第27話 侯爵邸

 もうすぐで門に辿り着くだろうというタイミングで、門から大勢の騎士や兵士がわらわらと出てきた。

 一人の騎士が俺達の馬車に気付いたようで、こっちに駆け寄ってくる。


 「お、おいお前たちさっきの冒険者だろ!?隊長はどうした!?馬車に乗っているのか!?」


 隊長、というのは後ろから追いかけて来ている騎士のことだろうか?

 騎士は鬼気迫るといった表情でアリアに詰め寄っている。


 「あの騎士なら馬車には乗っていないぞ」


 「なっ…!」

 「あぁ…、そんな…!」

 アリアが誤解されそうな台詞を返すと、騎士の悲痛な声と同時に女の子の悲鳴が聞こえた。

 声を聞くまで気が付かなかったが、騎士の後ろに黄色い髪をした女の子が侍女に支えられるようにして立っている。

 う~ん、間違いなく勘違いさせちゃってるな…。


 「はぁ、はぁ、やっと追いついた…」

 隊長と呼ばれた騎士がやっと追いついて来たが、鎧を着たまま走っていたためか汗が止まらない様子だ。


 「隊長!?」「ロジェ!?生きていたのですか!?」

 汗塗れで姿を現した騎士を見て、二人だけじゃなく周りの騎士や兵士も驚いている。おそらくみんな、この騎士が死んだものだと考えていたのだろう。  


 「ただいま帰りました、アリシア様」

 そう言って、騎士はニカリと笑った。




 感動の再会を終えたところで、騎士が俺達のことを説明してくれた。


 「アリシア様、こちらの方々の助けが無ければ、私も生きて帰れなかったでしょう。そういえば自己紹介がまだだったな、私はロジェ。ライウッド侯爵家に仕えて、今はアリシア様の護衛を任されている」


 「わたくしはアリシア・ライウッドと申します。私からも、護衛を救ってくれたことに感謝を。そして、見捨てたことに謝罪致します」


 「君達を置いて逃げろと指示したのは隊長である私の判断だ。全ての責任は私にある。もし、責めるなら私だけにしてもらえないだろうか」


 謝罪も十分してもらって、アリアもリリーもそれなりに落ち着いているようだし、俺としてはもう気にしていない。

 これ以上の謝罪は不要だと伝えると、二人ともほっとした表情になった。


 「それにしても、あれだけのオークをものともしないとは。かなりの高ランク冒険者パーティーだとお見受けするが……」


 やっぱり、この風体だとどうしても冒険者に見られてしまうみたいだな。

 冒険者ではなく旅をして回っているだけだと言うことを伝えると、ならば是非屋敷に泊まってもてなさせて欲しいと言われてしまった。


 大勢の騎士や兵士に見られているし、断れるような空気でも無かったので、了承することにした。


 アリシアさんの乗る馬車を先導に街の中を進んでいき、大きな屋敷が見えてきたと思えば、近づけば近付くほどにその大きさがはっきりとしてくる。

 で、デカい……、あのガルド辺境伯の屋敷よりもずっとデカいぞ。これが王都近くに住む貴族の屋敷か。


 巨人でも通るのかと思うような大きい門を抜け、まだまだ進んでいくとやっと玄関扉が見えてきた。

 玄関の前にはたくさんのメイドや使用人が控えており、中心には壮齢の男性と、同じくらいの年齢の女性が寄り添うようにして立っている。


 「お父様!お母様!」

 馬車が止まるな否や飛び出したアリシアさんが、中心にいる男女に抱き着いた。

 お父様とお母様…ってことは、あの人達がここの当主と夫人なのかな?


 「アリシア、良かった…。オークに襲われたと聞いた時は生きた心地がしなかったぞ」

 「おかえりなさいアリシア、無事で良かったわ」

 アリシアさんのご両親が、アリシアさんを宝物を扱うようにしっかりと抱き返す。

 確かに、娘があんなモンスターに襲われたなんて聞いたら、気が気じゃなかっただろうな……。


 俺達も馬車から降りると、男性は首を傾げた後、アリシアさんに俺達のことを聞いた。


 「聞いて下さいお父様!この方達が私達をオークから救ってくれたのですよ!」

 娘の話が簡潔過ぎて理解できないのか、今度は詳しく事の顛末をアリシアさんから聞くと、ロジェさんに確認を取った。


 「間違いありません、フレデリック様。私の力不足でアリシア様を危険に晒してしまいました。申し訳ございません」


 「そのことは後で話し合うことにする。今はまず、そちらの恩人達を饗すことにしよう、娘からの希望でもあるしな。おい、この方達を客室に案内してさしあげろ。不便のないようにな」





 メイドに客室へ案内された後、「湯浴みはどうされますか」と聞かれたので、ありがたく頂くことにしたのだが、湯船がとんでもない大きさだった。ガルド辺境伯邸の風呂も相当だったが、軽く倍はある大きさだ。


 入る時に世話は必要かとメイドに言われたが、アリアとリリーが丁重にお断りしていた。


 そして、いつものようにアリアとリリーにしつこく体を洗われた後、湯船に浸かってしっかり体も温まったので脱衣所に行くと、そこには何故か大勢のメイドが待ち構えていた。


 「奥様から身の回りのお世話を仰せつかっておりますので、私達にお任せ頂きますようお願いします」


 脱衣所に入ってきた俺達へ一斉にメイド達が群がり始めるが、アリアとリリーは俺の世話を自分たちでやりたいらしく、俺のことを死守している。


 アリアとリリーの意を汲んでか、メイド達が俺から手を引いて二人が俺の体を拭き始めると、今度はメイド達からダメ出しが飛ぶようになった。

 やれ拭き方がなってない、やれ櫛の通し方が雑だと言われ、二人が怒るかと思いきや、熱心にメイド達の言う事を聞きながら俺の体をいじくっている。


 なんでも、従者としての技術を身に着けるいい機会、だそうだ。


 やっとのことで解放され、用意されていた服に着替えると、アリアとリリーだけじゃなく、周りのメイド達からも褒めそやされてしまった。

 元男としては嬉しいのか、悲しいのか、なんだか複雑な気分だ。


 その後、二人もメイド達に囲まれて揉みくちゃにされていた。


 「素材が大変よろしかったので、私達も熱が入りすぎてしまいました。大変申し訳ございません。そろそろお食事の準備も出来ますので、客室でお待ち下さい」


 世話が終わるとあれだけいたメイドがそそくさと出ていってしまったので、俺達は大人しくお呼びがかかるまで客室で寛ぐことにしたのだった。







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スズ「一人で洗えるし拭けるんだけどな…」

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