第30話 菓子店
前話の内容を改変しています。
運べなかったワイバーンはスズのインベントリへ収納したことになりました。
行き当たりばったりですみません。
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「さぁ!早く行きましょうスズさん!」
玄関の前に止まった侯爵家所有の豪奢な馬車に乗って、アリシアさんが目をキラキラさせながら、俺達を手招いている。
事の発端は昨夜、俺達がワイバーン討伐から侯爵邸に帰り、侯爵家の皆さんと夕食を食べている時のことだった。
これからの予定を尋ねられたので、街を観光して回るつもりです。と答えると、アリシアさんが街を案内したいと申し出てきた。
ライウッド侯爵、夫人ともに娘には甘いらしく、これを二つ返事で了承。俺としても否やはないので、ありがたく受け入れた。
「アリシアさん、まずはどこに案内してくれるんですか?」
早速馬車に乗り込んだ俺達は、貴族向けの
「アリシア」
「え?」
「アリシアって呼んでくれませんか?その、折角同い年ですし、王都の学園ではそういう間柄の友人がいなかったので…。ダメでしょうか?」
そういえば、一昨日の夕食の時に王都の学園はギスギスしてるって言ってたな…。
減るもんでもないし、こっちとしても仲良くなれるのは嬉しい。
「いいですよ、私のこともスズと呼んでくれて構いません」
「本当ですか!?……ありがとう、スズ」
頬を少しだけ赤くさせたアリシアが、照れながら俺の名前を呼んだ。
「よろしくね、アリシア」
「はい!あ!アリアさんとリリーさんも呼び捨てでいいですからね!」
ついでにアリアとリリーに、俺も呼び捨てでいいと提案したら、恐れ多いですと言って断られてしまった。う~ん、まだ様付けからは逃れられないみたいだ。
そんな会話をしているうちに、目的の場所に着いたようで馬車が止まった。
「ここは……菓子店?」
馬車から降りて目の前にあったのは、カラフルな店構えをした菓子店だった。
正面のガラス窓から菓子類が覗き、周囲には焼き菓子のいい匂いが漂っている。
「お気に入りの店なの!お茶をするときはいつもここのお菓子を使っているのよ?」
さっさとアリシアが店に入ってしまったので、続いて俺達も入ると、店員がアリシアに気付いたのか、オーナーを呼んできますと言って裏に走っていってしまった。
「お待たせ致しましたっ。これはこれはアリシア様、いつもご贔屓にして頂いて感謝の極みでございます。本日はどういったご用件でしょうか?いつものクッキーでしたらお取り置きしておりますので、すぐにご用意出来ますが…」
「私の友人にお土産を買ってあげたいの。だから、ここのお菓子をそれなりに纏めてくれる? あと、折角だからここでも食べていくわね」
「それは丁度いい、新商品のケーキが出たばかりなのです。是非召し上がっていってください。ご友人には当店選りすぐりの物を集めてまいります」
この店には喫茶店も併設されているらしく、買ったお菓子をそこで食べていくことも出来るそうだ。
オーナーに貴族用の個室席に案内され、しばらくすると店員がケーキをワゴンに4つ載せて運んできた。
「こちら、ミコイを使った新作のショートケーキでございます。自信作ですので、是非お召し上がり下さい」
運ばれてきたケーキは、薄いピンク色をした柔らかそうな果物が載ったショートケーキだった。
ケーキの中ほどにも、スポンジケーキに挟まれた果肉が見える。
「じゃあ、えっと、頂きます」
ケーキにフォークを入れて口に運ぶと、どこかで食べたような味だ。
こっちの世界の果物なんて食べたことないはずだが……。あっ、ガルド辺境伯のところでもらった甘い飲み物だ。こういう果物だったのか…。
それにしても、かなり美味しい。スポンジもしっかりしているし、生クリームも滑らかだ。普通の料理だけじゃなくて、菓子作りもそれなりに発展しているんだな。
「美味しいですね」
「ええ、さすが私の見込んだ店ね」
「お口に合ったようで安心致しました」
領主の愛娘となると緊張も一入なのか、オーナーはあからさまにホッとしたような表情を見せた。
「そろそろ次の場所へ行きましょうか」
ケーキを食べ終えて30分ほどゆっくりした後、アリシアが他の場所へ向かうそうなので、お暇することにした。
「当店の売れ筋を集めた自慢のお菓子です。日持ちしやすい物を選びましたので、ゆっくりお楽しみください」
「ありがとう。代金はいつも通り侯爵家宛に請求しておいて」
「かしこまりました」
帰り際に渡された大きな箱には、ここのお菓子が大量に入っているらしい。インベントリに入れれば日持ちも関係なくなるし、王都に行く前にケーキ類も買っておいてもいいかもな。
「お土産ありがとう、アリシア。お礼と言っちゃなんだけど、どうぞ」
お土産のお菓子をもらったお礼に、インベントリから板チョコを取り出す。
これはゲームのバレンタインデーイベントのドロップ品で、大量に余っていたものだ。
「なんですか?これ」
不思議そうに板チョコを見つめるアリシアに、こうやって食べるんだよ、ともう一枚取り出して食べてみせる。
「!! 美味しい!甘いけどほんのり苦みもあっていいですね、初めて食べました。どこで買われた物なんですか?」
アリシアの質問に少し戸惑ってしまったが、買ったものではなく貰った物なので、俺も知らないと答えてなんとか誤魔化すと、アリシアは露骨にガッカリした表情になった。
でも、喜んではもらえたみたいだ。さすがに料理が発展しているとはいえ、チョコはまだ開発されていないらしい。
渡した板チョコを一枚ペロリと食べてしまったアリシアが、もじもじとこちらを見てくるので、どうしたのか聞くと、両親にも食べてもらいたいので、もう何枚か貰えないかという事だった。
ええ子や…。外に出しておくと溶けてしまうので、侯爵邸に帰ったらいくらでも出してあげると返すと、嬉しそうにお礼を言ってくれた。
「そういえば、次はどこに向かってるんですか?」
「次はきっと楽しいところですよ!実はずっと連れていきたいと思ってところがあるんです!」
期待を隠せないのか、アリシアは次の目的地に着くまで終始ソワソワしていた。
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