第22話 救援

 「うわ!」

 俺が目を覚ますと、リリーとアリアが俺の寝顔を覗き込んでいてギョッとしてしまった。

 なぜ寝顔を見ていたのか聞くと、可愛らしい寝顔でしたよ、と返ってきたので、それ以上は聞かないことにした。


 代わりに今何時かと聞くと、もう昼前ですよ、言われてしまった。

 自分で思っていたよりも馬車旅の疲労が溜まっていたようで、いつもよりも寝てしまっていたようだ。




 「乗合馬車まであと2日ありますが、それまでどうしますか?」

 「まずは冒険者ギルドに寄って換金してもらおう。昨日宿賃を払った時に確認したら路銀が心許なかったからな」


 大量のゲーム内金貨があるのに、ガルドの冒険者ギルドでまとめて換金しなかったのは、持っている金貨があまりにも膨大だったからだ。

 一つの場所で持っている金貨を大量に換金してしまうと、金の価値そのものが暴落してしまう可能性があるので、立ち寄った街で少しずつ換金していこうと決めたのだ。


 冒険者ギルドに行くため、街の中心に向かう。

 昨日クララさんに場所を教えてもらっていて良かったな。俺達では街を彷徨っていたかもしれない。




 「だーかーらー!!それじゃ遅いって言ってるのよ!!」

 冒険者ギルドに入った途端、女性のけたたましい声が聞こえてきた。

 どうやら一人の女性が受付に怒鳴り散らしているらしい。

 リリーとアリアも少し顔を顰めている。


 「ですから、今この街には最高でもC級ランクの方しかいないんです。年々武闘派は減少傾向にありまして…」

 「それは一ヶ月前も聞いたわよ!この一ヶ月で高ランクの冒険者を呼ぶなりなんなりしてくれれば良かったでしょう!?」



 受付で換金の申請をするついでに、叫び散らしている女性のことを受付嬢に聞くと、女性の住む村の近くにゴブリンが集落を作り始めたため、村が襲われる前に討伐して欲しいと1ヶ月前に依頼したものの、音沙汰が無いので乗り込んで来たらしい。

 ゴブリンか…。


 俺が受付嬢に話を聞いていると、叫んでいた女性がこちらに目を向けて近寄ってきた。

 「ねぇ!ねぇねぇ!あなた達強そうじゃない!私の依頼を受けてくれない!?」


 「スズ様から離れろ。それと俺達は冒険者などという小間使いではない。他を当たれ」

 アリアが俺の前に出て庇いながら突き放すが、女性はなおもめげずに懇願してくる。


 「この際冒険者じゃなくてもいいから助けてよ!お門違いだって私もわかってるわよ!でも、しょうがないじゃない。領主からしたらあんな小さな村なんてあっても無くても一緒なんだから、兵なんて出してくれないに決まってる…。もう、他に当てがないのよ…。お願い、助けて…」


 初めは勢いのあった女性だが、段々と勢いを失って最後には泣き出してしまうと、ガードしていたアリアが困ったようにこちらを見てきた。

 仕方ないか…。


 「村って、ここから近いんですか?」

 「…!すぐそこよ!今から出発すれば日が落ちる前に着くわ!」

 余程時間が惜しいのか、俺の言葉に早口で即答してきた。


 「なら、早く行きましょう」

 「助けてくれるってことで良いのよね!?北門に馬車を待たせてあるの、こっちよ!」




 北門について馬車に乗り込むと、女性は少し落ち着いたようだった。


 「ギルドでは取り乱してごめんなさいね、どうしても、この一ヶ月気が気じゃなくって…。私シリィ、御者をしてくれてるのは夫のハラン。本当にありがとう、この恩は一生忘れないわ」


 「い、いえ、まだ助けたわけじゃありませんから。えっと、スズと言います。こっちの二人がリリーとアリア」


 泣いているシリィさんが見ていられなくて、安請け合いしてしまったが大丈夫だろうか?

 ゴブリン自体はC級二人でも討伐できることが乗合馬車の一件でわかっているが、受付嬢の言い方からするに、ゴブリンの集落を潰すとなるとC級では荷が重く、B級以上でないと難しいと受け取れる。

 でもこっちは、A級でないと活動が難しいあの森の獣を余裕を持って倒せるんだ。なんとかなるだろう。



 考え事をしていると、何か人の叫び声のようなものが聞こえてきた。

 「村の方だわ!ゴブリンが来たのかも知れない!」


 急いでレーダーを取り出すと、馬車が向かっている先には緑と赤の点が大量に入り混じっていた。

 赤はゴブリンとして、緑は村人だろうか?どうやらゴブリンが襲ってくる日は偶然にも今日だったらしい。


 「早く!急いでッ!」

 「言われなくてもわかってる!」

 シリィさんの叫び声に反応して、ハランさんが馬車の速度を上げる。

 ただでさえ乗り心地の悪い馬車が余計にガタガタと揺れて、体が浮いてしまう。

 とっさに横にいたアリアにしがみつくと、アリアは俺の腰に手を回してガッチリと固定してくれた。

 「危ないので捕まっていて下さい」

 舌を噛まないようにコクコクと頷いて返事をする。





 激しく揺れる馬車に耐えて村に着く頃にはすっかり酔ってしまったが、目の前に広がる光景を見て、一瞬で酔いが覚めてしまった。


 緑色の肌に、子供の背丈、そしてあらゆる部位がその攻撃性を現すかのように尖っている醜悪な顔。

 あれがゴブリンか…、間近で見たのは初めてだな。


 襲いかかってくるゴブリンに応戦する男達は伐採用の斧や農具を振り回すが、瞬く間に囲まれて対処出来ずに倒れていく。多勢に無勢だ。

 ゴブリン達がこじ開けようとしている家の中からは、子どもの泣き声が絶え間なく聞こえてくる。


 これが、ゴブリンの襲撃なのか。俺がもし、あそこで断ってたら…。



 「お父さん!」

 「ダメだシリィ!今行ったらゴブリンに殺されるだけだぞ!」

 急に大きな声がしてそちらに目を向けると、馬車から飛び出したシリィさんをハランさんが羽交い締めにして止めていた。



 「スズ様、ご命令を」

 リリーとアリアが、俺の言葉を待っている。


 あぁ、そうだよな。不安がっている場合じゃない。

 デカい街一つ救ったんだ、今更小さな村にビビっていられないよな。


 「リリー、アリア。ゴブリンを殲滅するぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る