。

めげずに更新していきますので、どうかお付き合い下さい。

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