第28話 王都に繋がる道
「お食事の準備が出来ましたので、ご案内致します」
メイドの案内で食堂に行くと、アリシアさんとアリシアさんのご両親がすでに座って待っていた。
「まぁ!とっても似合っていますよ!私のドレスでサイズが合って良かったです」
食堂に入ってきた俺達を見て、アリシアさんが感嘆の声を上げた。
あの脱衣所で着替えさせられたのは、普段着ではなく軽めのドレスで、俺には深い青の膝丈よりも少し長いドレスで、アリアは暗め赤色、リリーは薄い紫のドレス、二人はともに足首に届くくらいの丈だ。
「わざわざドレスまで用意して頂いてありがとうございます」
「良いんですよ、愛娘の恩人ですもの。二人には私のお下がりで申し訳ありませんが。それと、メイド達が失礼をしたみたいで、ごめんなさいね。メイド長から聞いたわ」
「い、いえ、二人もいい経験になったと言っていますし、お気になさらないで下さい」
アリアとリリーの着ているドレスは夫人のお下がりらしい。確かによく見ると、アリアとリリーに負けないご立派な物を持っている。
俺が椅子の近くに行くと、メイドが椅子を引いてくれたのでお礼を言って座った。
「娘の恩人が来ていると言ったら、料理番が張り切ってしまってな。会心の出来だそうだから、楽しみにしてくれ」
実際、振る舞われた料理はどれも美味しいものだった。ガルド辺境伯邸でも思ったが、この世界ではある程度の香辛料などが流通しているらしい。さすがに、平民がおいそれと買えるものではないのだろう。それでも、こうやって肉料理やスープに上手く使えているところを見ると、しっかり研究もされていそうだ。
「あの、私聞きたいことがあるんです。よろしいでしょうか?」
食事も落ち着いてきたところで、アリシアさんが聞きたいことがあると言ってきた。特に拒否する理由もないので了承する。
「スズさんは一体おいくつなの?そんな若いのに旅をしているなんてすごいと思って……」
歳!?ここに来るまで歳なんて聞かれたことが無かったから、すっかり失念していた。
何歳、何歳の設定にするか…。今の俺の身長が140cmで、姪っ子がこのくらいの身長だったような…。最後に会ったのは確か中学に上がって、しばらくしてからだから…。
「14…」
「私と同い年だったんですか!?すごいです…、まだそんなに小さいのに…」
つい口に出してしまったせいで、俺の年齢が14歳に決まってしまった。あと、小さいのは余計だろう。
「アリアとリリーが居てくれますから。私も一人では何も出来ませんよ」
「そういえば、皆さんはどういったご関係なのですか…?ご家族でも無さそうですし…」
「俺とリリーはスズ様の従者だ。スズ様に尽くし、降りかかるあらゆる脅威を払いのけるために付き従っている」
「随分慕われているのですね…。なんだか羨ましいです」
相変わらず重いな…。まぁ、その重さに助けられているのも事実だしな。アリアとリリーがいなかったら、この旅も早々に挫けていた気がする。
それから、アリシアさんが旅のことを聞きたいとも言ってきたので、悪魔やペンダントのことはぼかしつつ、ガルドからこれまでのことを話した。
「すまない、少しいいだろうか?ガルドで起きた溢れを鎮めた者がいたという話を耳にしたんだが、もしかして君達のことだろうか?」
フレデリクさんの問いに、恥ずかしいながらも肯定し、ガルド辺境伯からもらったエンブレムを見せると、ライウッド侯爵はアリシアさんと顔を見合わせた。
「ねぇ、スズさん」
「アリシア」
ライウッド侯爵が、咎めるような言い方でアリシアさんを呼んだ。
「でも、スズさん達も王都に行くって言っていましたよ。関係ない話ではないと思います」
ライウッド侯爵は唸るように悩んだ後、意を決したように話し始めた。
「わかった。だが、私から話をさせてくれ。――実は、このタミアと王都を結ぶ道の途中にワイバーンが住み着いて通れなくなっていて、物流が半分止まっているような状態だ。幸い、まだ街へ襲ってきてはいないが、いつそうなるかわからない。王都へ協力を打診したんだが、まずは冒険者を使えの一点張りでな。この国にいる冒険者などたかが知れているだろうに…。そこでだ、溢れを鎮めたという君達に協力を仰ぎたい。どうだろうか?」
こちらとしては協力することに否はないが、ワイバーンって確か翼竜みたいな魔物だよな?そんなのが王都に繋がる道に住み着いてるのに、何もしないって王都は大丈夫なのか…?
俺の考えていることが表情に出ていたのか、ライウッド侯爵が苦笑いを浮かべながら王都の現状を話す。
「君の言いたいことはわかるよ。王都の貴族連中は日和見主義が多い。何をするにも周りの顔色を窺い、自分が矢面に立たないようにしている。一貴族としては恥ずかしいところではあるが、それで国が回っているのも事実なのでね、あまり強くは言えないというのが現状だ」
なるほどね…。まぁ俺達は王都の貴族と関わることは無いだろうし、あまり関係のない話だろう。
「協力の件は承りました。ワイバーンは私達に任せて下さい」
「そうか!有り難い。もし仮に討伐に失敗したとしても、責任は問わないし、報酬も出すと誓おう。では、2日後に出発でどうだろうか?出来るだけ早く対処したい」
俺がそれで問題ないと伝えると、ライウッド侯爵は一人で食堂から出ていってしまった。
「もう…、慌ただしくてごめんなさいね。でも、これで男性の目を気にせずに話が出来そうだわ」
この食堂に女性しかいなくなったことで夫人は少しだけ饒舌になり、食後のデザートをゆっくりと食べながら、話に花を咲かせた。
話の内容はもっぱらファッションや美容で、たまに社交界やアリシアさんの通っている王都の学園についても話してくれた。
案外アリアもリリーも、ファッションの話についていけているようで、びっくりした。俺は話の半分もわからないので、聞き手に回っている。
どのくらい話していたかはわからないが、欠伸を噛み殺した俺を目敏く見つけたリリーが会話を切り上げて、3人で客室へ戻った。
客室へ戻っている途中で眠気が限界になってしまい、最後はリリーにお姫様抱っこで抱えられ眠ってしまった。
ご飯を食べて眠くなるなんて…。やっぱり精神はそのままでも、身体は子供になってしまっているみたいだな…。
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抱えられた主人の寝顔を凝視する従者二人
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