第24話 直談判
「お~い!帰ったぞ~!」
村に戻ってきてエドさんが村の皆に手を振るが、血まみれの包みを抱えているせいで村人からドン引きされてる。
「エド!ゴブリンはどうなった、それになんだその包みは」
「聞いてくれよ村長、集落に行ったらゴブリンキングが生まれてたんだ。もう終わりかと思ったが、それをこのアリアさんがバッサリとやってくれたのよ。で、これがその首ってわけだ」
エドさんが包みを置いて中身を見せると、凶悪な顔をした生首がゴロリと転がった。
「ひぃ!?」
集まってきていた村人達が悲鳴を上げて後退りする。
「な…ゴブリンキングまで…。ますます貴方がたには頭が上がりませんな。逃がしたまま放置していたらどうなっていたか…。ですが、これがあれば領主様へ嘆願しに行けそうです。今日はもうお疲れでしょう、部屋を一つ用意しておりますので、どうぞお休み下さい。食事の準備が出来ましたら、お呼びいたします」
村長の家の一部屋に案内された後、いつものように扉をアバタールームに繋げて体を休ませる。
ついでに風呂へも入っておこう。森に行って汚れたのもあるが、死んだゴブリンから出る独特な臭いが体に染み付いている気がする。
気がつくと、ベッドの上で明日を迎えていた。
なんでも湯船に浸かったまま寝てしまった俺を、リリーとアリアが慌てて湯船の中から救出してくれたらしい。なんだか最近寝てばっかりな気がするな…。
食事のために呼びにきてくれた村の人はリリーが対応してくれたそうだ。
面倒をかけてすまないと二人に謝った時に、むしろありがとうございます、と言われたのが気にかかるが、まぁいいだろう。
外に出た瞬間、とんでもない悪臭が鼻を突いてきたので、思わず袖で鼻を覆う。
「ごめんなさい、酷い臭いよね。今ゴブリンの死体を焼いているの」
シリィさんが、鼻を覆って顔を顰めている俺を見て、臭いの原因を教えてくれた。
ゴブリンって焼くとこんな臭いがするのか…。あの時に山火事を恐れてリリーに火属性魔法を使わせなかったのは正解だったかもしれない。
悪臭に耐えている俺を気遣ってなのか、依頼を取り下げに行くのでアバンまで付き添って欲しいと頼んできた。俺としても明日にはアバンを発たなくてはいけないので、好都合だと了承した。
村長も、領主への嘆願をするために付いてくるようだ。
アバンの冒険者ギルドに着いてから、シリィさんが依頼の取り下げとゴブリンキングが生まれていたことを、担当していた受付嬢に報告した。
「大変申し訳ありません。当ギルドとしての力不足を謝罪致します」
「いえ、あの時は私も言い過ぎたわ。村の危機で余裕が無くなっていたの、ごめんなさいね」
最初ここに来た時はシリィさんにばかり注目してしまっていたが、改めてギルドの中を見渡すと、老若男女様々な年齢層が依頼を受けているようだが、武器や防具を身に着けている武闘派はほんのごく一部だ。
ガルドにいた時は実感できなかったが、武闘派が減っているというのは本当らしい。
「平民が先触れも無しに会えるわけがないだろう。私からロアール様に伝えておく、そのうち遣いの者が村に行くだろうから、その時にまた来るんだな」
村長とシリィさんを連れて、ここの領主をしているという貴族に嘆願しに行くと、門前払いされてしまった。
まぁ正直これは予想していたことだった。関所を通る時の門番の態度といい、やはり貴族と平民には大きな隔たりがあるようだ。
「そのうちでは困る!食料だっていつまで持つかわからないんですよ!」
「黙れっ!騒ぎ立てるなら今からお前達を拘束したっていいんだぞ!」
う~ん…、これでは埒が明かないな。うまくいくかわからないが、一か八かやってみるか。
「あの、すみません。こういう者なんですけど、領主様に話を通してもらえませんか?」
ダメ元でガルド
「そちらの方々だけ訪問を許可するそうだ。失礼の無いようにな」
村長さんとシリィさんに許可は下りず、俺達3人にだけ許可が下りたようだ。
門番に案内されるがまま屋敷に入ると、今度はメイドにバトンタッチしてそのまま応接間に案内された。
「はじめまして、勲章を持つ少女。僕はロアール・ウルク子爵だ。何か話があるそうだね?」
ガルド
「スズと言います。こっちがリリーとアリア。今日はナハ村の支援金について話しに来ました」
「スズというんだね、まぁ座ってくれたまえ。話はそれから聞こうじゃないか」
勧められるがままウルク子爵と向かい合うようにソファに座るが、リリーとアリアは座らずにソファの後ろへ控えるように立った。
なぜ座らないのか聞くと、このままでいいとしか言わない。その時に、俺達以外にも壁際に立っている人が何人かいることに気付いた。
話す当人以外は立ってなきゃいけない感じなのか…?
二人が立っていることにウルク子爵も何も言わないので、軽く断りを入れてからナハ村についてのことをウルク子爵に話した。
「ゴブリンキングねぇ…、なんとも信じられない話だが本当なのかい?」
「本当です。私達が実際にゴブリンの集落へ行って倒して来ましたから。その証拠にゴブリンキングの首も持ってきています」
「持ってきているって言ったって…、見たところ何も持ってないないようだけど…」
見せたほうが早いだろうと、許可をもらってから部屋の空いたスペースにインベントリから取り出した首をゴロリと落とす。
正直なことを言うとインベントリには入れたくなかったが、ここまで運んでくる手段が無かったので、事前に入れてからアバンへ来たのだ。
「な…、確かにこれを見せられたら信じざるを得ないね。わかった、支援金の件は前向きに考えよう。そこで、僕からもお願いがあるんだが…」
「なんですか?」
貧乏くじを引いたか?貴族からのお願いなんて絶対ロクなもんじゃないぞ。
「冒険者なんて辞めて僕のところで働かないか?それなりの待遇は保証するつもりだよ」
「申し訳ありません。今は旅の途中なので、どこかに留まるということは考えていないんです。あ、それと私達は冒険者じゃないですよ」
どこかの下について働くってのは、まだあんまり考えて無いんだよな。
これで折れてくれればいいが…。
「そう…、残念だけどしょうがないね。話はこれで終わりかな?」
ウルク子爵は折れてくれたようで、俺達はメイドに案内され屋敷の外に出た。
屋敷の前で待っていた村長とシリィさんに、中でのことを報告すると安心した様子でお礼を言ってきた。
その後二人はナハ村へ帰って行き、俺達は折角来たんだからと、しばらくアバンを見て回ることにした。
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ロアール・ウルク子爵side
「欲しい…!あのスズという少女は是が非でも欲しいぞ!おい、尾行は付けてあるんだろうな」
スズ達が出ていったのを確認すると、ロアールは豹変したように目を血走らせて部下に確認する。
「ロアール様、ですが危険では?あの辺境伯が勲章を渡したということは、相当の手練れと見て間違いないかと。あのゴブリンキングの首を見たでしょう?ここは一旦手を引いて…」
「うるさい!父上がいない間は僕がここの領主なんだぞ!黙ってあの少女をバレないようにここに連れてこい!」
ロアールは大声を上げて部下の提案を却下すると、自室に戻ってしまった。
「それに、後ろに控えていた二人も相当なものだったな、捕まえたらかなりの値が付きそうだ」
ロアールは舌なめずりをしながら、頭の中で少女を弄ぶ妄想に浸っていた。
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首は気持ち悪かったので村長に返しました。
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