第14話 魔物

 う、動かない、もしやまたか…?

 目を開けてちらりと右を見ると、案の定アリアが俺に抱き着いている。

 だが今日はそれだけじゃないらしい、逆を向くとリリーが俺の腕を抱き込みながら寝ていた。


 「ふふっ」

 寝ているリリーを観察していたら、リリーが突然笑い出した。

 「リリー、起きてるなら離してくれ」

 「もう少し、もう少しこのままで…」

 リリーはそういうと、俺の腕をより一層抱き込んで二度寝を決めてしまった。

 参ったな…、まぁいいだろう。俺もまだ眠れそうだし、二度寝するとしよう。




 どれくらい寝ていたのかはわからないが、俺が起きる頃にはリリーとアリアは起きて着替えを済ませていた。

 どうやら服を着たままではあの変身能力は使えないらしく、着ていた服は俺に返してきた。ゲームでの、従者は消費アイテムしか持てない、という仕様がここでも生きているようだった。


 「今日はどうされますか?」

 「また街を回ろうと思う。昨日だけじゃ全然回れなかったからな」

 昨日街を回っただけでもそれなりに楽しかったが、あれでも街のごく一部だって話だからな、まだ見てない場所がいっぱいあるだろうし、グレンさんからの見返りを決めるためにもこの世界のことをもっと知らなきゃいけない。


 アバタールームを出た後、元々あった部屋はどうなってるんだろうと思い、検証すると、アバタールームに入ることを意識しながらドアを開けることがトリガーになるようだった。あの時、風呂に入ることを強く意識していたせいで、偶然トリガーになったのか…?そもそも、ドアのある場所ならどこでもアバタールームへ行けるんだろうか?

 

 それにしても、不思議なことが多すぎてあまり驚かなくなってきたな…。





 検証を終えて宿の1階へ降りて行くと、ちょうどアレクさんとミアさんが朝食を食べているところだった。

 「スズさん、おはよう」

 「おはようございます」

 アレクさんが挨拶してくれたので返したが、ミアさんは相変わらずツンとしている。

 

 朝食か、今は昨日と違って懐も暖かいんだし、折角だから食べて行こう。

 3人で空いているテーブル席についてから、備え付けの小さなベルを鳴らす。

 こうすることで給仕の人が料理を運んで来てくれるらしい、昨日アレクさんがやっていたのを見ていたので、間違いないはずだ。

 この宿の食堂にはメニュー表が存在せず、朝昼夕に毎日違う料理が割り当てられるそうだ。メニューが無いのにも関わらず、ここの料理が人気なのはその日替わりメニューが美味しいからだそうだ。実際、昨日食べた朝食は文句なしに美味しかった。


 料理を待っている間、昨日から気になっていたことをアレクさん達に聞いてみる。

 「アレクさん達はやっぱり森が目当てでこの街にいるんですか?」

 「そうだね、うちのパーティーはみんなこの街出身だから、自然と森に挑む冒険者に憧れるんだよ。まぁ護衛依頼で他の街に行くこともあるけどね」


 「憧れ?」

 「そう、憧れ。この街の子供はみんな親や親戚に未知を探求する冒険者のことをお伽噺みたいに聞かされるんだ。だからみんな一度は冒険者に憧れるんだよ。まぁ、ほとんどが現実を知ってガッカリするんだけどね」

 まぁ確かに、憧れていた職業がただの何でも屋だって知ったら、ガッカリもするだろうな…。

 「でも、俺達みたいに憧れの冒険者になるやつもそれなりにいるんだ。森の外周部を越えて中間層に行けるパーティーなんて、この街に俺達竜剣を含めて3パーティーくらいしかいないんだよ」

 アレクさんが自慢げにそう語るが、それよりも気になることがあった。


 「3パーティー?そんなに少ないんですか?冒険者ギルドにはたくさん人がいましたけど…」

 俺達が初めて冒険者ギルドに行った時、あそこにいるだけでも軽く50人はいたはずだ。なのに、森の奥へ行けるのがたった3パーティーなんて…。

 「それは中間層に行けないってだけで、外周部でもそれなりに稼げるからね。それに、街の中で依頼をこなす冒険者もいるし、護衛依頼なんかでも外の冒険者が入ってくるからね。 そういえば、スズさん達は冒険者にならないの?リリーさんやアリアさんならすぐにA級に上がれると思うよ」


 アレクさんが冒険者になることを勧めてくれるが…、う~ん…。

 正直、俺も冒険者の実情を聞いた後だとあんまり惹かれないんだよなぁ…。

 あ、そうだ。

 「街を出たこともあるんですよね?他の街の冒険者ってどんな感じなんですか?」

 「ここよりは武闘派の冒険者は少ないね、でもそれなりにはいるよ。護衛や討伐依頼はどこにでもあるしね」


 さっきから護衛って単語をよく聞くけど、この世界ってそんなに治安が悪いのか…?

 「あの、護衛依頼って何から守るんですか?強盗なんかが頻繁にいるんでしょうか?」

 「まぁ野盗なんかもいることにはいるけど、主に魔物から守る感じだね。討伐依頼も似たようなもんだよ」

 魔物…?森にいる獣とは違うんだろうか…?


 「魔物ってなんですか?」

 俺が率直な疑問をアレクさんに投げかけると、アレクさんだけじゃなく、ミアさんまでこちらを信じられないような目で見ていた。


 「アンタ、魔物も知らないの…?世間知らずもいいとこね…」

 ミアさんの呆れたようなセリフに、アリアが目を鋭くしたのを見て、なんとか宥める。


 「魔物ってのはゴブリンとかオークのことだよ。本当に知らない?」

 ゴブリン!?オーク!?なんでそんなファンタジー御用達のモンスターの名前がここで出てくるんだ。

 「まさかなんですけど、もしかしてドラゴンとかもいたりします?」

 「なんだ、知ってるんじゃ無いか。びっくりしたなぁ」

 いるのか…ドラゴン…!見てみたい、この目で…!





 そこからはすっかり上の空になってしまった。

 料理の味もわからないまま朝食を終えて宿の外に出ると、俺の足は知らず知らずのうちに冒険者ギルドの方に向かっていた。

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