第23話 ゴブリンの集落

 「リリー、アリア。ゴブリンを殲滅するぞ。俺とアリアはゴブリンの殲滅、リリーは村人の救助を優先してくれ」


 二人がしっかりと頷いたのを確認してから、村の中へ飛び込む。

 腰のホルスターから二丁拳銃を抜いて、今にも村人へ殴りかかろうとしているゴブリンの頭を背後から撃ち抜くと、頭が破裂したように抉れた。

 え、予想以上に弱いな、これでも一番弱い弾薬なのに。

 だが、弱いに越したことはない。さらに、都合よく今の銃声で他のゴブリン達の意識がこちらに向いたらしく、周辺のゴブリンが俺達の方に駆け出して来ているのが見えた。



 360度どこからでも襲ってくるゴブリンの頭を的確に撃ち抜きながら進んでいくが、一向に終わりが見えない。もう何十体倒したのか覚えてもいないぞ。


 「ダメだ、これじゃキリが無い。二手に分かれよう、アリアはそっちを頼む」


 「ですが、それではスズ様をお守りできません」


 「こんなやつらにはやられん、大丈夫だ」


 「…了解しました。すぐに片付けてスズ様の元へ戻って参ります」

 そう言うとアリアは、残像が見えるほどの速さでゴブリンの群れに突っ込んでいき、すれ違うゴブリンを撫で斬りにしていく。


 アリアが突っ込んで行った方向とは逆にいるゴブリンを、淡々と殺していく。

 よく見るとゴブリンにも多少の知能があるらしく、グギャグギャと鳴きながら会話のようなものをしている。


 武器も、簡易的ではあるものの弓矢や棍棒、先端に石を括り付けた槍など、意外と文明を感じさせる。極稀に錆びた金属製の武器を持っているゴブリンもいるが、恐らく拾ったか、人間を襲って奪ったものなのだろう。


 まるで作業のようにゴブリンを撃ち続けて数十分、やっと目に見えてゴブリンの数が減ってきたところで、形成が逆転したのを察したのか、背を向けて撤退するゴブリンが出てきた。

 このまま逃がしてもいいが、また集落を作られても厄介だろう。逃げていくゴブリンに容赦なく弾を浴びせていき、ついに最後の一体の頭を撃ち抜いたところで、やっと村に静寂が訪れた。



 「終わりましたかね、スズ様」

 ゴブリンを狩り終えたアリアが横に並ぶ、リリーはまだ怪我人の治療で忙しいようだ。

 回復魔法がこの世界でも機能するかはわからなかったが、無事に怪我人を治せているあたり、その心配は無さそうだ。


 「リリー、大丈夫か?」

 「スズ様。ええ、大丈夫ですよ。MPにも余裕があります」


 「失礼、少しよろしいですかな」

 話しかけてきたのは、白い髭を生やした老人で、横にはシリィさんが立っている。


 「私はここナハ村の村長をしてるもので、キハールと申します。シリィに聞きましたが、冒険者でもないのに助けに来てくれたとか。それに、治療までしていただいて、感謝の念に堪えません。何のお返しも出来ませんが、せめてゆっくりして行ってください」


 村長の言うように、一度一休みしたいところだが、いかんせんそうはいかない理由がある。

 さっき念の為レーダーを確認すると、ゴブリン達が逃げて行こうとした先に赤い点があった。どうやら、襲ってきたゴブリンが全てではないらしく、集落にもまだ残っているのだろう。このまま放置すれば、いずれまた同じことが起きてしまう。そのことを村長に伝えると、ゴブリンの集落を最初に発見したという狩人を連れてきてくれた。


 「エドだ、よろしく頼む。村の存続に関わることだし、手伝わせてくれないか。足手まといかもしれないが、集落の近くまで案内する程度のことは出来る」

 エドさんは、背中に弓矢、腰に短剣を差したまさに狩人といった出で立ちだ。


 日が完全に落ちる前に終わらせたほうが良いだろうとエドさんも俺も考え、そのままの足でゴブリンの集落へ向かうことにした。



 エドさんが先導しながら森を進んでいくと、遠くに開けた場所が見えた。

 音を立てないように少しずつ近付くと、簡易的な掘っ立て小屋が、いくつも並んでいて、多数のゴブリンが行き交いしていた。

 小屋は大きな犬小屋程度の大きさだが、子供程度の背丈しかないゴブリン達にはあれで丁度いいんだろう。


 だがその中心に一際大きく、村に建っている家と遜色ないかそれよりも少し大きい家が目立つように建っていた。


 「まだこんなに残っていたのか…、それにあのデカい家はもしや…」


 「なんなんですか?アレ。一際大きいですけど…」


 「恐らくゴブリンキングだろう。あんな風に大きな家を建てさせて貢物を持ってこさせるというのを聞いたことがある。この目で見たのはこれが初めてだが…」


 詳しく話を聞くと、ゴブリンキングというのは、ゴブリンの中で稀に生まれてくる変異種らしい。魔物の中にはこういった変異種が生まれる個体が多く、そのほとんどが通常の個体よりも戦闘力や知能が上がっており、中には人語を話す個体も出てくるそうだ。


 「1ヶ月という期間にしても、襲ってくるゴブリンが多すぎると思っていたんだ。ゴブリンキングが生まれていたということなら、納得がいく。ゴブリンキングはA級でも手こずる相手だと聞く、いけそうか?」


 A級でも手こずるってことは、アレクさん達でも油断出来ない相手ということか。

 これは今まで通りとはいかないかもしれないな。


 「エドさんはここで待っていて下さい、後は私達でやります」


 「お、おい、本当に大丈夫なのか?ここまで連れてきた俺が言うのも変な話だが…。一先ず脅威は去ったんだし、戻ってまたギルドに依頼するという手もある。ゴブリンキングとなれば、領主も動いてくれるかもしれん」


 「折角ここまで来たんですから、最後までやらせてください。私としても中途半端だとモヤモヤしてしまうので。リリー、火…はマズいな、風属性魔法で小屋を片っ端から壊してくれ、出てきたゴブリンは俺が処理する。アリアはゴブリンキングが出てきたら相手を頼む」


 「了解です」「お任せを」


 リリーがゴブリンの家々に風の刃を放つと、異変に気づいたゴブリンが続々と家から飛び出してくる。中にはそのまま切り刻まれたり、家の倒壊に巻き込まれてそのまま生き埋めになっているゴブリンもいる。


 出てきたゴブリンを俺とアリアが漏れのないように倒していく。

 しばらくすると、一際デカいあの家から、通常のゴブリンの倍以上もあろうかという巨大なゴブリンが、のっそりと顔を出してきた。あれがゴブリンキングなのだろう、手には大きな丸太を棍棒のように握りしめている。

 この騒ぎの原因が俺達だと察したのか、ゴブリンキングは憤怒の表情を隠そうともせず、棍棒をめちゃくちゃに振り回しながらこちらに走ってきた。


 「スズ様、下がっていてください。ここはお任せを」

 「あぁ頼んだぞ、アリア。いざとなれば俺も手を貸す」


 俺が鼓舞すると、アリアはニヤリと笑って歩き出し、ゴブリンキングと相対するように立ち止まった。

 背の高いアリアといえど、あくまで人間基準、それも女性の中ではの話。こうしてゴブリンキングと比べて見れば、その違いは一目瞭然だ。


 ゴブリンキングがアリアに狙いを定めて、大きい丸太をアリア目掛けて振り下ろした。

 打ち据えられる衝撃を覚悟して、グッと身を強張らわせるが、一向に叩きつける音がしない。

 不思議に思ってゴブリンキングを凝視すると、丸太が中程ですっぱりと斬られ、先端部分が地面に落ちていた。そのほんの数瞬後、突然ゴブリンキングの肩から腰にかけて斜めに傷が入り、その傷に沿うようにゴブリンキングの上半身がずり落ちて、真っ二つになってしまった。


 いつの間にか剣を抜いていたアリアが剣を振って血を落とすと、こちらに振り返った。

 「弱いですね、スズ様の手を借りるまでもない」



 自分たちの長がやられてパニックになったゴブリン達は、何もかも投げ捨てて逃げ出し始めた。一匹も逃さないようにレーダーを確認しながら慎重に倒していたが、数匹のゴブリンが射程外まで逃げてしまっているのに気付いた。


 仕方ないか…。

 俺はインベントリからDMRマークスマン・ライフルと呼ばれる長射程用の武器を取り出して構える。この銃は現実にあるような無骨なデザインとは違い、おもちゃのようなカラーリングをしているが、威力は折り紙付きだ。


 この銃は、弾薬を必要としない代わりにMPを消費して撃つことのできる銃だが、消費量が激しくMPの少ないガンスリンガーでは、あまり連発が出来ない。

 ただ、撃ち漏らした数匹を倒す程度なら何の問題もない。

 スコープを覗き込み、照準を合わせて引き金を引くと真っ赤な弾丸が発射され、ゴブリンを撃ち抜く。


 ついにレーダーから赤い点が消えたことを確認したので帰ろうとした時、エドさんがゴブリンキングの首を持って帰りたいと言い出した。

 なんでも、討伐証明が出来れば領主に掛け合って支援金が出る可能性があるようだ。今回の襲撃で倒壊した家もあるそうだし、駄目になってしまった食料も出ているようで、その補填に当てたいらしい。


 持って帰るのは問題ないので了承すると、エドさんは喜々とした顔で首を切り落とし、どこからか見つけてきた大きな布に包んで、しっかりと抱きかかえた。


 「よし!じゃあ行こうか!」

 首を持って帰れるのが余程嬉しいのか、エドさんは満面の笑みを浮かべながら村へ先導してくれた。






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 最近サボり気味ですみません。

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