第13話 アバタールームとお風呂
「はえ…?」
散策から宿に帰り、部屋に入ろうとするまではよかった。
だがドアを開けてみると、中に広がっていたのは今まで昨日まで泊まっていた部屋ではなく、床も壁も天井も、全てが真っ白い部屋が、そこには広がっていた。
何度か開けたり閉めたりを繰り返したが、何も起こらない。
埒が明かないので、恐る恐る部屋の中に足を踏み入れると、すんなりと中へ入れるようだった。
「危険です!」
アリアの警告にビクリとするが、予想に反して何も起こらない。
「大丈夫そうだぞ」
部屋の外で様子を窺っている二人に声をかけて安心させる。
「何なのでしょうかここは…?」
リリーが当然の疑問を呟きながら部屋に入り、アリアも続いて入った途端、ドアが独りでに閉まってしまった。
焦ってドアノブを握って開けると、何の抵抗も無く開いてくれたので安心した。
軽く深呼吸をしてから、白い部屋を見渡してみる。
本当に何なんだ…?この部屋は。模様替えでもしたのか?いやいや、家具はおろか物が一つもないし、それはないだろう。それに仮にしていたとしてもヘルガさんが教えてくれるはずだ。
でも、この真っ白い空間…どこかで見たような…。……!思い出したぞ!
「アバタールームだ!」
そうだよ!アバタールームだ!
「それって私達が暮らすためにスズ様が作ってくださった部屋ですよね?こんな白い部屋でも無かったですし、もう少し広かったような…」
「元々はこういう部屋だったんだよ。部屋を拡張してから、壁や床を変えたり、家具を置いたりして模様替えしていったんだ」
そうそう、この初期設定の真っ白い部屋を豆腐ルームなんて言って揶揄してたっけな。
もし、本当にアバタールームならドアの左側にコンソールがあるはずだ。
振り返ってドアの左側をよく見ると、ゲームで見慣れたコンソールが確かにそこに存在していた。
そのままコンソールに飛びついた俺は、画面を起動して模様替えのメニューを開いて、壁紙や家具の所持状況を確認した。
ある…!あるぞ!俺がゲーム内で、集めに集めたハウジング用の家具が!
よし、そうとなればやることは一つだ。
あれから時間も忘れ、模様替えをすること約2時間。
やっと納得の行く部屋が出来た。が、残念なことに部屋の拡張は出来なかった。
コンソールのどこを探しても拡張メニューが見当たらないのだ、項目があった場所は空欄になっていて、押してもうんともすんとも言わない。
この初期の若干狭い一部屋しか使えないが、それでも満足の行く出来になった。
壁と天井はアイボリー色にし、床はフローリング。
部屋の形状は正方形で、左側にはキッチンを置いた。これでいつでも料理アイテムの生成が出来るぞ。まぁ、こっちの世界で作れるのかはまだ試してないが…。
だが、この世界には無いだろうコンロが使えるのは大きい。
右側には…、どデカいキングサイズのベッド。
ベッドは一人に一つ欲しいだろうと思い、どこに置くか相談したところ「スペースが勿体ない」「スズ様にはキングが相応しい」など、予想以上に強く主張された結果、このデカいベッドを置く羽目になってしまった。
逆にスペース取ってないか?これ。
そして、なんと露天風呂を設置してしまった。
露天風呂としては小さいかもしれないが、大きさ的に5人は入れる湯船だ。
本来ならベランダに位置する場所ではあるが、露天風呂に変更する模様替えオプションを所持していたので、思い切って設置してしまった。
部屋が一つしか無いため、風呂を置くスペースが無いのだ。
だが、これで念願の風呂に入れるぞ…!
「さてスズ様、折角お風呂が使えるようになったんですし、早速入りましょうか」
「スズ様、背中を流すのは俺に任せて下さい」
リリーとアリアが一緒に入る気満々で、俺に風呂を勧めてくる。
「え、一緒に入るのか?」
ヤバい、忘れていた。風呂って裸になるんだぞ、俺だってまだ自分の裸を見てないのに、リリーとアリアに見せるのは恥ずかしすぎる。なんとか抵抗しなくては。
抵抗も虚しく強引に服を脱がされた俺は、バスチェアに腰掛け二人のなすがままにされていた。
「おいリリー、もっと早くしろ。スズ様のお体が冷えてしまう」
この世界にはシャンプーが無いために、リリーはじっくりと俺の髪を傷めないように優しく洗っているようだ。
「あなたこそ、雑に洗いすぎです。スズ様の柔肌に傷がついたらどうするんですか」
アリアは風呂に備え付けのタオルがあるにも関わらず「スズ様の肌を傷つけてしまう」と言って、何故か素手で俺の背中を洗っている。前も洗うか、と聞かれたのでそれは断固拒否した。
「ふぃー…」
久しぶりの風呂は気持ちいいな…。この体になっても、これは変わらないらしい。
リリーとアリアからやっと解放される頃にはどっと疲れていたが、いざ湯船に浸かれば、もうどうでもう良くなるな。
「気持ちがいいですね~」
「いい湯加減だな…」
自分の体を洗い終えたリリーとアリアが湯船に入ってきたのを見て、俺は湯船の反対側へ移動して目を逸らす。
うん、前言撤回だ。どうでも良くはない。あれは視界に入れちゃいけない。
反対側へ即座に移動した俺を不思議そうに見つめる二人を無視しながら、十分体を温めたところで、風呂から上がってベッドで休むことにした。
今まで着ていた服をそのまま着るのも嫌だったので、パジャマのコスチューム衣装をインベントリから取り出して着替えたところ、二人の目がギラギラしだした気がするが、気のせいだろう。うん。
従者用のコスチュームも持っていたので、二人にも色違いだが同じものを渡した。
俺が黒、リリーが白、アリアが赤だ。
あとはどデカいキングサイズのベッドに三人で寝るだけだ。
二人に左右から抱き着かれたまま、うとうととした頭でこれからのことを考える。
この世界のこと、グレンさんの見返り、そして…どう生きていくか。
考えが纏まらないまま、気付けば眠ってしまっていた。
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話が進まない。
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