第18話 ガルド辺境伯邸 1
招待状を受け取った翌日の昼。サテライト・レイのCDが終わり、万全の状態になった俺は、事前に風呂で身を清め、さらに所持していたコスチュームの中から、黒と紺色の混ざったドレスを選んで着ている。
アリアとリリーにもドレスを勧めたところ、アリアはいざという時に動けないと困るからという理由で断られてしまったので、リリーにだけ純白に金の装飾が入ったドレスを着てもらった。
ガルド辺境伯側でドレスを用意してくれているのだから、わざわざ着なくても良いのではとも考えたが、ゲーム内のドレスがどうなっているかも確認したかったので、ちょうどいい機会だろうと着替えてみたのだ。
実際、取り出したドレスは前にいた世界でも見たことがないくらいに綺麗で、俺が着ると、ドレスに着られているという表現がピッタリなくらいだ。
「よくお似合いですよ、このまま私と結婚式でも挙げましょうか?ほら、ちょうど純白のドレスを着ていますし」
「おいリリー、今聞き捨てならないセリフが聞こえたが?」
リリーとアリアのじゃれ合いを聞いていると、ドアをノックする音が聞こえたので、返事をするとヘルガさんが何か焦った様子で呼びかけてきた。
「ちょいとスズちゃん!表に領主様から迎えが来てるよ!?一体どうしたんだい!?」
そういえば溢れのことも、宿に迎えが来ることも、招待状のことで頭がいっぱいでヘルガさんに言ってなかったな…。ヘルガさんには悪いことをしてしまったかもしれない。
「すみません!今開けます!…あっ」
急いでドアに向かおうとしたせいで、スカートの裾を踏んづけて前につんのめってしまった俺をリリーが支えてくれた。
「ゆっくり歩きましょうね、スズ様」
「ああ、ドレスなんて着慣れて無いからな。そうするよ」
リリーに支えられているうちに、アリアがドアを開けてヘルガさんに対応してくれたようだ。
「すみません、ヘルガさん。伝え忘れてましたが、今日は領主様から招待されているんです。驚かせてすみません」
「まぁ!なんだいその綺麗なドレスは!まさか本当にお嬢様だったとはねぇ…、びっくりしたよ」
ヘルガさんにお詫びを言ってから、転ばないよう慎重に階段を降りて1階へ行くと、ピシリと背筋を伸ばしたグレイヘアの綺麗な老人が、宿の入口に立っていた。
俺達を見て、一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐに表情を戻してこちらに歩み寄ってきた。
「スズ様、リリー様、アリア様お待ちしておりました。まずはカードを拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」
インベントリからカードを取り出して手渡すと、納得したように一度頷いてから懐にしまった。
「申し遅れました。私、シリウス様の家令を務めているヴィクターと申します。以後、お見知りおきを。では、馬車を待たせておりますので、そちらにお乗り下さい」
馬車の前まで来ると、ヴィクターさんが馬車の扉を開けて横から手を差し出すが、そこにアリアが割り込んで先に馬車へ乗り込んでしまった。
「スズ様、問題ありません。お手を」
アリアの行動に何の反応もしないヴィクターさんに軽くビクつきながら馬車の中に入ると、アリアと向かい合うように座る。後から入ってきたリリーは俺の横に座った。ヴィクターさんは御者をするようだ。
「それでは出発しますので、しばしお待ち下さい」
馬車が出発する直前に、扉に嵌められている窓から外を見た時に、ヘルガさんがこちらを見ていたので軽く手を振った。
ガルド辺境伯邸の大きな門を潜って、屋敷の扉の前まで来るとヴィクターさんが到着を知らせてくれた。同時にアリアが素早く馬車から降りて手を差し伸べてきたので、その手を使ってゆっくりと降りる。
俺達が全員降りたのを確認したヴィクターさんが扉を開けると、大勢のメイドや使用人達が俺達を迎え入れてくれた。
「まずは客室へご案内致しますので、そちらでお待ち下さい。それと、ドレスは不要ということでよろしいでしょうか?」
「はい、折角用意していただいたのにすみません」
「いえいえ、お気になさらないで下さい。こちらとしても、そのようなドレスはご用意出来ていなかったので、お恥ずかしい限りです」
貴族を相手に恥をかかせるのはマズかったか?と思いながらも、客室へ案内され待っていると、今度はメイドが案内してくれるようで、そのまま応接室へ直接向かうことになった。
応接室のドアの前まで来ると、メイドがノックする。
「シリウス様、お客様をお連れしました」
返事もなしにドアが開いて、ヴィクターさんが出迎えてくれた。
ソファへどうぞ、と言われたので応接室に入ると、なぜかそこには見覚えのある老人がすでに一人用のソファにどっかりと座っていた。
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すみません、長くなりそうなので2回に分ける予定です。
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